今年の冬はことさら寒いが、冬期は積雪や路面の凍結などにより転倒災害が多く発生する季節だ。全産業の労働災害の中でも最も件数が多いのが「転倒」で、もちろんトラック運送(陸上貨物運送事業)でも多く発生している。
厚生労働省や労働災害防止団体は「STOP! 転倒災害プロジェクト」を推進しており、平成27年(2015年)から継続して取り組んでいるのだが、転倒災害は増加傾向にあり、更なる取り組みが必要となっているのが実情だ。
トラック運送における労働災害防止団体(労働災害防止団体法に基づき設置された特別民間法人)である陸上貨物運送事業労働災害防止協会(略称:陸災防)は冬期の転倒事故事例を公表し、対策を呼びかけている。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/フルロード編集部、イラスト/ゆいてゃん
最近実際に起こった冬期の転倒災害
どんな季節、どんな作業中でも転倒災害は起こりうるとはいえ、積雪や凍結により一気にリスクが高まるのが冬だ。「STOP! 転倒災害プロジェクト」でも、重点取組期間を6月とし、転倒災害が多発する冬季に向けた準備期間を設けている。
実際にはどのような転倒災害が起きているのか? 以下は陸災防が公表した冬冬期における転倒災害の事例である。
【事例1】31歳男性/左脚腓骨及び脛骨骨折
敷地内に設けてある自販機で飲料を購入しようと、積雪のある凍結路面を歩行中に、左足に体重がかかった状態で右足が滑り、その場で転倒し左足を骨折した。
【事例2】76歳男性/大腿骨骨折
先日積もって融けた雪が再び凍り、ところどころ氷の塊りができている状態。ホーム前の雪かきをしてから車両を接車し、運転席から降りた際、凍った路面で足を滑らせて転倒し、右大腿部を路面の氷の塊りに強打した。
【事例3】66歳男性/頭部、頚椎、腰椎挫傷・捻挫
配送センター敷地内で荷降ろしが終了した後、車両に戻ろうとして凍結した地面で滑り転倒。頭と背中を打った。
【事例4】33歳男性/右脚脛骨骨折
駐車場を歩いていた際、路面が凍結していたため足を滑らせた。転倒しないように踏ん張ったが、足首を挫くような感じになり、その結果、右脚脛骨を骨折(耐滑性の低い靴を履いていた)。
【事例5】45歳男性/右手首骨折
トラックより家具の搬入作業をしていた。2人で家具を持ち上げて搬入している時、雪で床の養生が濡れていて、足を滑らせて転倒。
最近はトラックドライバー不足などを背景に高齢のドライバーも増えているが、若い男性でも、作業中でなくても骨折という重症に至っている。高齢ドライバーや重い荷物を扱う作業中は一層の注意を要する。
冬期における転倒防止のための4つの留意点
厚労省は冬期の転倒災害防止に向けて留意点を4つ挙げている。
1.天気予報に気を配る
2.時間に余裕をもって歩行、作業を行なう
3.駐車場の除雪・融雪は万全に、出入口などにも注意する
4.職場の危険マップ、適切な履物、歩行方法などの教育を行なう
寒波が予想される場合の周知、余裕のある作業時間の確保、除雪や夜間の照明設備などは事業者が行なうべきものだが、いっぽうで自分自身で対策できるものもある。
長距離トラックの場合などは現在地に加えて、これから向かう地域の気象を把握し、現地の天気に気を配ることだ。
特に最低気温がマイナス2度を下回ると、急激に転倒災害の発生リスクが高まるという分析結果がある。積雪や凍結のリスクを知ったら早めに(出発前に)対策をとる。
冬タイヤに履き替えるように滑りにくい靴に履き替えを!
また、冬期にはトラックのタイヤを冬タイヤに履き替えるように、滑りにくい靴(耐滑靴)に履き替えることも効果がある。ただし、耐滑靴にも水・油用の耐滑靴、氷上用の耐滑靴、粉体上の耐滑靴などがあり、市販されている耐滑靴の多くは「水・油用」だ。
したがって、冬期の屋外使用では、靴の耐滑性にも注意が必要となる。雪や氷の上で使用できることを確認するとともに、滑りやすい路面では荷の運搬方法や作業方法を見直し、歩く歩幅も小さくするなど歩き方にも気をかける。
トラックドライバーの労働災害というと、多くの人は「交通事故」を思い浮かべるが、割合でいえば全体の5%にすぎず、大部分を占めるのは荷役作業時の墜落や転倒だ。その中でも、雪や凍結など天候に起因するものが約8%ある。
トラックの安全装備が充実し、交通事故が年々減少するなかでも、交通事故以外の労働災害が減っていないのは残念な事実だ。労働災害の4分の1を占めるという転倒災害の予防は、トラック運送の未来を確保することでもある。
投稿 えっ、交通事故より転倒事故が多いってマジ!? トラックドライバーを襲う冬期転倒災害の恐怖 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。