今後懸念されるのは、この戦況を打開するために、ロシア軍がABC(核・生物・化学)兵器を限定的に使用する可能性であり、米国はすでにBC(生物・化学)兵器については、その兆候があるとしている。
ギャングに等しいプーチンの行動理念
ロシア軍のウクライナ侵攻当初もそうであったように、バイデン大統領が「その兆候がある」の述べているのは、そのような機密情報を掴んでいるということであり、もしロシアがそれを使用した場合には、必ずその証拠に基づいて「大量破壊兵器の使用を認定する」という意味である。
当然、プーチン大統領もこれには気付いていると思われるが、それでもなお、国際社会からさらに厳しい非難と制裁を受けることを承知でこのような兵器に手を出そうとしているのはなぜかといえば、それは、ウクライナ政権や軍、そしてウクライナの国民に対して、極めて大きな心理的なダメージを加えられると信じているからである。
この、プーチン大統領の行動理念は、「ギャングや暴力団の行動理念に等しい」と考えれば理解しやすいだろう。つまり、「この相手は何をするか分からない。目的のためには手段を選ばない」と思わせ、実際に一部それを実行して見せることで相手を支配しようと目論むものである。
そもそも、今回ウクライナへ侵攻したこと自体がこのような理念に基づくものであり、キエフを包囲してもゼレンスキー大統領が屈服せず、かといってキエフ市内に突入して大統領府を制圧するのが困難であることが判ってきたので、仕方なくエスカレーション・ラダーを上げようとしているのだ。
では、このような状況をどう切り抜ければ良いのだろうか。
ロシアのエスカレーションを阻止するには
結論を言えば、プーチン大統領に、「ABC兵器を使用しても目的は果たせそうにない。ここは交渉によって一旦停戦を成立させ、長期において目的を果たせればよい」と判断させることだ。このために必要なことは、暴力団への対応と同様に、①相手の脅しに決して屈しないこと、②力による対応では目的を果たせないとさとらせること、③必要以上に追い詰めない(逃げ道を作為する)こと、である。
具体的にいえば、①については、センセーショナルに報じられている第3次世界大戦や核戦争という事態に、いたずらに脅えないことである。
交渉を長引かせて次の手を考えているプーチン大統領は、決して狂ってなどいない。冷静な判断ができると考えられる。したがって、米軍を始めとするNATO軍は、レッドラインを明確にし、「一線を越えれば座視しない。被害がウクライナ周辺国にも及ぶようなABC兵器を使用すれば、必ず軍事的対応をする」と明言してその準備を進めるべきであろう。
現時点でウクライナに侵攻しているロシア軍にNATO軍が攻勢をかければ、ロシア軍はとても耐えられないだろう。それはロシア側も十分認識していることは間違いない。今、このタイミングで米国などがロシアに対して一定の軍事的圧力をかける行動こそが、交渉を加速させることに繋がると筆者は考えている。
②については、前述の行動をとった場合、プーチン大統領は、「米軍などがウクライナのロシア軍に攻撃を仕掛けた場合、戦略核兵器の使用もあり得る」と脅してくるだろう。その際は、バイデン大統領が「一発でも戦略核兵器を使用すれば、その日のうちにロシアという国は消えてなくなるだろう」と、トランプ大統領が北朝鮮に対して言い放ったように、掛け合いで負けないことだ。
そして、③については、前述の①や②の手段と並行して、第3国を交えた外交手段を駆使し、プーチン大統領がどの線まで譲歩できるのかを探り、ウクライナを支援することによって早期に停戦の実現を目指すことこそが、最終的に現状を打開する糸口につながるということは言うまでもないだろう。
停戦交渉が成立しても、その際の条件をロシアがその後守るかどうかは疑わしいが、いったん戦闘停止命令が出れば、ロシア軍の士気は一気に緩み、将兵の戦意は失われるであろう。
そして、時間が経つにつれ、今回の戦争の悲惨さとその結果による負の遺産の余りの大きさにロシアの大多数の国民が気付いた時、プーチン大統領の時代が終わるのではないだろうか。