先週から今週にかけて、日本経済新聞がネット上で話題を集めている。
ことのきっかけは、週刊文春が3月17日発売号。文春は、ロシアのウクライナへの軍事侵攻を巡る自社報道に不満を持った同社常務取締役兼編集局長が、オンライン会議の席上でグループ長やデスクらに「全員立たせて怒鳴りたい」と高圧的な説教をしたと報じた。
20日にはFACTA ONLINEが、『日経新聞「看板記者」が続々退社』の見出しで、日本経済新聞で若手・中堅の退職者が相次いでいることを「号外速報」として報じた。
さらに、23日には週刊文春電子版が、「日経新聞の危機 依願退職53人、ハラスメント相談30件」との見出しの記事を配信。記事は昨年1年間で53人の日経新聞の記者が退職したことに触れ、「ツイッターのフォロワー数37万人を誇る、精緻な解説で人気だった日銀キャップ」も3月に退職届を出したことをスクープしている。
後藤記者「日経記者 やめます」
この記事が配信されるや否や、「ツイッターのフォロワー数37万人を誇る」記者としてネット民から特定されたのが、後藤達也記者だ。後藤記者は、24日時点でツイッターのフォロワー数37.2万人を擁する、同紙のエース記者。2004年入社後、金融市場や日銀、財務省、企業財務などを担当し、2016年から2017年には米コロンビア大学ビジネススクールで客員研究員にもなっている。
そんな後藤記者が文春の報道通り、日経新聞を退社することをツイッターで報告したのは23日。後藤記者は「日経記者 やめます」と切り出し、次のように退社報告をツイートした。
3月末で日経を退職し、フリーになります。このアカウントはしばらくしたら更新を止め、下記に拠点を移します。リツイート&チャンネル登録&フォローで応援してくださると幸いです!
◆日経記者 やめます
3月末で日経を退職し、フリーになります。このアカウントはしばらくしたら更新を止め、下記に拠点を移します。リツイート&チャンネル登録&フォローで応援してくださると幸いです!🙇♂️▼新Twitterhttps://t.co/nfkxKV1nyn
▼YouTube(まだ殺風景です…)https://t.co/xUbYZfOJMM pic.twitter.com/hmesosXrG6— 後藤達也(日経を3月末退職) (@goto_nikkei) March 23, 2022
退社報告と合わせて、ツイッターの新アカウントとユーチューブチャンネルの開設をアナウンスすると、これが大反響。ツイッターの新アカウントは、開設から1日足らずでフォロワーは12.9万人に上り(24日14時時点)、24日には世間の興味関心を集めるアカウントが本物であることを証明する「認証バッジ」もツイッター社から付与された。ユーチューブチャンネルのチャンネル登録数も、まだコンテンツがないにも関わらず、約1万6000人に上る。
朝日新聞、峯村記者も退社
エース級の新聞記者の退社と言えば、つい先日、朝日新聞の峯村健司記者が退社することも自身のツイッターで報告した。
【特別謹告】朝日新聞社を退職いたします。諸調整を終えたので、最初にフォロワーのみなさんに報告いたします。1カ月後の4月20日付けです。入社して4半世紀。数年前から日本そして世界により貢献できることがないか考えてきました。新たな挑戦をしていこうと思いますのでよろしくお願いいたします。
【特別謹告】朝日新聞社を退職いたします。諸調整を終えたので、最初にフォロワーのみなさんに報告いたします。1カ月後の4月20日付けです。入社して4半世紀。数年前から日本そして世界により貢献できることがないか考えてきました。新たな挑戦をしていこうと思いますのでよろしくお願いいたします。
— 峯村 健司 / Kenji Minemura『潜入中国 厳戒現場に迫った特派員の2000日』重版御礼 (@kenji_minemura) March 20, 2022
峯村記者は、北京やワシントンの特派員を歴任し、新聞協会賞やボーン・上田国際記者記念賞を受賞するなど、押しも押されもせぬ朝日新聞のエース記者だ。
若手記者が新聞社を退社することはこれまでも珍しくなかったが、後藤記者や峯村記者のような現役バリバリのエース級の記者が退社することは珍しかった。以前までであれば、テレビなど他のメディアに出演するのであっても、新聞社に所属しながら出演する記者が大半だった。
「組織」から「個人」の時代へ転換?
ユーチューブをはじめとするネットメディアやSNSの進展とともに、あらゆる業界で「組織」から「個人」の時代へ転換しつつあることは数年前から指摘されてきたことだ。キャリア形成の専門家でもある人材紹介会社でも、従来の「会社」選び前提の転職選びから、「個人」のが望む働き方や価値観に基づいた転職選びが主流になりつつあるという。
後藤記者や峯村記者の退社報告ツイートには、退社を残念がる声より「益々のご活躍を楽しみにしています」「新たな挑戦に期待しています」「独立おめでとうございます」「これからも引き続き応援しております」といった前向きな応援ツイートが大半だった。
このことも「組織」から「個人」の時代へと移り変わっていることの証左なのかもしれない。