兵庫県養父市の国家戦略特区で成功した「企業による農地取得の全国解禁」を見送る代わりに、政府が21年度中に行うことを閣議決定していた調査がいまだに行われていないことが28日わかった。この日の参院予算委員会で、維新の柳ヶ瀬総務会長の質疑に政府側が明らかにした。
金子農水相は答弁で「具体的な実施方法については、政府内で内閣府と最終調整中」と述べたが、新年度まで残り数日間に調査を行い結果をまとめるのは絶望的だ。自民党の農水族議員らが企業の農地取得の全国解禁に反対した経緯から、農業の規制改革を阻む岩盤規制の実態が改めて浮き彫りになった。
現在の農地法では、農業への参入に意欲のある株式会社が新たに農地を取得することは実質的に厳しく制限されている。農家の高齢化や担い手不足が進む中、特に危機的な中山間地域では耕作放棄が相次いでおり、改革は待ったなしだ。
兵庫県北部の中山間地帯にある人口2万3000人の養父市は「規制緩和による多様な農業の担い手を確保し、耕作放棄地の解消や6次産業の推進により地域経済の活性化につなげたい」との狙いから、農業特区に手を挙げ、安倍政権時代の2014年、国に指定された。農業生産法人の設立要件を緩和し、地域の農業委員会が行っていた農地取得の認可も市が行うなどして14社が参入し、17年度からの4年間だけで営農面積を1.5倍に増やした。
特区での「成功」事例をもとに農業の“改革派”は全国解禁を狙っていたが、農協や族議員などの“守旧派”が猛反発。菅政権時代の2020年11月、自民党農林部会は一部の企業が途中から耕作を放棄する事例があったことなどを挙げて「企業の農地取得の全国展開は到底容認できるものではない」などとする決議文を、当時の坂本地方創生相と野上農相に提出までした。
これを受け、政府は養父市の特例期間を2年間延長する形で解禁を“封じ込め”することに決めたが、今度はこれに特区諮問会議で民間議員の八田達夫氏や竹中平蔵氏が反発。議長の菅首相が「私のもとで一旦預かる」と述べ、その結果、昨年6月の成長戦略フォローアップに「特例制度のニーズと問題点の調査を特区区域以外においても2021 年度中に実施し、その結果に基づき全国へ の適用拡大について調整し、早期に必要な法案の提出を行う」と盛り込むことで妥結した経緯があった。
しかし、結果として年度末まで残り3日となっても調査が実施されていないことが露呈した形に。柳ヶ瀬氏から現状認識をただされた岸田首相は「年度内の調査の実施に向けて努力をしてもらいたい」と苦しそうに答弁した。
柳ヶ瀬氏は「(年度内はあと)3日で調査ができないのに年度内でやると強弁をするのはおかしい。年度内にできなければ閣議決定違反になる」と畳みかけると、岸田首相は「年度内に実施する…」と言いかけたところで、「年度内に“着手”すると認識している」と言い直して答弁。これに柳ヶ瀬氏は「実施と着手は違いますよね」と皮肉で返していた。