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 突然ですが「あなたはご自身の愛車に何年乗るのが理想ですか?」と質問されたら、十人十色とさまざまな答えが出てくるだろう。クルマの存在も多様化が進んできているなと思う今日この頃、日本の自動車業界団体である日本自動車工業会(自工会)がちょっと驚きの提言を出してきた。

 それは「クルマの保有年数を今の平均15年から10年に短くすれば、クルマの売れゆきが6割アップする」というものだ。それにより日本の景気もよくなるといったかなり大胆にも思える提言ではあるが、違和感も感じるこの提言の真意はどこにあるのか? また日本のクルマ税制の問題点にも突っ込み、果たして日本のクルマ寿命の適正値について検証してみたい。
 
文/諸星陽一、写真/自工会、トヨタ、三菱、Adobe Stock

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■現在の日本での平均保有年数は15年 ?

 2022年1月27日に行われた日本自動車工業会の記者会見で、豊田章男会長は日本の自動車産業がさらに発展するためには保有期間の短縮が効果的だという発言をしました。

 会見で提示されたグラフには新車から廃車までの期間を保有期間としていましたので、新車で買ってそのクルマがワンオーナーで乗られているという意味ではなく、1台のクルマが日本で乗られ続けている(登録され続けている)という意味となります。クルマの保有期間は年々長くなっていて、現在日本での平均保有期間は15年ということです。

日本車の平均保有期間が15年から10年になった場合、年間300万台の市場拡大となるとの提言。しかし、日本車が邁進してきた「耐久品質の高さ」がブーメランとなって返ってきた結果にも見える

 一方、新車を購入した人がどれくらいで乗り替えるかというデータ(自工会発表)を調べたところ7.1年での乗り替えが平均値となっていますが、グラフを見ると最もボリュームがあるのが7年以上10年未満で32%、次が10年超で29%という値でかなり長くなっています。

 とはいえ、このデータを算出した母数は1853台と日本全体での自動車保有台数を考えるとちょっと少ない気がします。

■クルマの長寿命化はクルマ産業発展の妨げになる⁉ 豊田自工会会長発言の真意は⁉

 豊田章男自工会会長が言う「クルマの保有サイクルを短くすれば自動車産業が発展する」ということは、至極当たり前のことでわかりやすい内容です。豊田氏は自工会会長、トヨタ自動車代表取締役社長、クルマ好きでレーシングドライバーのモリゾウと代表的な3つの顔を持っていて各々に異なる立場で発言することがあります。

さまざまな立場から提言を出さねばならない豊田章男氏。自工会会長、企業経営者としては「早く買い替えて!」だろうが、モリゾウとしては「愛車を大切に!!」だろう。その心境はいかに

 おそらくモリゾウの立場で発言すれば、10年で廃車などということは言わないのでしょう。これが豊田氏のちょっとズルい部分でもあるのですが、プライベートなクルマ好きの立場になっても10年で廃車してしまえばいい……という人よりはずっと好感度があります。

 さて、読者のみなさんはどれくらいでクルマを乗り替えているでしょうか? 筆者は免許を取得して30年になりますがまだ5台しか所有したことがありません。今乗っているクルマは結婚前から妻が所有していたもので、初度登録後29年、私が乗り始めて16年になります。

 ADASも何もなく、税金も高いので乗り替え時期ではあると思いますが、機械としての基本部分は何ら問題なく、乗り続けることができます。豊田氏はクルマは愛が付き「愛車」という単語があると語ったことがありますが、愛しているクルマなら7年で手放しているのはちょっと残念な気がします。

クルマの長寿命化とともにクルマ自体のモデルチェンジサイクルも徐々に長期化している。今は6~7年が普通か。写真の「デリカD:5」も16年目に突入したものの、当面は現役だ

 愛しているなら最期まで添い遂げるくらいの気概は欲しいと私は思うのです。愛しているのに「次の愛車は○○です」って何だか言葉として変じゃないすか? 余談ですが、私は「愛車はなんですか?」と聞かれた時は「愛車はなく、所有車ならあります」と答えます。まあ、ひねくれているのですけどね。

■廃車となったクルマは解体され、リサイクルか海外へ輸出される運命

 廃車されたクルマはどうなる運命なのでしょう? 多くはふたつの運命です。ひとつはスクラップになる、もうひとつは海外に輸出される、です。

 SDGsという観点から考えると海外に輸出して、使い続けられることが理想に近いのですが、なんだか日本で使わなくなったものを海外に輸出するということがどこまで正しいことなのか? 疑問が残る部分もあります。

廃車スクラップとなるのか、中古車となって海外へ輸出されるのか? さらに昨今では25年以上の日本車が海外へ流出の事態も発生、車種によっては価値が爆謄中という新たな問題も抱えるようになった(beeboys@Adobestock)

 今、世界では古着の行き先が問題になっているとの報道をテレビで見ました。途上国に古着を輸出して、安い服が手に入るようになると、その国の繊維産業が低迷する。そして着られずに余った古着はゴミの山となってしまうというのです。

 こうした現象がクルマでも起きないとは限りません。また、日本で売れているクルマは軽自動車ですが、海外では軽自動車が規格や風土に合わないこともあります。そうなると軽自動車は行き場を失っていきます。

■現行自動車税で問題視される登録13年以降の重税措置。さらなる前倒しに繋がる危険性も⁉

 今、日本では古いクルマへの重税が問題視されていています。自工会も自動車関連税制への要望は出していますが、保有10年での買い換えを促進するには11年目からの税金を高くするなど、クルマを手放しやすくなる方策を考えなければならず、国民の多くが望んでいる13年目以降の増税廃止とは逆方向に向かうことになりかねません。

新車代替を促進するため? 新車登録13年後の車両は自動車税が割増となる自動車税。10年での買い換えを促進しようとする自工会の考え方でいけば、その重税がさらに前倒しという事態にも陥りかねない(kumi@Adobestock)

 今あるものを長く使うのは、実は長い目で見ればエコなのは言うまでもありません。いくらなんでも、初年度登録後10年でそのクルマの命が尽きてしまうのはちょっと早すぎる印象です。

10年で乗り替えよう! という考え方に基づいて現行ヤリスの10年前の同一車両と比べてみるとしよう。写真はヤリス1.5Z。ひと通りの安全装備が備わっているし、環境性能も向上している
ヤリスの10年前はヴィッツだった。初期型は自動ブレーキ等未装備だったが、そのほか使い勝手の面では今でも充分。単に10年超えたから買い換えてください! ではやはりもったいない気がする

 買い換えという面を見ても15年くらいは乗ってもぜんぜんいいように思います。家電は壊れると買い換えますが、クルマは壊れる前に買い換える人が多くいます。それは価値のあるうちに売ってしまって、次のクルマに乗り替えていくからなのですが、使い切るということも考えていいのではないでしょうか? 

 家電はあまり人に見られることがありませんが、クルマは人に見られるため、新しいものに乗っていたいということもあるかもしれません。しかし、それが必ずしも正しいということではないと思います。古いクルマに乗っていることは恥ずかしいなどという風潮こそ恥ずかしいと私は思います。

■国の思うツボにならず、ポジティブな新車販売促進策を考え、提案すべき時期だ!!

 国内でのクルマの販売台数を増やす方法はほかにいくらでもあります。まずは景気をよくすることです。景気がよくなってお金が回るようになればクルマを買う人は増えます。このコロナ禍のなかで、海外旅行などでお金が使えなくなった富裕層はクルマの買い換えなどに積極的なため高級車は売れていると言います。

ちょっと話はそれるが、現在の景気浮上の足かせになっているガソリン価格の高騰。このガソリンも二重課税により高額な税負担となっている。短期的には増税分の撤廃など、すぐにやるべきではないか?( picture cells@Adobestock)

 また、税金を安くすればクルマの買い増しも増えることでしょう。私は10年以上も前から重量税を廃止して定員税にするべきだと言ってきています。不要な多人数乗車モデルを減らせば、エネルギーの浪費を減らせます。1名につきいくら、という設定にして、税額は乗車定員×金額で算出します。それだけだと家族が多い家庭は税金が増えることになってしまうので、家族の数に応じて還付も行います。

かつて社会人になったらクルマを買おう!! という風潮があった。今は初任給では欲しいクルマは買えないという状況だ。減税策や若年層への金利優遇策等を進めているのも促進策にはならないか?(トラノスケ@Adobestock)

 さらに買い増し促進のために2台目以降は減税も行います。特に2台目以降の2シーターモデルなどは税金をグッと引き下げるようにすれば、販売は伸びることでしょう。何もミニバンやSUVで通勤や通学をする必要はなく、通勤通学なら2シーターでもいいのです。

 2シーターなら税金が安い……なんてことになったら、2シーターのクルマが増えますよね。そうなったら、スポーツカーが生き残るための大義名分になるじゃないですか。世界から「日本はスポーツカーがいっぱい走っている国なんだ。さすが自動車が主要産業の国だよね」と言われるでしょう。

新車が売れるには、まずは消費者がクルマに買おう!! というマインドに持っていくことが大事。自工会としても景気浮揚策として所得が増える政策をどんどん提言すべきではないか(トラノスケ@Adobestock)

 そしてそうしたことを実現するには、黙って指をくわえて国の言うとおりにしていたらダメです。まずは自工会として国会に議員を送りこんで、税制や免許制度、理不尽な交通取り締まりなどを変革しなければ実現しないでしょう。550万人の代表が国政に参加するべきなのです。

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