もっと詳しく

 ボルボ・トラックス・ノース・アメリカは1月13日、新世代のVNRエレクトリック大型BEVトラックを発表した。現行モデルの投入からわずか1年でのモデルチェンジとなる。

 現行のVNRエレクトリックは北米市場向け「VNR」大型トラックのバッテリー式EV(BEV)バージョンとして一部地域に先行導入されたものだが、大幅に向上した航続距離や、6×4車型の追加設定など、新型は量産・量販を視野に入れている。

 輸送ソリューションのレンジは、ほぼ地場輸送専門であった現行モデルから1年で中距離輸送まで広がったことになる。長距離は未だディーゼル車が優位に立つが、BEVトラックは加速度を増して長足の進歩を続けている。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/Volvo Trucks


わずか1年でモデルチェンジしたVNRエレクトリック

 スウェーデンのボルボグループはトラック、バス、建設機械、船舶・産業用エンジンの製造などを専門とする企業で、商用車では世界をリードするグループの一つだ(乗用車部門のボルボ・カーズは1999年に売却され、現在は中国資本)。

 傘下のボルボ・トラックスは主に中型から大型の輸送ソリューションを提供しており、北米においてもゼロ・エミッション商用車でトラック業界をリードしている。

 そのボルボ・トラックス・ノース・アメリカが「VNRエレクトリック」の新モデルを間もなく投入することが明らかになった。全米での販売時期は2022年の第2四半期を予定している。

 新世代のVNRエレクトリックの特徴は、現行モデルより航続距離を約85%伸ばしたこと、充電時間を短縮したこと、よりヘヴィ・デューティな車型を追加したことなどだ。

電動化への加速が止まらない! わずか1年でモデルチェンジした北米ボルボの新型VNRエレクトリック
近・中距離の集配送はもともとVNRエレクトリックの得意とするところだが、航続距離が2倍近く増えたことでサプライチェーンに柔軟性をもたらす

 ボルボ・トラックスが初代のVNRエレクトリックを販売開始したのは2020年の12月だった。バージニア州ダブリンのニュー・リバー・バレー工場で商用生産が始まったのは翌2021年の第2四半期なので、約1年でのモデルチェンジとなる。

 この間ボルボは、顧客から実運用におけるデータの提供を受け、BEVトラックの改善を続けてきた。その結果が新世代のVNRエレクトリックとして結実した。

 乗用車と異なり生産財(企業が生産活動のために使用する財)であるトラックは、運送会社やドライバーが日々の業務で使えるということが商品として成立するための条件となる。

 そのため、モビリティの電動化が進展する過程で「顧客の下での実運用を通じてBEVトラックを開発する」という手法が採られ、ダイムラーも欧州において「eアクトロス」の開発で取り入れている。

 自動車の電動化は進化が早く、それだけにソフトウェアにおける「アジャイル開発」と同様の手法トラック開発にも用いられているのだ。

 ボルボ・トラックス・ノース・アメリカのピーター・ボーホーブ社長は次のようにコメントしている。

「トラック業界は進化を続けていますが、初代VNRエレクトリックの登場からわずか1年で、私たちは新モデルを投入しました。これはボルボ・トラックスのリーダーシップの証明です。私たちは業界の最前線にいます。常に革新と改善を続け、世界最高水準のデザインと製造技術、そして安全性を維持しています。私たちは、持続可能な未来に向けて、販売店やお客様と共に自動車の電動化をさらに加速します。」

新世代VNRエレクトリックの性能は?

 新世代のVNRエレクトリックでは、まずバッテリー系の性能が大幅に向上した。これはバッテリー単体によるものだけではなく、新しいテクノロジー、設計、バッテリー管理技術、パッケージングなどを含めたものだ。

 最初に設計を見直したことで、それぞれのバッテリー容量は40%向上した。バッテリーの温度を管理するBTMS (Battery Thermal Management System)という専用のシステムを追加し、バッテリーの動作に最適な温度環境を維持するようにした。

 また、パッケージとしてはオプションの6バッテリーモデルを追加した(標準は4バッテリー。6バッテリーは3軸トラクタ車型のみの設定)。

 これらを合わせてバッテリー容量は最大565kWhに拡大し、航続距離は275マイル(約443km)に伸びた。VNRエレクトリックの現行車は、それぞれ 264kWh / 241km なので、容量は約2.14倍となり航続距離は約1.84倍に増えた計算だ。

 なお、実際の運用では回生ブレーキによるバッテリーへのフィードバックがあるので、航続距離はもう少し伸びる可能性がある。

 充電時間の短縮も図られ、DC-250kW (CCS1/CCS2) での急速充電に対応する。80%充電までの時間は6バッテリーモデルで90分、4バッテリーモデルで60分となっている。バッテリー数を増やした6バッテリーモデルが現行車の70分に及ばないのは仕方ないところか。

電動化への加速が止まらない! わずか1年でモデルチェンジした北米ボルボの新型VNRエレクトリック
VNRエレクトリックに新たに6バッテリーパックのオプションが設定された。250kW充電に対応し、80%充電時間は4バッテリーモデルが60分、6バッテリーモデルは90分

トラックだけではない「輸送ソリューション」

 いっぽう、VNRエレクトリックのラインアップには2車型が追加された。追加されたのは6×4リジッドトラック(単車)と6×4トラクタで、従来からある4×2リジッド、4×2トラクタ、6×2トラクタと合わせて5車型となった。

 これらの車型はローカル(近距離)からリージョナル(中距離)の物流向けに設計されたものだ。ほぼ地場輸送専用モデルであった現行車と比べると運用の幅が大きく広がったことがわかる。

 アメリカの物流は日本とは異なる部分も多いが、代表的な輸送でいえば、食料品・飲料輸送、ドレージ(船とトレーラの連携輸送)、ピックアップ(集配送)、ルート配送などに相当する。

vnr-electric-6x4-straight-driver-side
新設定されたVNRエレクトリック6×4単車
vnr-electric-6x4-tractor_driver-side
新設定されたVNRエレクトリック6×4トラクタ

 ドライブトレーンは、出力 340kW(455hp) / 5492Nm(560kgm) の電動モーターと2段の「Iシフト」トランスミッションの組み合わせだが、これは現行車と同等。もともとトルクフルな電動ドライブトレーンには充分な余力があるようだ。

 また、ディーゼル版のVNRが備える「ボルボ・アクティブ・ドライバー・アシスト」や「ボルボ・ダイナミック・ステアリング」といった先進安全技術は、当然VNRエレクトリックにも搭載される。

 ところでアメリカといえば、「オーナー・オペレータ」(O/O)といわれる個人でトラックを購入し運送業に従事するドライバーが知られているが、もちろん運送会社の社員として働くカンパニードライバーも多い。

 現状では相当な高額になるBEV大型トラックは、個人ドライバーよりはフリートオーナー(運送会社)向けの商品ということになる。

 このためボルボは、電動化を検討している運送会社向けにコンサルティングを行なう認定EVディーラーシップを提供する。認定ディーラーでは、セールスは電動ソリューションに関する教育を、エンジニアはBEVトラックのメンテナンスと修理に関するトレーニングを受ける。

 現在はカリフォルニアとニューヨークのディーラーが認定を受けているそうだが、全米に400あるディーラー向けに研修を行なっているところだという。

 また、電動トラックの導入に不安を抱えているフリートオーナーのために、メンテナンスやロードサービス(レッカー)、アップタイム保証などをカバーしたアフターサービス契約の「ボルボ・ゴールド・コントラクト」がVNRエレクトリックでは標準装備となっている。

 BEVトラックに新興メーカーが相次いで参入するなか、ディーラーシップや金融・アフターサービス、コンサルティングなど、トラックだけではない「輸送ソリューション」全体を提供するボルボに、伝統メーカーの貫禄と意地を感じる。

投稿 電動化への加速が止まらない! わずか1年でモデルチェンジした北米ボルボの新型VNRエレクトリック自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。