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 新規定元年でマシンの見た目が大きく変わった2022年シーズンのF1。ついに開幕戦を迎え、昨年までとは勢力図もレース展開も大きく変わることになった。日本期待の角田裕毅(アルファタウリ)の2年目の活躍とともに、元F1ドライバーでホンダの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点でレースを振り返ります。

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 2022年のF1開幕戦バーレーンGPがついに開幕になりました。今年はマシンが大きく変わったシーズンですので、今回は全体的な印象からお伝えしたいと思います。

 今年のF1マシンはオーバーテイクや接近性を増やすという目的でレギュレーションが変更されました。実際、開幕戦のバーレーンGPでは上位争いと中段争いを分けて見てもそうなのですが、スタート直後の混戦具合を見ていても接近戦が戦いやすくなったという風に見えました。ドライバーも後ろに付いたときのダウンフォースの変化の許容範囲が扱いやすく、安心して前に近づけていたように見えましたし、狙いどおりの100パーセントではないにしても、その狙いの少なくとも6~7割は達成できているのではないかと感じました。

 レースではシャルル・ルクレール(フェラーリ)とマックス・フェルスタッペン(レッドブル)の抜きつ抜かれつのトップバトルが展開され、見ている側としては本当に大興奮でしたね。ああいったオーバーテイクがトップ争いで見られることは近年少なかったですし、一度追い抜いたらそこでバトルが終わってしまうことがほとんどだったので、走る側も見る側にとっても今年のF1は非常に良い方向に変わったという印象を受けました。

 また、今年はタイヤのホイール径がこれまでの13インチから18インチとなりましたが、こちらの影響は予想以上に大きかったように思います。レースでも3ストップ戦略になる展開で、あそこまでデグラデーションが厳しくなるとは思いませんでした。今回のレースを見ても、第2戦以降、今後のクルマを作っていくうえで、いかにデグラデーションを抑えるかというのがチーム側の大きなキーポイントになっていくと思います。

 走り始めの状態が良いときのタイヤは大丈夫なのですが、タイヤの表面のゴムが減ってきたときの落ち具合がこれまでの13インチタイヤよりも大きいということが、もしかしたらあるかもしれません。昨年よりもコンパウンドは1ランク硬くなっているわけですが、タイヤ自体の変化、そしてクルマの変更によるダウンフォースの出し方の変化など、いろいろな原因がミックスされた結果、ここまでタイヤが持たないというのは、タイヤを供給しているピレリ側としても予想外だったのではないかと思います。

 また、今年はタイヤウォーマーの温度が70度(2021年は90度)に下げられたので、アウトラップでのプッシュがしづらくなっています。ピットアウトしたときのタイヤの温め方、アンダーカットやオーバーカットの戦略面でもこれまでどおりでは戦えなくなっています。

 アウトラップでタイヤの温度が上がりきっていないときに無理にプッシュしてしまうと、いわゆる『タイヤを壊してしまう』という状況になります。これはタイヤの熱がまだ上がりきっていない内圧が低いときにプッシュしてしまうと、タイヤのゴム構造に支障をきたしてして、タイヤのコンパウンド自体の構造を痛めてしまう可能性があり、それをキッカケにタイヤが異常摩耗してしまうことになります。これはスーパーフォーミュラでもスーパーGTでも、どのカテゴリーのタイヤでも同じことです。

 ですので、ピットアウト後はそれこそ縁石にも乗らないようにすごく丁寧に熱を入れないとタイヤが壊れてしまい、タイヤの摩耗スピードが著しく上がってタイヤが持たなくなってしまいます。そのあたりのタイヤの使い方も昨年と大きく状況が変わったので、レース中、アウトラップのフェルスタッペンがペースを上げて前のルクレールをオーバーテイクしたいのに「この作戦に意味はない!」とチームに無線で訴えていたシーンが印象的でした。

 アウトラップで 『プッシュしたいけどプッシュできない』。チームもそのことを分かってはいますが、この無線のやりとりは今年のタイヤの低内圧時の管理がいかに難しいかということを象徴していました。今回の開幕戦では、このタイヤマネジメントの部分がすごく興味深かったですし、昨年までの定石が通用しなくなっているなと思いました。ここまでタイヤがクローズアップされることになるとは、本当に予想外でした。

 そしてレースではフェラーリがワンツーフィニッシュを達成して強さを見せましたが、開幕前のテストを見ていると全然不思議なことではありません。個人的なことですが、今年のフェラーリF1-75のカラーリングは、1990年くらいに僕がイギリスに行ってF1の前座レースを戦っているときに見ていたものと似ているので、一番カッコよく見えます。今年のレギュレーション変更によってすごくシンプルなマシンになり、カッコいいだけではなくて速いというフェラーリが戻ってきたことは、多くのF1ファンにとってすごくインパクトがありました。

2022年F1開幕戦バーレーンGP決勝
当初の2 ピット戦略から3ピットへと変わった開幕戦バーレーンの決勝レース

●クルマがよく曲がるフェラーリ。トラブル絡みの予選から巻き返した角田裕毅の成長

 フェラーリは2022年の新しいレギュレーションに合わせて作り込んできたマシンがうまく機能しているというのと、あとはパワーユニットがすごく最適化されていて、何かいい部分を見つけたのだなと感じました。同じフェラーリ・パワーユニットを使用するアルファロメオとハースも速さをみせているので、パワーユニットの面でも全体的に使いやすくなっているなと感じました。

 走りの部分では、フェラーリのマシンはすごく回頭性がよい特徴が見れました。今年のクルマはブレーキングが難しく、これは18インチになったタイヤに起因する部分と、新レギュレーションのグランドエフェクトによる影響というふたつが理由なのですが、低速コーナーに関してはリヤタイヤが少しグリップが強すぎる印象があり、どうしてもブレーキングした後にマシンを押してしまうような感じがあります。マシンの重量増の影響もあるかと思いますが、そうなると車体のダウンフォースがブレーキングした瞬間に抜けてしまいます。

 そこでブレーキを抜いたときにクルマが少しアンダーステア傾向になるのですが、そのときにリヤタイヤが強い印象があり押されてしまう。この2点の部分でブレーキがロックしやすいのですが、そこでブレーキを戻したときに回頭性がよければフロントが入っていきます。コーナリングではブレーキを戻してからアクセルを踏み始めるまでの空走区間が必ずあるので、そこでクルマが曲がっていくのが理想ですが、今年はその空走区間でクルマを曲げることに、どのチームも結構苦しんでいました。

 そのなかでも、テストの時からフェラーリはよく曲がっているなという印象がありました。今回の予選後に改めて映像やデータを見てもフェラーリのマシンは本当に曲がっていました。それこそ一時のメルセデスのように回頭性がよく、予選2番手のフェルスタッペンに比べてもステアリングの舵角がかなり少なかったです。

 この予選を見たときから、決勝でもフェラーリは絶対に強さをみせるだろうなという印象がありました。クルマの回頭性がよいとタイヤに無理をさせなくていいのでタイヤの保ち、マネジメントも楽になります。だからこそ、優勝したルクレールはセオリーどおりのクレバーなレース運びができましたし、それができるということはクルマが決まっているということでもあります。

 今年のクルマはマシンが跳ねてしまうポーパシング(バウンシング)現象があります。跳ねないようにながら快適性を取ると、どうしてもクルマが遅くなってしまいます。対して、セットアップの部分で速いマシンを作っていこうとすると乗り心地が悪くなる傾向があります。そのふたつのどちらを取るかという部分でドライバーとエンジニアは悩んでいたと思います。

 ですが、フェラーリに関してはそのあたりを見事なくらい決めてきていました。今年のクルマのセットアップはスイートスポットがかなり狭いと思いますが、フェラーリはそこで何かを見つけたのだと思います。

 そして開幕戦のトピックとしてはもうひとつ、ケビン・マグヌッセン(ハース)やアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)など、復帰組のドライバーがチームメイトより速さをみせるシーンが印象的でした。その大きな理由のひとつはクルマが新しくなっていることです。

 昨年のマシンに乗っていないので厳しいのではないかという予想とは裏腹に、これまでのマシンとはまったく違ったアプローチが必要となり、これまであまりマシンに乗っていなかったドライバーの方が逆に乗りやすいといいますか、マシンコントロールの部分でこれまで“10”の限界で攻めていたところを“9”くらいで走らないと逆にタイムが出せないような雰囲気がありました。

 攻めきってしまうとクルマは跳ねるしブレーキもロックして曲がらない。そういった部分で、ひさびさにF1復帰したドライバーは攻めきれなくてどうしても8~9割くらいで走ってしまいますが、そのことが逆に良かったりするみたいなところもあるのかなという風に見えました。

 最後になりますが、角田裕毅(アルファタウリ)選手に関しては、フリー走行3回目に油圧系のトラブルで走行できなかったことは本当に痛かったと思います。今年の新レギュレーションのクルマになった開幕戦で1セッション走れないというのはかなり大きな痛手です。それでも、その状況のなかで気温が下がったところでのクルマが良くないというコメントもあり、悪いことが重なってしまったことで予選は残念ながらQ1敗退(予選16番手)という結果になりました。

角田裕毅(アルファタウリ)
2022年F1第1戦バーレーンGP 角田裕毅(アルファタウリ)

 そこで気落ちして決勝で乱れてしまうのか、それとも昨年一年間学んできたことを活かして確実に順位を上げていくのか注目して見ていましたが、角田選手は後者の方でした。スタート直後の混乱もうまく避けて順位を上げて、見事にタイヤもマネジメントしました。本当に昨年学んだことをきちんと形にして、結果としてレッドブル・パワートレインのパワーユニットを搭載した4台のなかでひとり生き残り、きちんとポイントを獲ってきたことはかなりの価値があると思いますし、今後に向けての自信にもつながると思います。

 第2戦は1週間後にサウジアラビアGPがありますが、現時点の勢力図を考えるのはすごく難しいです。フェラーリの1強なのか、レッドブル、メルセデスを加えた3強と言うべきか。開幕戦だけを見ると正直フェラーリが強いのですが、先ほども言いましたが今年のクルマはスイートスポットがかなり狭いと思いますので、サーキットの特性によってスイートスポットが合う/合わないが出てくると思います。

 第2戦もフェラーリが強いことは間違いないと思いますが、サーキットとの相性によるポジションの入れ替えは起こる可能性があります。開幕戦で低迷気味だったメルセデスも何かを見つけてくると思いますし、まだ23戦のうちの1戦が終了しただけなので、そういった意味ではメルセデスは絶対にどこかで上がってくると思います。

 そして、中団勢でもそれこそハースやアルファタウリ、アルファロメオといったチームが、どこかでスイートスポットに合うようなクルマを作り上げて上位に来る可能性もあります。そうなると展開がまた読めなくなってきますね。

<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP https://www.c-shinji.com/
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