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 クルマのスタート(エンジン始動)スイッチは、左右どちらかのハンドルの裏側付近にあることが多いのだが、つい先日、試乗した新型ノア/ヴォクシーのスタートスイッチは、なんとナビ画面のすぐ横、という位置で、かなり驚いた。

 仕事柄、さまざまなクルマに試乗させていただくが、初めて乗るクルマだと、運転席に乗り込んだあと、まず真っ先にスタートスイッチ探しをすることになる。同様に、ハザードスイッチもクルマによって位置がバラバラ。同じメーカーであっても、スイッチの位置は違っていたりする。

 レンタカーやカーシェアリングなどを利用する際にも、いちいち最初に探すことになったり、緊急時の咄嗟の操作に支障をきたすのは考えものだ。

 せめて、緊急時に使用するハザードスイッチは、位置を統一してほしいものだが、なぜこのようにクルマによって位置がバラバラなのだろうか。

文:吉川賢一
アイキャッチ写真:Adobe Stock_jittawit.21
写真:TOYOTA、NISSAN、HONDA

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運転中の使用頻度の高いものが優先されるため

 スタートスイッチやハザードスイッチなど、ドライバーが使用する機会が多い操作スイッチのレイアウトは、もちろん適当に配置されているものではなく、人間工学を専門とする内装設計のスペシャリストが、インテリアデザイナーと相談しながら決めている。

 なぜ位置がバラバラになるのかについては、スタートスイッチやハザードスイッチよりも、運転中の使用頻度が高い、アクセルやブレーキといったペダル類、シフトノブ、ウインカーレバー、ワイパーレバー、そしてウィンドウ開閉スイッチ、エアコン操作スイッチ、シートポジション調節レバー(ドアとの隙間に手が入るかも当然見ている)、ナビゲーションのスイッチなどが最初にレイアウトされるため、スタートスイッチやハザードスイッチのような「使用頻度の少ないスイッチ」は、二の次となってしまうからだ。

 ハザードスイッチは重要なスイッチではあるが、目立ちすぎてもカッコ悪く、いざというときに見えにくいのもNGなので厄介な存在でもあり、インテリアのデザインを阻害しないよう、それでも、とっさに操作ができる場所へ配置しているため、位置がバラバラになりやすい。いざというときに助手席側からも操作ができるよう、インパネの中央や、センターディスプレイの傍などに設置されることが多いものの、クルマによってはそこに設置できるとは限らない。

 スタートスイッチも同様で、あえて目立たせる目的がないのであれば、ハンドル後ろなどの不人気エリアへレイアウトした方が、都合がいいのだ。

スタートスイッチは「ハンドルの左」が多くなっている

 しかし最近は、スタートスイッチがハンドルの左側にあるクルマが多くなったように思う。これは、左手でプッシュスイッチを押してエンジンをかけた後、そのまま左手でシフトレバー操作してドライブレンジに入れ、(必要ならば)サイドブレーキを解除、といったすべての操作を左手のみで操作できるようにする、という考えが設計的にはあるそうだ。

 クルマへ乗り込んでから発車するまでに、いちいち右手と左手を使い分けなくてもよい。一連の動作をスムーズに繋がるようにしたことで、ストレスが低減できるよう考えられているようだ。

せめてメーカー内では統一を!!

 そうはいっても、わかりにくいスタートスイッチの位置は(自分のクルマならば慣れるとはいえ)不親切だし、ハザードスイッチに至っては、緊急時にとっさに押せないことで、事故につながってしまう危険もある。冒頭に紹介した、新型ヴォクシーのように、ナビ横にデカデカとスタートスイッチがあるのはイマイチにも感じるが、どこにあるのか分からない、となるよりもずっといい。

 「見た目」が重要なのもよく理解できるが、スタートスイッチはさておき、ハザードスイッチは、せめてメーカー内では統一した場所へレイアウトしてほしいと思う。

クラウン、220系初期型のインテリア。エアコン温度調節がタッチ式だった

【余話】タッチパネル化だけは避けてほしい

 昨今、インパネの中央に大きな液晶モニターを備えたクルマが増えてきた。テスラ全車のほか、メルセデスSクラス、Cクラス、ボルボ、国産車だとレヴォーグ、プリウスPHVなどだ。未来的でカッコよく、多くの情報を得られる便利さもあるのだが、ここにすべての操作が集約されてしまうのを、筆者は危惧している。

 画面をしっかり確認しないと何処に触れたらよいかが分からないタッチ式は、クルマには向いていない。エアコン調節スイッチをタッチ式としていた初期の220系クラウン(※2020年のマイナーチェンジでダイヤル式へと改良)や、オーディオのボリュームコントロールをタッチ式としたゴルフ8など、操作性は酷かった。テスラは基本的にすべての操作がタッチ式となっている(ハザードスイッチだけは物理式だった)。また、最近デリバリーが始まったアリアも、エアコン操作パネルはタッチ式だ。

 「タッチ式は慣れの問題、音声コントロールもあるでしょう」という意見もあるが、慣れると、運転中の揺れる車内で、ブラインドでのタッチパネル操作が確実にできるようになるものなのか。音声コントロールは確かに視線も手による操作もいらないが、スイッチがあればすぐに操作できたアクションを、なぜわざわざ、クルマのAIとのやりとりで操作しなければならないのか。

 さすがにハザードスイッチがタッチパネル化されることはないだろうが、オーディオ音量やエアコン調節がタッチパネル化されていることについては、これが本当に、万人にとって使いやすいと思っているのか、ぜひ一度メーカーに聞いてみたいと思う。

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投稿 なぜハザードとエンジン始動スイッチはクルマごとにバラバラなのか?自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。