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 騒音被害の防止、燃料の節約、排出ガスの削減……、大型車のアイドリングストップはもはや当たり前になった。いっぽうトラックドライバーが口を揃えるのは、真夏のアイドリングストップが地獄だということだ。

 ドライバー用の待機室・休憩所を用意する倉庫や物流施設も増えてはいるが、まだまだ少数。さらにコロナ禍で外部のドライバーは待機室の使用が禁止されたという声も聞く。

 職場での熱中症予防を呼び掛けている厚労省は、今年も5月から9月まで「クールワークキャンペーン」を実施する。業種別の熱中症死傷者数でワースト3に入る運送業では、4月の準備期間中に予防に向けた取組を進めることが重要だ。

文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部、表/厚生労働省


厚労省の熱中症予防キャンペーン

 厚生労働省は、職場における熱中症予防対策を徹底するため、5月から9月まで、令和4年の「STOP! 熱中症 クールワークキャンペーン」を実施する。また4月を準備期間、7月を重点取組期間とした。

 関係省庁や労働災害防止団体などと連携して、事業所での熱中症予防に関する周知・啓発を行なうほか、熱中症に関する資料やオンライン講習動画等を掲載するポータルサイトを運営する。

 周知・啓発に当たっては次のような項目を重点的に呼びかけている。

  • 熱中症発生時に速やかに適切な対応を行うために必要な「初期症状の把握から緊急時対応までの体制整備」
  • 熱中症の発症リスクの高い作業者に対応するために必要な「暑熱順化が不足していると考えられる者の把握」
  • 熱中症を発生させないために必要な「WBGT値の実測とその結果を踏まえた対策の実施」

 トラックドライバーなど運送業の労災防止団体である陸上貨物運送事業労働災害防止協会(陸災防)もキャンペーンの主唱者に含まれている。厚労省によると運送業は、建設業、製造業に次いで熱中症による死傷者数が多い業種だ。

トラックドライバーを地獄に突き落とす「アイドリングストップ」 熱中症予防に早めの準備を!!
2017~2021年累計の熱中症による業種別死傷者数(厚労省「クールワークキャンペーン」添付資料より)

 各事業所には準備期間中(4月)に、WBGT指数計の備え付けと測定準備、暑熱環境下における作業計画の策定、緊急時の対応の確認などの取組を進めるよう求めている。

トラックドライバーと熱中症

 2021年の運送業の熱中症による死傷者数は59人で、その内1人が亡くなっている。この数年間と比較すると減少したが、酷暑が増えているせいか、10年間の発生状況を見るとほとんど減っていない。

 特に大型トラックでは、騒音防止やCO2・排出ガスの削減のためにアイドリングストップを求められることが多い。ドライバー曰く、炎天下にエンジンを止めて冷房が効かないトラックの車内は『地獄』となる。

 また、厚労省によると運転中に熱中症を発症し、交通事故につながった事例もあったという。

 重点項目に含まれているWBGT値=暑さ指数は、熱中症予防のためにアメリカで考案された指標で、気温、湿度、輻射熱などの数値から計算する。測定にはJIS規格適合のWBGT指数計が市販されている。

 最近は天気予報でも従来の「高温注意情報」に替わって「熱中症警戒アラート」(環境省・気象庁)が伝えられているが、「危険」(WBGT値31℃以上)、「厳重警戒」(WBGT値28℃以上)など、WBGTの予測値が基準になっている。

 2021年の熱中症による死亡災害20件のうち、WBGT値の実測が行なわれていたのは5件のみ。実測されないことで危険が認識されず、基準値に応じた措置が講じられないことも考えられるので、実測して危険を「見える化」することも重要だ。

「アイドリングストップ」という地獄

 トラックマガジン「フルロード」では毎年のように猛暑のエピソードを募集しているのが、ドライバーから多く寄せられるのは、やはりアイドリングストップの話題だ。

 中にはエンジンを切って炎天下の車内で4時間の待機を求められるなど、非人道的ともいえる扱いをされることも……。

 以下、酷暑の労働環境が少しでも改善することを願って、フルロード第42号の「トラックドライバー通信」から、ドライバーの声を紹介する。

●ゆでさん

 アイドリングストップと書いて「修行」と読む。または「虐待」と読む。こう思っている人は私だけではないですよね。世界中が総力を上げて環境保全に取り組むのは素晴らしいと思うけど、「これって環境保全を騙ったパワハラじゃね?」と思うゆでです。

 環境には優しいけど人間には厳しい。ドライバーの待機室がある倉庫なんて少ないし、「待機室はないけどエンジン切ってね! 当たり前だよねー」な空気を出す荷主様に、運転手として言いたい!

 「環境保全は大事やけど、人間保全も大事やぞ!」。

 せめて日陰に避難するくらいは許容してください。以前暑くてヘッドから降りていたら、「こんな大きいトレーラ置いたまま離れられたら困る」と文句を言われたことがあるんですよね。見える位置に居たのに……。

 彼等にとっては運転手より荷物のほうが大事なんだろうけど、それを運ぶのは人間やぞ!

 このアイドリングストップという荷主様のエコアピールのために、毎年何人のドライバーが倒れているのかと思うと泣けてきます。それでもドライバーは荷主様には逆らえません。

●ひろしさん

 「猛暑の夏の過ごし方」? 一言でいえば、それは「我慢」です! あとは夏の猛暑に耐えうる「忍耐力」です。これ以外に夏を乗り越える対処方はありません。

 正直にいうと、430や休息時間のアイドリングストップは無理です。そんな事したら、体力回復もできず事故の元になります。

 最近はディーラーからはオプションで「蓄冷クーラー」なども発売されていますし、荷主先では待機時に「アイドリングストップ厳守」がルール化されている現場も多いです。

 ただ、いわせていただきたいですが、ディーラーオプションの蓄冷クーラー、新車時に新品取付けして数年は使えるのですが、そのうち壊れますね。まぁ電気製品なので寿命がありますし、ディーラーオプションだから壊れやすいとかいう事ではないと思いますが……。

 壊れないにしても、近年の連日30度を越える日が続く過酷な環境下だと、車内は冷えません。「若干涼しいかな?」ってレベルです。クルマのエアコンと同レベルを求めたらキツいですねー。

 ちなみに僕のクルマにも蓄冷クーラーは搭載されています。すでに壊れていて、温い風しか出てきませんけどね。貴重なベッドスペースに、横幅100cm、奥行き10cm程度の、壊れた蓄冷クーラーが無駄に鎮座しています。

●D.K.さん

 年々猛暑が酷くなる中、熱中症は誰にでも起こりうる危険であり、炎天下での荷役や、無慈悲なアイドリングストップを求められる運転手は、そのリスクが高いと考えられます。

 社会的な課題はいろいろあるかもしれませんが、最終的に自分の身は自分で守るしかありません。

 私はバッテリーを内蔵した扇風機を愛用しています。USB給電式で、車内にUSBソケットさえあれば電源が取れます。直径が約16cmと一般的なUSB扇風機より大径で、それだけ多くの風を送ることができます。固定はクリップ式なので、車内のどこにでも固定することが可能です。

 運転中に回しておけば車内の空気を循環してくれて、エアコンがよく効きます。特にハイルーフ車は頭の上に熱気がたまりやすく、そこを循環してやるといつもよりエアコンを弱めにしても、快適に過ごせます。

 そして何より、アイドリングストップ中でも内蔵バッテリーで動作するのが重宝です。夜に付けて、風速「中」で朝まで動き続けています。

 トラックのキャビンは両側の窓を開けても案外換気が悪いらしく、特に寝台までは風が届きません。この扇風機の風は、か細いようで、それでもあるとないでは雲泥の差です。

 ちなみに私が買った大手ECサイトA社では2788円(送料、消費税込み)でした。業者の廻しもんじゃありませんよ~w

●幸恵さん

 今年、念願の「空調服」デビューを果たしました! ブ~ンってファンの回る音をさせながら毎日膨らんでます(笑)。

 うちの会社はアイドリングストップを徹底していて、かなり昔から蓄冷クーラーと蓄熱マットを装備しています。昔の蓄冷クーラーはベッドのみになんとなく涼しい風が出る程度だったですが、今はかなり性能が良くなっているみたいです。

 ボルボに乗っている知り合いの運転手さんに「6時間くらいやったらエンジンかけんでも蓄冷だけでバリバリ冷えるよ~!」って聞いてびっくりしました。そんなに効くなら全然アイドリングストップできますよね!

 実は3年前の夏に、炎天下での積込み作業を終え、出発してすぐにエアコンが壊れてしまったことがあります。会社に連絡しましたが、フェリーの当日乗船ってこともありどうにもならず、とりあえずそのまま走っていたんです。

 窓開けたって温風が入ってくるだけで体温が全く下がらず、小鼻の辺りがピリピリしてきて、飲み物は水しか無い。塩分補給する物も持ってない。おまけに時間に追われてお昼ご飯も食べていませんでした。

 症状はどんどん悪化していき、片側一車線の峠を登り始めた時には、もう手足が痺れてきました、呼吸もしづらくなってきて、「ヤバい、峠越え切る自信がない」と思っていたら、なんとかトラックを停められる場所があったのでそこに停車して、上手く動かない手で119番して、救急車で病院に運ばれました。

 「ヤバい!」と思ってからは、あっという間のことでした。なんで体が痺れるのか救急隊の方に尋ねたら「塩分不足です」って言っていました。その時に塩分補給の大事さを改めて痛感しました。

●ヒロさん

 2012年7月18日の出来事です。この日は、静岡県西部にあるベッドメーカーの工場に、40ftの輸入コンテナを持って行きました。本来、都内の倉庫に持って行く予定だったんですが、そこが火災に遭って、急遽、最終的な納品先であった工場に持って行く事になったようなんですね。

 朝から快晴で、最低気温が25.1℃、最高気温が31.8℃と、こんなような日でした。着指定時間は朝9時で、予定通りに作業が始まったんですけど、その瞬間から「エンジン切って!」なんて言われ、暑さとの戦いが始まりました。

 「取りあえず寝てしまえ!」って事で、ハンドルに足を上げて寝てみたものの、30分くらいで汗ダクになって目を覚まします。いや~、こりゃムリだ。

 ヘッドから降りて、近くにあった木陰に……。座って涼むってよりは、「あしたのジョー」状態でグッタリしていると、現場の人間から「そーゆーのヤメてもらっていいですか? クルマの中で待っててください」なんて言われ、灼熱のヘッドの中に強制送還されました。

 何もしなくても汗が出てくるし、ウチワで扇いだ所で涼しくなるワケでもなく、ありゃーキツかったです。結局、作業が終わったのは昼の12時。

 太陽がカンカン照りの中、3時間も灼熱の車内に居る事を強いられましたから、現場を出る時なんてフラフラな状態。「この会社のベッド、ゼッテー買わねーぞ! このヤロー」なんて思ったもんです(笑)。

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