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うるさいですよね…宿命? なぜ最新型でもディーゼル車はガラガラ音を消せないのか?

 かつては、ノイジーで黒煙を吹き出して走っていたディーゼル車ですが、近年のクリーンディーゼル車は、酷いノイズは低減され、廃ガスもクリーン化されており、以前のネガティブなイメージは払しょくされつつあります。しかしながら、エンジン音や振動に関しては、ガソリン車と比較してしまうと、やはり大きいのが現状。

 なぜディーゼル車は、最新モデルでもガラガラ音がするのか、最新技術とともに、音の発生要因について、ご紹介します。

文:Mr.ソラン、エムスリープロダクション
アイキャッチ写真:写真AC_ Haru photography
写真:MAZDA、イラスト:著者作成

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音の違いは、燃焼方式と機構の違い

 排ガスがクリーンで静粛性も飛躍的に向上した、近年のクリーンディーゼル車。経済的でトルクフルな走りが得られることから、ディーゼル車には、根強いファンが存在します。しかしながら、冒頭でも触れたように、最新のディーゼル車であっても、音や振動はガソリン車のそれよりも大きく、ディーゼル車が敬遠される要因にもなっています。

 一般に、エンジンから発生する騒音全般を「エンジン音」と呼びますが、本稿で問題とするディーゼルエンジンの「ガラガラ音」や「ジャージャー音」などは燃焼(爆発)に起因するエンジン音なので、以下統一して「燃焼音」として表現します。

 ガソリン車とディーゼル車の燃焼音の差は、燃料の違いからくる燃焼方式と、それを成立させる機構の違いに起因します。

・火花点火による火炎伝播燃焼のガソリンエンジン
 ガソリン混合気を圧縮して、点火プラグの火花で火炎が拡がること(火炎伝播)によって混合気が燃焼。ガソリンは、蒸発しやすく火花を飛ばすと容易に着火するので、圧縮比はノッキングが発生しないように比較的低めの9~12に設定

・圧縮自己着火による拡散燃焼のディーゼルエンジン
 空気のみを圧縮して高温になった圧縮空気中に、高圧の微粒化した軽油を噴射、蒸発した軽油が拡散しながら自己着火して燃焼。燃料の軽油は、比較的低い温度でも自己着火するので、圧縮比は自己着火可能な高めの15~17に設定

ガソリンエンジンは、混合気を圧縮して火花点火で燃焼。一方のディーゼルエンジンは、空気のみ圧縮して高圧の軽油を噴射して拡散しながら自着火して燃焼(イラスト:著者作成)

圧縮比が高いことと急速に燃焼することが「うるさい」理由

 ディーゼルエンジンが、ガソリンエンジンに比べて、燃焼音や振動で不利な理由は、2つあります。

・高圧縮比の過給エンジンなので、シリンダー内の燃焼圧が上昇
 ディーゼルエンジンは過給エンジンでしかも圧縮比が高いので、燃焼(爆発)時のシリンダー内圧力が上昇します。燃焼圧が高いと、その分、燃焼音や振動が大きくなってしまいます。

・燃焼室全域で一気に燃焼するので、燃焼圧が上昇
 火花によって火炎が徐々に燃焼室全域に拡がる比較的緩慢なガソリンエンジンに対して、ディーゼルエンジンは噴射した軽油が燃焼室全域で一気に自己着火する急速な燃焼です。その分、燃焼圧力が高くなるので、燃焼音や振動が大きくなります。

 例えるなら、ディーゼルエンジンの燃焼は、ガソリンのノッキングのような現象が燃焼室全域で発生しているようなもの。そのため、ディーゼルエンジンはガラガラやジャージャーといった燃焼音が発生するのです。

ガソリンエンジンは、点火プラグの火花を起点に火炎が徐々に拡がる火炎伝播燃焼。ディーゼルエンジンは、燃焼室全域で一気に自己着火を起こす拡散燃焼

コモンレール噴射の登場で改善されたが…

 以上のように、燃焼音でガソリンエンジンより不利なディーゼルエンジンですが、最新のクリーンエンジンでは、次のような技術で燃焼音の改善を図っています。

・コモンレール噴射システムによる燃料噴射制御
 1990年代後半に実用化されたコモンレール噴射システムによって、燃料噴射の圧力、噴射時期、噴射回数を自在に制御できるようになりました。特に効果的なのは、1回の燃焼行程中に噴射を4~6回に分ける多段(マルチ)噴射で、燃焼を緩慢にしたことで、燃焼音が大幅に低減されました。さらに、高級ディーゼル車では高応答で噴射制御ができるピエゾ噴射弁を使って、さらなる排ガスと燃焼音の低減を図っています。

軽油を高圧ポンプで加圧してコモンレールに蓄え、噴射弁で燃焼室内に噴射。最大噴射圧は160~250MPaと高く、多段噴射によって燃焼を制御して排出ガスと燃焼音を低減(イラスト:著者作成)

・低圧縮比ディーゼルエンジン
 前述したように、現在のディーゼルエンジンは、圧縮比は15~17に設定されていますが、2000年頃までは圧縮比を下げると低温始動性が悪化するという課題があったため、圧縮比は18~20に設定されていました。これもコモンレール噴射や可変バルブ機構によって解決されたものです。ちなみに、マツダのSKYACTIV-Dシリーズでは、圧縮比は15以下と、低めに設定されています。

・遮音や吸音による車室内への燃焼音をシャットアウト
 燃焼音そのものの低減ではありませんが、近年のディーゼル車は積極的に吸音材や遮音材を多用して、遮音性能を上げています。具体的には、エンジンルームと車室間の隙間を塞いだり、各部位に吸音材を貼って音圧レベルを下げています。ただ、この遮音性能の強化が、ディーゼル車の価格が高い要因のひとつにもなっています。

 ほかにも、マツダのSKYACTIV-Dでは、「ナチュラルサウンド・スムーザー」というダンパーをピストンピンに内蔵して燃焼音を低減する手法を採用しています。これは、燃焼で発生するピストンの共振を抑制するのが狙いで、一定周波数(3.5kHz)の燃焼音を下げる効果があります。

燃焼方式が変わらない限り、静粛性でガソリンに勝つことは難しい

 このように、2000年以降に実用化されたコモンレール噴射システムなどの採用によって、ディーセルエンジンの排ガスと燃焼音は飛躍的に改善しました。

 しかしながら、ディーゼルエンジンが、高い圧縮比で自己着火燃焼をベースにしている限り、静粛性でガソリン車を上回ることは難しく、音と振動は、ディーゼルエンジンの宿命でもあります。

ディーゼルモデルが多い欧州でも、需要が減っている

 ディーゼルモデルが豊富な欧州でも、近年はディーゼルモデルの需要が減少傾向にあり、2010年頃まで50%程度あった欧州のディーゼル車のシェアが、最近は30%を切るレベルまで落ち込んでいます。高いエンジン本体コストに加えて、厳しい排ガス規制対応のための触媒などの後処理システムにコストがかかるためです。

 ガソリン車では味わえないトルクフルな走りが体感できるディーゼル車。カーボンニュートラルの流れのなか、今後どのような道を辿るのか、注目していきたいと思います。

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