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「いいクルマのハズなのに、どうして売れてないんだろう?」と思うクルマは常にあるものだが、マツダ3もそんな一台だ。

 値段か、クルマのデキが購入の決め手に欠けるのか、それともアクセラという、すでに世間に浸透した名前を捨ててしまったことが響いているのか?

 2020年末に実際にマツダ3を購入した自動車評論家、斎藤 聡氏に、マツダ3の魅力といまいち波に乗り切れていない現状を考察してもらった。

文/斎藤 聡、写真/MAZDA

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■自身購入の決め手は「SKYACTIV-X搭載車に乗りたかったから」 斎藤が語る可能性

斎藤氏は2020年末にMAZDA3 SEDANを契約し、2021年2月に納車された

 ボクがマツダ3を買った理由は、ずばりSKYACTIV-Xっていうエンジンに乗っておきたかったからです。ガソリンとディーゼルのいいとこ取りをしたエンジン……なんて言われることがありますが、事はそんな簡単ではなくて、超希薄燃料をきれいに燃やすことのできるエンジンで、もしかしたら内燃機関の未来を切り開く可能性を秘めたエンジンでもあると思っています。

 巷では電気自動車が話題の中心で、近々内燃機関はEVにとって代わる、といわんばかりの勢いです。もちろん、EVも魅力的な動力のひとつだと思うのですが、ボク個人としては、いまだに内燃機関にロマンを感じているんです。エンジンのシリンダーのなかで燃料が爆発することで直接的にパワーを作り出し、その力を動力にしている、それがとても面白いと思うんです。

 世はカーボンニュートラルに向けて進んでいます。でも、それと内燃機関がダメということとは違う話ではないかと思うんです。一見するとCO2を排出する内燃機関は「悪」に見えるかもしれませんが、今この段階ですべての可能性を切り捨ててしまうのは、あまりにも拙速だと思うわけです。

 可能性を徹底的に探ることはとても大切で、それをマツダがやっているのだからそこに一票入れて気分を共有してもいいなと思ったわけです。

■指一本分以下のステアリング操作にも反応 クルマの出来も「力作」

 クルマの出来も個人的には力作だと感じています。サスペンションはリアサスがマルチリンクの独立式からトーションビームのリジッド式に代わっていて、後退しているように見えなくもありませんが、必要なのは、サスペンション形式ではなく、それで作り出される乗り心地とか操縦性にあるわけです。

 乗り心地については……まあ、デビュー当初のサスペンションは比較的硬めでコツコツした乗り心地がありました。特にファストバックはリアシートにあまり積極的に乗りたいと思わないくらい硬めでした。ボクの選んだセダンのほうが乗り心地については上々で、適度に引き締まった足回りといった印象です。

 これも先の年改(年次改良)でセッティングが変わり、しっとりした乗り心地になりました。

 操縦性は、マツダの考える「人馬一体」を形にしようとしていて、ステアリング操作も指一本分以下の微舵応答からちゃんと反応が出ていて、しかも精度感もあります。つまり、微細なハンドル操作からちゃんとドライバーの意図をくみ取るようにクルマが反応してくれるということです。

 それでいて神経質さとか過敏さがないので、緊張せずにクルマとドライバーである自分の運転操作がぴたりと一致するような一体感を実感できます。

■エンジンのパワーがあるないに関係なく、意図した通りに走ってくれるマツダ車

 そう、これはハンドルだけでなくアクセルの応答性も深く関わっていて、このくらい加速したいとか、前に進みたいというドライバーの意図=アクセル操作にきちんと反映されています。

 マツダのクルマがエンジンのパワーがある、ないに関係なく、自分の意図どおりに走ってくれる感覚が強くあるのは、この応答と加速度の関係をきっちり作りこんでいるからなんだろうと思います。

 エンジンに関しては、マツダ3は現在3タイプのエンジンを選ぶことができます。ボクが選んだのは先にも触れたようにSKYACTIV-Xです。火花点火制御圧縮着火というエンジンの爆発のさせ方です。

 高圧縮比によって燃料(ガソリン)が一気に自然着火するのを利用したエンジンで、その燃焼の始まりを安定させるために火種をきっかけ(点火制御)にしているというエンジンです。この燃焼方法を使うと低回転から高回転までかなり広い範囲で希薄燃焼が可能=CO2の排出を低減できることにつながるわけです。

■日々進化を遂げるエンジン プログラムのアップデートで10psのパワーアップも

MAZDA3 SEDAN は(X PROACTIVE、FF)4600mm×1795mm×1445mm。WLTCモードで17.2km/L。価格は319万8148円

 このエンジンは日々進化していて、2020年末に180psから190psにへ10psのパワーアップを果たしています。これはパワーアップ前のSKYACTIV-Xに対してもプログラムのアップデートとして、同様に10psのパワーアップが行われています。

 ものすごくパワーがあるとか速い!! というエンジンではないので、10psのパワーアップ後も格段に速くなったという印象はありませんが、トルク特性が変わったのか、パワー感(トルク感)がくっきりしてアクセルの微細な操作に対してエンジンがリニアに反応してくれる感覚が強くなりました。つまり、よりドライバーとクルマの間の一体感が強くなったように感じています。

 また、1.8Lディーゼルエンジンも116psから130psにパワーアップしています。これによって高回転域の伸び感が増してより力強くて気持ちいいエンジンになっています。マツダのディーゼルエンジンは極限まで圧縮比を低くした低圧縮比ディーゼルで、ディーゼルエンジンとは思えないくらい軽やかな吹け上がりが特徴です。パワー感が増し、エンジンの存在感がぐっと濃くなっています。

 このほか、通常のガソリンエンジンも、SKYACTIV-Gと名付けられ、こちらは高圧縮比が売りのエンジンで、ビート感があり、それでいてシャープな吹け上がりを見せるエンジンです。SKYACITI-XやSKYACTIV-Dほどのインパクトはありませんが、エンジンとしてよくできていると思います。

■オーナーならではの目線で考える「販売面苦戦の理由」

 さて、そんなマツダ3が販売面では苦戦しているということです。調べてみると、確かにコンスタントに売れているとは言えない数字です。もっともこのところ半導体不足による生産調整が行われているので、一概に売れないと結論付けることはできませんが、少なくともヒットまではいっていない感じです。

 オーナー目線で見ると、気に入って買ったわけですから特に大きな不満はないし、コントロールユニットのアップデートによって、パワーアップもしているし、このアップデート時には同時に運転支援系のアップデートも行われ、使い勝手がよくなっています。

 けれども、少し視線を広げてCセグメントカー(カローラ、シビック、インプレッサスポーツ、ゴルフなど)と比べてみると、突出したウリが見当たらないというのはあると思います。

 1.5Lと2LのNAエンジンは確かに単体としては出来がいいですが、ボディサイズに対して過不足ないとも言えますが、ターボに比べるとトルクが明らかに少なく余裕のパワー(トルク)はありません。もちろん速さだけに価値があるわけではありませんが、もうちょっと余裕があってもいいかな、とは思います。

 また1.8Lディーゼルについては、エンジニアリング的には力作だと思いますが、先代のアクセラに搭載されていた2.2Lディーゼルにあった分厚いトルクを知っていると物足りないと言わざるを得ません。CO2などの問題があるのでしょうが、消費者にとってみるとなかなか世界平和のためにパワーの低くなったエンジンを選ぼうとは思えないのではないでしょうか。

■もっとわかりやすくその魅力を訴求すべきでは

 言い方を変えると、搭載されるエンジンはすごく説明的な気がします。「NAなのは●●だから」「ディーゼルはちょうどいい排気量が」……。SKYACTIV-Xもパワースペックは理性的すぎる気がします。

 それがダメなわけじゃなく、もっとわかりやすくその魅力を訴求することが大切なんじゃないかと思うわけです。価格もちょっと高めです。けれどもオプション装備なしでなんの不足もなく使えるくらい装備が充実しているからで、それを説明していないんです。

 クルマに興味のあるユーザーやマツダファンではない潜在的ユーザーは、移り気でまた積極的にクルマの理解を深めようとはしませんから、いかにマツダ3が魅力的なのかをもっと積極的にアピールする必要があるのだと思います。

 マツダ3というネーミングも、マツダの車種体系を理解している人にとっては、ボディサイズをイメージしやすいのですが、マツダにどんなクルマがあるのか知らないユーザーにとって、3なんて車名はなんのことかわからないわけです。

■そのよさをまんべんなくアピールしようとしてはいないか?

「ひとつのグレードに猛烈な吸引力をつけて注目を集めるというのもひとつの方法ではないか」と語ってくれた斎藤氏

 マツダ3がダメなクルマなわけではなく、その魅力をユーザーが理解していないというのが本当のところではないかと思います。

 ディーラーの試乗コースひとつとっても、ただ普通に走るだけなら乗り心地くらいしかわかりません。それでマツダ3を買ってもらおうとしても、乗り心地が得意なクルマではないのであまり有効なやり方とは思えません。

 少なくともアクセルの微細な動きにエンジンが応答してくれる感じとか、ハンドルを切った時の一体感のある操縦感覚なんてのがわかるような試乗コースや、あるいはユーザーイベントをやってみたら、もしかしたら評価は大きく変わってくるかもしれません。

 もっと単純に言うと、マツダ3のよさをまんべんなくアピールしようとするあまり、魅力が分散して焦点が定まらない気がします。ディーゼルをあと100Nmくらいトルクアップしてマツダ3の目玉にするとか、SKYACTIV-Xのパワーをあと100ps上乗せするとか。まずはひとつのグレードに猛烈な吸引力をつけて注目を集めるというのもひとつの方法ではないかと思います。

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