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1. 今回の連載のねらい

はじめまして、これから『企業から社会を動かす行動学』という題名で連載をする小木曽稔と申します。この連載では、日本でまだ正確に知られていないパブリックアフェアーズ活動ルールメイキングの意義に焦点を当てます。

この業務に携わる又は興味のあるビジネスパーソンが業務遂行に当たって何をすればいいのかの実践のきっかけに少しでもなればと思っております。第1回は、そもそもルールメイキングって何だろうということを書いてみたいと思います。

新しいルールをどう作る?(designer491/iStock)

2. 簡単な自己紹介

私は、国家公務員を9年、それから民間で15年、いわゆる公共政策という分野に関わってきました。国家公務員として、法令などのルール形成を行い、民間では、民間から見た適切な公共政策のルールを提案してきました。つまり、実際にルールを作る側と、作られたルールが本当にワークしているのか、時代に合っているのかということを検証し具体的な提案に落とし込む側の両方を経験しました。

このような経験をより実践し、以下の2つを目標にするため、公共政策分野の専門ファームであるマカイラ株式会社に今年から参画させていただきました。

  • パブリックアフェアーズ活動を21世紀の企業経営の基本科目とすること(経営戦略との一体化、経営戦略における非市場戦略の中核化)
  • 上記を行う専門家を例えばデータアナリストと同様に企業経営に必要な人材として確立すること(パブリックアフェアーズ担当を明確な専門職として位置づける)

3. ルールメイキングが強く求められる理由

metamorworks /iStock

私なりの言葉で言うと、第4次産業革命を踏まえて、『全ての産業が再定義され産業分類そのものがなくなる』結果、従来の事業法による縦割り構造の規制体系や発想では追いつかないからです。例えば、楽天とトヨタ自動車は全く違う産業レイヤーと今はみられますが、今後は、SaaS型の会員制企業ということで同一レイヤーになっていくかもしれません。

また、デジタル化により国の垣根を超えたサービスが広がる越境経済の時代になっています。このことは、規制や税制などの国の制度それ自体が国家間競争を強いられる時代になってくるという側面が1点、もうひとつは、通商ルール、国際租税ルール、知財ルールなどのマルチでの国家間交渉や標準化戦略等がますます企業経営に密接に影響を及ぼすということがもう1点になります。

4. ルールメイキングの事例

①アナログ原則撤廃に向けた動き

コミュニケーションツールとしてデジタル手段がいきわたった結果、アナログのみを前提とした各種規制が時代遅れになってきました。最近、デジタル臨調が設置され、全法令をデジタル原則に沿って検証するとされているのはまさにこの流れです。これのきっかけの一つになったのが、医薬品を対面というアナログ以外の手段で販売していいかという論争でした。行政訴訟で厚生労働省が敗訴したことも契機として薬機法が改正され一部ネット販売が解禁されました。

デジタル時代のルール作りが問われたオンラインの医薬品販売(Boonsiri /iStock)

②従来の規制では想定していない事態、空白地帯になることへの対応

シェアリングエコノミーとして既存の遊休資産を有効活用する民泊は、従来の旅館業・ホテル業、それから旅行業が射程においてあるものではなかったため、民泊新法が作られました。

Airbnb進出を機に日本でも民泊のルール整備(stockcam /iStock)

電動キックボードについて、規制のサンドボックス制度等を使って実証実験を重ねながら、関係者の理解を深めました。その結果、政府の成長戦略にアジェンダセッティングされ、今年3月、道交法改正案が閣議決定され、国会に提出されました。

日本でも解禁へ動き出した電動キックボード(Prostock-Studio/iStock)

5. ルールメイキングの担い手はだれなのか

日本人は、お上意識が強くルールは所与の外在的なものととらえがちとの指摘があります。一方で、上記の事例は、全て、民間企業からの個々の問題提起がきっかけになっています。ルールの内容を決めるのはもちろん民主主義なので最終的には国民であるはずだし、そのきっかけづくりや問題提起をするのは、まさに事業を最前線でやっている中で疑問にぶつかる、自律・自立した民間企業や意欲あるスタートアップであると考えます。

今回は、ルールメイキングのさわりを紹介しました。今後、ルールメイキングのニーズは最近どこにあるのか、ルールメイキングとはほかの会社の業務とどう違うのか、陳情とはどう違うのか、実際にどう情報収集解析をしてどうアプローチするものなのかを含めた方法論という実践的な知恵の話もしていきたいと思います。