前回は、全日本運輸産業労働組合連合会(運輸労連)が行なっている「職場安全点検」アンケートから、物流の「2024年問題」を控える運送業の職場の実態に迫った。
2024年問題とは、働き方改革関連法により2024年4月1日からトラックドライバーなど「自動車運転の業務」に時間外労働の上限が課されることにより生じる諸問題を指すものだ。改革が進まなければ担い手不足による物流危機が現実のものとなる可能性がある。
職場環境の改善がゆっくりと進展するいっぽうで、トラックには安全運転を支援する先進技術が搭載されるなど安全で運転しやすいトラックの進歩は急速に進んでいる。トラックドライバーが勤務時間の大半を過ごす道路施設の安全性も、物流の担い手確保のためには不可欠な要素だ。
高速道路の制限速度引き上げにより時速80kmに制限される大型トラックと一般車の速度差が大きくなった。また近年は道路上での妨害行為(あおり運転)などの問題もクローズアップされている。プロドライバーは先進技術や道路における安全をどのように捉えているのだろうか?
文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部、表/全日本運輸産業労働組合連合会
調査について
運輸労連は「トラックの安全を守る全国行動」の一環として「職場安全点検」「ドライバーの安全運転を支援する先進技術等に関するアンケート」を2021年6月に実施し、このほど調査結果がまとめられた。
「ドライバーの安全運転を支援する先進技術等に関するアンケート」では、衝突被害軽減ブレーキなどの先進技術の状況、AT限定免許の増加に伴う自動変速機(AT/AMT)の必要性、高速道路のSA・PAにおける大型車用駐車スペースの不足などの実態を調査した。
また高速道路の制限速度引き上げによる速度差の拡大、散見されるトラックへのあおり運転の実態と原因などに関する調査も行なった。有効回答数は8308件だった。
先進技術とトラックの速度制限
衝突被害軽減ブレーキを装着しているのは全体の32.0%、していないのは54.9%だった。重量別の装着率は、総重量5トン未満が15.2%、5~11トンが21.3%、11~20トンが46.8%、20トン超が57.6%、トレーラは49.2%だった。
また、新型車・継続生産車への衝突被害軽減ブレーキの装着義務化については、「必要だと思う」が77.4%、「必要ではない」が6.0%と大多数が義務化を支持している。
大型トラックの制限速度は、「100km/hに緩和すべき」が39.0%、「現行80km/hでよい」が40.6%と拮抗した。総重量11トン以上では「緩和すべき」が多くなっているが、11トン未満とトレーラでは「現行でよい」のほうが上回っている。
ちなみに80km/h(スピードリミッターの上限は90km/h)の速度制限は総重量8トン以上のトラックが対象だ。
いっぽう制限速度を緩和する場合に、衝突被害軽減ブレーキの装着を要件とするべきかは、「要件とすべき」が61.2%、「すべての車両を緩和すべき」が16.1%、「どちらともいえない」が21.9%だった。
トラックのトランスミッションというとマニュアルトランスミッション(MT)のイメージが強いが、全体では43.7%が自動変速装置が装着されており、すでにMT車(39.0%)より多くなっているようだ。
重量別では小型車(総重量5トン未満)と大型車(20トン以上)、およびトレーラで自動変速装置の装着が多くなっている。中型車、特に総重量5~11トンのトラックは装着率が低く、54.4%がMT車だ。
搭載する自動変速装置としてはAT(トルコン式AT)が54.6%と過半数。AMT(自動化マニュアルトランスミッション)は29.9%、DCT(デュアルクラッチトランスミッション)は2.8%だった。
トラック用のトランスミッションとしては世界的にAMTの普及が進んでおり、中にはクラッチ操作を残したものや、フルードカップリングと組み合わせたものもある。
トラックの自動変速装置は単純な「イージードライブ」のためだけでなく、燃費やトルク増幅など用途に合わせた選択肢となっている。とはいえ装着効果(複数回答可)では「運転が楽になった」が2678件と圧倒的に多い。
また、自動変速装置の普及により準中型~大型にもAT限定免許を導入する必要性があるかについては、全体で「必要だと思う」が38.3%、「必要ではない」が35.8%、「わからない」が24.0%と意見が分かれている。
駐車場不足と「あおり運転」の実態
高速道路上のSA・PAの利用状況は、「休憩場所を運行管理者から指定される」が7.0%、「自分で適当なSA・PAを選んで休憩する」が39.0%となった。最も多かったのは高速道路は利用しない」の48.5%で、この値はこの数年で大幅に増えた。長距離運行の大型車で深刻化する駐車スペースの不足が影響していると見られる。
「主に休憩利用するSA・PA」でトップだったのは東名高速道路の足柄SAだった。足柄SAは大型車の駐車スペースが比較的多い。同じ東名高速の海老名SAは大型車駐車スペースが少なく、「特に混雑して駐車スペースのないSA・PA」でトップだった。
高速道路の減速車線などに駐車するトラックは一般車から見れば迷惑駐車そのものだが、トラックには「430休憩」(4時間運転したら30分休憩)という縛りがあり、いっぽうで駐車スペースがないのでやむを得ず行なっていることだ。
高速道路本線からSA・PAに入る減速車線や、合流車線上での駐車が常態化しているSA・PAとして多く名前が上がったのは、新東名高速道路の浜松SA、東名高速道路の中井PA、東北自動車道の国見SAなどだ。
あおり運転については全体の59.3%が受けたたことがあると回答している。中でも80km/hの速度制限のある大型車が多く、トレーラでは65.4%、20トン超では67.4%に上っている。
あおり運転行為としては「車間距離を詰められた」「急な追い越し・割り込みをされた」「蛇行運転をされた」などが多いが、死亡事故につながりかねない「走行車線もしくは追い越し車線上で停車させられた」も120件あった。
あおり運転の原因と考えられる行為としては「自分の速度が遅かった、もしくは早すぎた」がトップ、発生しやすい状況としては「法定速度での運転」がトップで、大型トラックと一般車の速度差があおり運転を惹起している現状が浮き彫りになった。
事業者・ドライバーの意見
自由回答欄に寄せられた意見としては次のようなものがある(一部抜粋)。
(衝突被害軽減ブレーキに関するもの)
- 軽減ブレーキは、早く義務化されるべきだと思う
- 乗用車との速度差を少なくすることで交通がより円滑になると思うが、衝突の被害も大きくなると思うので、被害軽減ブレーキ等の運転支援は必要だと思う
- 衝突被害軽減ブレーキは全ての車両に装着義務化ならいいが、一部の車両にだけの装着は逆に被害が大きくなりそう
- 衝突被害軽減ブレーキの誤作動が怖い。標識や、ガードレール、電柱、高架等に反能し、ブレーキが作動する事あり
- 死亡事故を減らす取り組みの一貫として軽減ブレーキの装着義務化は非常に賛成であるが、運転手自身の安全に対する意識を高めることも重要である
- 誤作動した場合の荷崩れなどが心配。区間を定めて交通量、道路特性に合わせて限定的にするべき
(制限速度に関するもの)
- 大型車はブレーキをかけても止まるまで時間がかかるので速度は80km/hで良いと思う。ただ、普通車との速度により差が出るのであおり運転や割り込みが増えないか心配
- トラックが安全速度で走行しても、マナーの悪い乗用車が事故要因になりうるので、車社会全体の問題でもある
- 速度制限があるのでスムーズに追い越しできなく、後の車からあおられたりするため、緩和すれば追い越しの時がスムーズになると思う
- 現状でも高速道路はかなり危険だと思っているので、今以上の緩和はするべきではないと思う
- 速度制限を緩和したらサービスレベルは上がるだろうが、その分遠くまで走行を指示され、労働環境悪化につながる
- 人を乗せる大型バスは80km/h以上出せるのに大型トラックは法定速度80km/hっていう事に疑問を感じる
(AT限定免許・その他)
- 90km/h速度抑制装置、430運行を行なっても到着できる輸送、休憩のできるインフラの整備を求めたい
- 免許取得者の69%がAT限定なので早くに新設したほうがいい。そしてもっと若い人にアピールしたほうがいいと思う
- AT車の機械的な技術が進めば、運転手の疲労軽減にもなる。運転技術の差が出ないと思う
- 大型車については、機械的知識を知るためにもMT技術も必要
- MTやATといったすべての車を運転できる人が大型に乗るべきだと思う
- ドライバー不足の原因は給料が安く、拘束時間が長いのが原因。車がどうとかではないのであまりかわらない
(運輸労連の「職場安全点検」「ドライバーの安全運転を支援する先進技術等に関するアンケート」調査結果報告書)
投稿 トラックドライバーは安全な職業と言えるのか!? 運輸労連のアンケートから【道路編】 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。