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小さくて安くて豊富だけど…日本の宝「軽自動車」にディーゼルが無理なもっともな理由

 海外では一定の需要があるディーゼルエンジンですが、日本では、マツダ車のほかには、トヨタのランドクルーザーや三菱のデリカD:5など、一部のモデルに限られています。力強い加速と燃費のよさなど、ガソリンエンジンでは味わえない魅力を備えるディーゼルエンジンですが、国内シェア約40%を占める軽自動車には、ディーゼル車は1台もありません。

 ディーゼルエンジンの燃費のよさを考えれば、車重の軽い軽自動車に搭載されれば、燃費最強になるはず。乗用車はさておき、商用車や軽トラには、あってもおかしくないと思われますが、なぜ軽自動車にはディーゼル車がないのでしょうか。

文:Mr.ソラン、エムスリープロダクション
写真:SUZUKI、MAZDA、DAIHATSU、TOYOTA、MITSUBISHI、ベストカー編集部 
イラスト:著者作成

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軽トラでは過去に存在したことも

 現在、軽のディーゼル車は市販されていませんが、過去に1モデルだけ存在したことがあります。1958年に発売された排気量360ccの空冷V型2気筒ディーゼルエンジン(180cc/気筒)を搭載した、ヤンマーの軽トラック「ポニー」です。3年足らずの短命モデルでしたが、それ以降、軽規格の排気量660cc以下のディーゼル車は、市場に投入されていません。

 軽自動車ではないですが、比較的小排気量のディーゼル車はいくつか存在します。1981年に発売されたダイハツ「シャレード」は、993ccの直列3気筒ディーゼルエンジン(331cc/気筒)を搭載。当時「世界最小のディーゼル車」と呼ばれていました。また、日本市場ではないですが、2015年に発売開始されたインド専売車のスズキ「セレリオ」は、800ccの直列2気筒ディーゼルエンジン(400cc/気筒)を搭載しています。

 現在の国内市場における、ディーゼル乗用車の最小排気量は、マツダ「マツダ2」に搭載されているSKYACTIV-Dの1.5L直列4気筒ディーゼルエンジン(375cc/気筒)です。

 以上のように、60年以上の前のポニーを除くと、長い歴史の中で、小型ディーゼルエンジンであっても1気筒あたりの排気量は、300cc以上であることが分かります。それならば、2気筒で660cc未満の軽エンジンがあってもおかしくはないように思われますが、2気筒のディーゼルエンジンを日本市場に投入するのは、商品性の観点から非常に難しいのです。

 その理由は3つ、燃焼効率低下による燃費・排ガスの悪化、コストの上昇、そして振動・騒音の悪化です。

スズキがインド市場限定で2015年から投入している排気量800ccの直列2気筒ディーゼルエンジン搭載のセレリオ。インドの排ガス規制は、日本より緩いので商品化のハードルは低い

排気量が小さいと、燃焼効率が低下して燃費・排ガスが悪化

 ディーゼルエンジンは、基本的に大排気量に適したエンジンです。例えば、船舶用ディーゼルエンジンは、総排気量が2000万cc以上でボア(シリンダー直径)は1mを超え、人がシリンダーの中に入れるようなものも珍しくありません。こんなに大きくても、ディーゼルは効率よく燃焼させ、安定した運転ができるのです。

 一方で、排気量が小さい1気筒あたりの排気量が300cc、ボアでいえば70mm以下になると、軽油を効率よく燃焼させることが難しくなります。その理由は、ディーゼルエンジンの燃焼方式に起因します。

 ディーゼルエンジンは、高温になった圧縮空気中に軽油を噴射し、蒸発した軽油が燃焼室全域で拡散しながら自己着火する燃焼方式です。ボアが小さい小排気量エンジンでは、噴射した軽油がシリンダー壁面やピストン頂面に付着しやすくなります。その分、燃焼効率が低下して、燃費や排ガス性能が悪化してしまうのです。

 ボアとピストンストロークが同じスクエアエンジンを想定すると、2.0Lの4気筒エンジンのボアは約85mm。排気量660ccの軽自動車では、4気筒エンジンの場合は165cc/気筒でボアは約60mm、3気筒なら220cc/気筒でボアは約66mm、これだけボアが小さくなると、ディーゼルエンジンの燃焼効率は著しく低下します。

 ちなみにガソリンエンジンは、圧縮されたガソリン混合気に点火プラグの火花で着火し、火炎が燃焼室全域に拡がる火炎伝播燃焼。基本的には、高速型の小排気量に適したエンジンなのです。ボアが100mmを超えるような大排気量エンジンでは、火炎が安定して伝播し難くなるので、効率のいい燃焼ができなくなります。

コストアップが避けられない

 近年のディーゼルエンジンは、クリーンディーゼルと呼ばれ、噴射技術や排ガス低減技術が高度化し、燃費や排ガスが飛躍的に改善しています。しかし、国内のディーゼルエンジン搭載車のシェアは7~8%程度で停滞し、今後も人気が高まる気配はありません。

 その最大の理由は、ディーゼル車の価格が高いことです。頑強なエンジン本体、コモンレール噴射システム、後処理(排ガス低減)システムなどのコストが、ガソリンエンジンに対して15万~25万円ほど高く、特に後処理システムについては、ガソリンエンジンは比較的安価な三元触媒ですみますが、ディーゼルエンジンでは酸化触媒、DPF(ディーゼル微粒子除去フィルタ)、NOx低減触媒(通常は尿素SCR)が必要。乗用車ディーゼルでは、この後処理システムだけで10万円以上かかることもあります。

 軽のディーゼルエンジンでも、基本的なシステム構成は同じなので、エンジンが小さい分だけコストアップが抑えられるわけではありません。安さが売りであり、クルマ全体のコストが小さい軽自動車では、ディーゼル化によるコストアップ分の負担は、より大きくなってしまうのです。

振動・騒音の悪化が避けられない

 高圧縮比で過給しているディーゼルエンジンでは、燃焼時のシリンダー内の圧力が高いため、振動と騒音(燃焼音)はガソリンエンジンよりも大きくなります。クリーンディーゼルエンジンでは、噴射の自由度の高いコモンレール噴射システムを使って、燃焼が緩慢になるようにして振動・騒音を抑えています。それでもガソリンエンジンに比べると、振動と騒音の差は明らかです。

 ちなみに欧州のディーゼル車では、車室内に騒音が入り込まないように遮音性能を高めたり、エンジンを固定するエンジンマウントを改良して、振動・騒音を抑える対策を行っています。しかし、これはコストをかけられるクルマだからできるのであって、低価格の軽自動車ではそういうわけにはいかず、軽自動車にディーゼルエンジンがない理由のひとつとなっています。

どうせコストアップするなら、電動化が正解

 軽自動車にディーゼルエンジンを搭載することは、技術的なハードルが高いうえに、大幅なコストアップが避けられません。どうせコストアップするなら、より燃費(CO2)低減効果の大きな電動化が現実的な解であり、実際に軽自動車メーカーは、その方向に舵を切っています。

 近く登場する予定の日産&三菱のバッテリーEVや、ダイハツロッキーハイブリッドに搭載されたe-SMARTハイブリッドの軽自動車版など、そうした方向に進んでいくのが、軽自動車の近い将来像でしょう。

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