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 大きな責任を担うF1チーム首脳陣は、さまざまな問題に対処しながら毎レースウイークエンドを過ごしている。チームボスひとりひとりのコメントや行動から、直面している問題や彼のキャラクターを知ることができる。F1ジャーナリスト、クリス・メッドランド氏が、2022年F1第1戦バーレーンGP、第2戦サウジアラビアで、アストンマーティンの新代表マイク・クラックの言動をウォッチした。

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 F1レースウイークエンドには毎回、大きなドラマを抱えているチーム代表がひとりかふたりいるものだ。2021年には、レッドブルのクリスチャン・ホーナーとメルセデスのトト・ウォルフの間にしばしば論争が巻き起こり、注目を集めた。

 2022年序盤は、昨年までとは少し状況が異なっていた。第2戦では10チームすべての代表が大きな問題を抱えていたのだ。彼らは、それぞれのドライバーたちをレースに出るよう説得しなければならなかった。

 そういう状況のなかで私が最も注目したのは、アストンマーティンのチーム代表に就任して間もないマイク・クラックだ。

 プレシーズンテストでのアストンマーティンのパフォーマンスからして、クラックが楽な状況に置かれていないことは明らかだった。そのうえ、開幕戦直前にセバスチャン・ベッテルがCOVID-19の検査で陽性となり、欠場しなければならなくなった。

 旧知の仲のベッテルとともに開幕を迎えることができなくなったクラックは、急きょ代役としてニコ・ヒュルケンベルグを乗せる準備に取り掛かった。急な出来事だったため、ヒュルケンベルグに合うシートも用意されておらず、バーレーンでノーポイントに終わったことも仕方なかったといえるかもしれない。

2022年F1第1戦バーレーンGP ニコ・ヒュルケンベルグ(アストンマーティン)
2022年F1第1戦バーレーンGP ニコ・ヒュルケンベルグ(アストンマーティン)

 第2戦サウジアラビアでクラックの状況が楽になったかというと、その逆だった。ベッテル復帰を望み、検査結果をぎりぎりのタイミングまで待ったチームだったが、結局陽性結果は得られず、引き続きヒュルケンベルグを走らせることになった。

「彼(ベッテル)はミーティングに参加し、アドバイスをくれた」とクラック。
「数日にわたって、復帰できるのか、それは無理なのか、彼の状況を見守った。常に情報交換をしていたのだ」

「だが、フライトや契約上の決まりなどの関係で、最終的に決断しなければならない締め切りがある。そして、決断するタイミングで、彼の準備はできていなかった。我々はニコでいくしかなかった」

2022年F1第2戦サウジアラビアGP ニコ・ヒュルケンベルグ(アストンマーティン)
2022年F1第2戦サウジアラビアGP ニコ・ヒュルケンベルグ(アストンマーティン)

 さらに金曜日の夜には、クラックは、レースを開催するかどうかの長時間にわたるミーティングに参加しなければならなかった。その日、サーキット近くにミサイルによる爆撃があったからだ。

 まずは、FP2前に、ドライバーたちを落ち着かせるための緊急ミーティングが行われた。さらにFP2後、現地22時から再び会合が実施された。ドライバーたちは予選・決勝を行うべきかどうかについて、4時間にもわたって話し合いを続けた。

 本来ならこの時間帯にチーム代表は、コース上のパフォーマンス改善に気持ちを集中し、土日のプランについてエンジニアの話を聞き、すべてがスムーズに進むよう調整しているところだ。就任して日が浅いクラックは、そういった手順にもまだ不慣れだったにもかかわらず、長時間の臨時ミーティングに参加し、通常の仕事に集中することができなかった。

「ドライバーが20人、チーム代表が10人で、合計30人だ。そうなると、ミーティングが長くなるのは普通のことだ」とクラックは言う。

「こういう時、皆の懸念に耳を傾けるのは非常に大事なことだ。家族や子供たちからも連絡が来るような状況だった」

「私も同じだ。妻と子どもたちから、『本当に安全なの?』と聞かれていた。そういう時だったから、さまざまな意見、さまざまな懸念を持つドライバーたちを尊重する必要がある」

「ああいう状況で、どんどん先へと進み、『君たちの言うことに耳を貸すつもりはない』などと言うのは間違ったことだ。そういうわけで、ミーティングが長くなった。だが最終的には全員のなかで、非常に良いコンセンサスが得られたと思う」

アストンマーティンF1チーム代表マイク・クラック
アストンマーティンF1チーム代表マイク・クラック

 金曜にミサイル攻撃を受けたのは、アストンマーティンのタイトルスポンサーを務めるアラムコが持つ施設だった。その困難な状況でありながら、クラックは非常にうまく対処し、信頼できる発言をしていた。

 F1関係者の全員が異常な状況に陥っているということを説明し、全員ができる限り適切な対応をするために努力していると、クラックは語った。

「我々はそもそもスポーツマンである。こういった状況に対処するよう訓練を受けた者はひとりもいない。それでも皆に対して話をしなければならない」

「だからプロとして、自分のチーム、このスポーツのために責任ある行動をとる必要がある。自分に可能なベストを尽くさなければならない」

 F1チーム代表として出席した最初の2戦には、数々の苦難に直面したクラック。今後は、アストンマーティンのマシンからベストのパフォーマンスを引き出すことに集中したいと考えている。