もっと詳しく

 WEC世界耐久選手権第1戦セブリングでのハイパーカー・デビューを終えて帰国、富士スピードウェイで3月22〜23日にかけて行われるスーパーフォーミュラ公式合同テストに参加している平川亮(carenex TEAM IMPUL)。公式合同テスト初日を終えた平川に、8号車トヨタGR010ハイブリッドを駆るデビュー戦で2位という結果を残したWECでの戦いの裏側、そして来るスーパーフォーミュラ開幕に向けた“現在地”を聞いた。

■「リスクを取るな」と言われる怖さ

 昨年12月に発表された、トヨタGR010ハイブリッドでのWEC最高峰・ハイパーカークラスへの参戦。そのシートが決まった時から、平川の頭は“セブリング”という5文字に支配されていた。

 2022年にWECが行われる6サーキット中、唯一走行経験がない。それだけでなく、コンクリートとアスファルトがミックスされた荒れた路面は世界にも類をみないバンピーさを持ち、これまで数々のベテランドライバーをも苦しめてきた。そんな難コースで迎える緒戦に対し、平川はシミュレーターテストや車載映像などで用心深く、準備をしてきたという。

 それでもセブリングで迎えた公式テストでの初コースイン、緊張はピークに達した。

「これ、走れるのかな? というくらい。跳ねるわ、砂は出てるわで、結構ビビりました」

「最初は1コーナーで30km/hくらい(チームメイトより)遅くて。最終コーナーも風向きとかで全然変わってきてしまうのですが、そこはミーティングで理解できるまでちゃんと話し合ったりして、やっていきました」

 チームのミーティングは「質より量、というくらい」多かったというが、ルーキーの平川にとっては、多くのスタッフ・ドライバーから意見が聞ける貴重な場ともなっていたという。

「自分でも不思議ですが、緊張はそんなにしなかった」という決勝ではタイヤを2スティント持たせることにも成功したが、自らの乗車直前に7号車のホセ・マリア・ロペスがクラッシュ。これには少し、動揺した。

「あれはなかなか、メンタル的に……。1回(映像を)見てしまったのですが、その後は見ないようにしました。ドライバー(ロペス)が大丈夫というのは聞いて、それは良かったんですが、その後コースに出て行ったら『数周は、あまりリスクを取るな』と言われたんです。そう言われる方が怖いですよね」

 その数周の後はタイムも高いレベルで安定し、平川自身も落ち着いて走れたようだが、BoP(性能調整)の厳しさをコース上で感じることになる。なかなか抜けないLMP2車両を前に、フラストレーションを感じたという。

 一方、コース幅の狭いセブリングでは、スーパーGTの経験も役に立ったようだ。

「あの(ロペスの)事故を見た後なので、トラフィックについてはより慎重にいきましたけど、すごい難しいという感じはありませんでした。たとえばSUGOとかのスーパーGTのレースの方が、難しい気がしました。セブリングがバンプが大きいのでブレーキングではガツンとは行けず、立ち上がりで抜くしかない。だから、メリハリをつけてやっていました」

 初のハイパーカーでのレースを「自分としてはちゃんと仕事ができたので、すごく良かった」と振り返った平川。オフのテストの間には、ハイブリッド車特有の回生ブレーキなどへの習熟に悩んだこともあり、不安要素も抱えながらの開幕だった。

「コースごとの特性もありますが、一発を出すカテゴリーではないというのと、クルマが重たくて大きい、だけどドラッグがないのでストレートはすごく伸びる──その感覚が、なかなかつかみきれない部分がありました。いまはもう、だいぶ分かってきたので大丈夫です」

 第2戦以降は走行経験のあるサーキットが舞台となるが、周到な準備がセブリングで功を奏したことを踏まえ、「それくらいの気持ちでスパも、ル・マンも臨みたいです」と平川は慎重な姿勢を崩していない。

2位表彰台を獲得したトヨタGAZOO Racingの8号車GR010ハイブリッドのドライバー。左から平川亮、ブレンドン・ハートレー、セバスチャン・ブエミ

■決勝の強さに加え、“予選一発”を目指すスーパーフォーミュラ

 金曜夜にWECのレースを終え、そのままフィジオセラピストとともにマイアミの空港へ。翌土曜朝発の飛行機に乗り、ニューヨーク経由で日曜の夜に帰国した平川は、月曜日には富士スピードウェイに入った。

「雪が降るとは思わなかったですね。セブリングは暑い時もあれば、寒いときもあって……ちょっと身体もびっくりしています。時差ボケですか? 今日も3時に起きましたよ」

 セブリング前、鈴鹿で行われた第1回の公式合同テストについて平川は、「最終的に収穫はありましたが、やろうと考えてやったことがあまり良くなくて戻る、みたいな繰り返しで。そういう意味でいうと、煮詰まっているのかなという感じはしています」と語る。

 今季から変更になったヨコハマのリヤタイヤの構造については、体感は「できない」としつつも、鈴鹿では自らを含め低速コーナーからの立ち上がりでスピンを喫したドライバーが多かったことを指摘した平川は、「寒かったこともあるでしょうけど、リヤの構造(の影響)な気もする」と述べている。

「ウォームアップは普通です。ただ、夏になったらタイヤがすべることによって、タレるかもしれない。でも、鈴鹿でもロングランができていないし、ちょっと分からないです」

 ストレートで負けずに戦える、レースでオーバーテイクがしやすいクルマを目ざして、昨年はかなり攻めたセットアップもしていたという平川とインパル陣営。今年もその方向性を継続するのかと尋ねると、「それをやりすぎて予選で前に行けなかった気もしているので、それもやりつつ(別のトライも)……という感じでしょうか」と言う。

「去年もレースで強いクルマを考えてやって、それが結果に出ている。それをやりつつも、予選でもうちょっと前に行きたいので、そこを考えてる感じです」

「僕は、ダウンフォース・レスの方向でいきたい。ただそこも風向きとか気温で変わってきてしまうので、あまり固定概念を持たず、いろいろと試してみて、いくつか(異なる方向性を)持っておけばいいのかなと思います」

 ドライコンディションが期待されるテスト2日目は、これまでとは異なるコンセプトのセットアップを試したいと語る平川。「細かい調整はレースウイークにすればいいので、テストではおおまかに変えて」いくことを考えているという。午前中のセッションで方向性が定まれば、午後には鈴鹿ではできなかったロングランをこなしたい構えだ。