東京・秋葉原駅にほど近い神田須田町にある「ケンクラフト」といえば、建機専門のミニカーショップとしてよく知られた存在だ。
その店主である高石賢一さん(通称ケンさん)は、精巧なスケールモデルをこよなく愛するこの道の第一人者。国内外の建機やトラックに精通しており、その見識は実物と見まごうスケールモデルに見事に反映されている。
実車を見ながら精巧なミニチュアに親しむ……、このほど輸入された家畜運搬トレーラを題材にケンさんにホビーの醍醐味を語ってもらおう。
文・写真/高石賢一(ケンさん)
2021年9月発売トラックマガジン「フルロード」第42号より
モデルはいすゞギガトラクタ+ベルデックス社の家畜運搬トレーラ
今回ご紹介するスケールモデルは、先ごろ発売になった「いすゞギガ4×2、 ロールーフ、ショートキャブ、ロングホイールベース 1/50 WSI」と定番の「ベルデックス家畜運搬トレーラ 1/50 WSI」。
メーカーはオランダのWSI社、同社はトラック、トレーラ、重機、クレーン車をメインで製造。スカニア、ボルボ、メルセデスベンツ、ダフ、イベコ、ノーテブーム、リープヘル、タダノ等、大手メーカーのモデルをたくさん手掛けている。
意欲的な開発とユニークなアイデアを製品に生かし、高いクオリティでファンも多い。製造は中国工場だが、経験値は高く、安定したクオリティを維持している。
WSI社が手掛ける初の日本車
いすゞは彼らが手掛ける初の日本車で、右ハンドルの日本仕様となる。しかし、実車はほとんど輸出されておらず、マーケット的にも小さいと思われる日本車をなぜ選んだのだろうか?
ショートキャブ、ロングホイールベースはキャリアカーを牽引していたりするが、あまり見かけることのないタイプ。実は彼らにこのタイプよりも標準の4×2、6×4を提案したが「設計が終わっていて変更できない」との返事。さらに車種を展開していくとのことなので今後に期待しよう。
モデルは基本彼らのセオリー通りにスケールダウンされ、ボディ、シャシーだけではなくサイドガード、燃料タンク、エアタンク、補器類等もダイキャスト製パーツを使い、小さい割に重量感のあるモデルになっている。
同社の他モデルよりもシャープでクリーンな仕上がりと言っていいだろう。もしかしたら設計者が変わったのかもしれない。
大きく舵の切れるフロントタイヤは大型トラックの雰囲気を伝えており、いい感じだ。チルト可能なキャブを開けるとエンジンを見ることができ、ラジエターやエキゾーストパイプ、ホース類も再現されている。
開閉させるためヒンジ類が大きくなり、周辺のクリアランスが大きくなってしまうのは、いたしかたないところだろうか。
丁寧なつくり込みで模型映えがする
今回ボディカラーは白一色のみで、カラーバリエーションはない。バンパー、グリル、フェンダー、コーナーパネル、ミラー等はクロームメッキ、フルメッキ仕様で模型映えがする。メッキの状態は非常に良く、顔が写り込むほど。
いわゆるプラスチックメッキではなく、銅等の金属下地処理をした後、本物のクロームメッキをしていると思われる。タイヤは欧州車用を使い回しせず、微妙に小さい日本車サイズのタイヤを新規で起こしている点はポイントが高い。
パッケージは今までの同社製品にはなかった白を基調とした赤い日の丸、日本をイメージさせるデザインで好感が持てるものだ。
現物を手にするまでわからなかったが、258台生産の限定で、ご丁寧にナンバリングしたカードが同梱されている。ホイールベースが長いのが幸いして家畜運搬トレーラとのマッチングもぴったり。
このトレーラを導入した会社はギガで引かせるとお聞きしている。
モデルは大きなボディ、底板等ほとんどダイキャスト製でずっしりと重く、しっかりした作り。特徴的な巨大なテールゲートやルーフ、サイドのパネルが開閉しないのがちょっと残念だが、コスト面で諦めたのだろう。
エアサスペンションのディテールは再現されていてスプリングが仕込まれ、豚さんに優しいエアサスの乗り心地を再現している。今まであまりなじみのなかった外国のトレーラも輸入が増えてきて、模型のコレクションの幅が広がっていくのは嬉しいかぎりだ。
日本に輸入されたベルデックス社の家畜運搬トレーラ
さて、ここからは実車の話である。このほど家畜運搬トレーラの製造に特化したオランダ・ベルデックス(BERDEX)社の家畜運搬トレーラが初めて輸入されたのでレポートしよう。
同社は第二次世界大戦後すぐの1947年創業。独自のモノづくり哲学で革新的なトレーラを開発。当初より欧州を行き来するトレーラを目指していた。
家畜を生きたまま安全に運搬することは、我々がクルマに乗って移動することとは違うむずかしさがありそうだ。確かに愛犬と一緒にドライブするだけでも、人を乗せるのとは違う環境を作ってあげる必要がある。
食肉になるのだから適当に乗せて運べばいいのでは、とも思ったが実はそうではなかった。
養豚場や牧場から豚をスムーズに乗せ、安全に豚が怪我しないように運ぶ。トレーラにはどんな工夫が必要なのだろうか。豚だけではなくドライバーをはじめ携わる人達にもストレスが少ないほうが良いことは言うまでもない。
欧州のトレーラの車幅は国内基準の2500mmを超えているため、車幅2490mmに設計し直し、日本仕様として輸入元が特注したものだ。全長は12990mm、全高3790mm。カプラー位置も含めてオーバーハングが長いためホイールベースの長いトラクタで牽引する。実車を目の前で見ると背が高く、かなり大きく感じる。
ボディはアルミ製で3段式の床を採用
重そうに見えるが、ボディはアルミ製で10.5tと軽量につくられているため、最大積載量は25t。大きな油圧式テールゲートを開けると、三段式の床が現れる。このゲートは開くだけではなく水平にリフトアップしてそれぞれの階に豚を移動できる。
奥までは距離があるので庫内には仕切り扉が4カ所が付いていて、豚を10頭ずつくらい囲うことができる。これもアルミ製でワンタッチで開閉できる構造だ。
1段ごとの高さは豚の背より少し高いくらい。一頭約120kgの豚を200頭以上載せられるので、大型トラックで回数を運ぶよりも労力、コスト面で有利だ。
3軸、ダブルタイヤ、エアサスペンション仕様、これだけでも乗り心地はいいだろう。復路、空荷の時は前後2軸を上げ1軸で走行、燃費節約、高速代節約を図れるリフトアクスルを採用。
豚さんに快適に過ごしてもらうためのアイデアも
また、道中、豚に快適に過ごしてもらうため、サイドパネルは上下にスライドして風通し良くなるよう窓を開けることができる。さらに渋滞などで停車したときには電動ファンで換気できる。
床は彼らが滑りにくいような突起のあるデザイン。掃除がしやすいシンプルな構造で、いつも庫内を清潔に保てるのも重要だ。天井は開閉可能で最上階に豚を乗せるときに人間が作業しやすい設計になっている。
豚は足の構造上、スロープを上ることはできるが、下ることはできない。彼らを載せるときにも降ろす時もうまく誘導できる通路が必要。ベルデックス社では養豚場からトレーラまでの誘導通路も製造している。
豚にとってはかなり快適な環境ではないだろうか。こんなハイクオリティなトレーラが生まれた背景には、欧州の Animal Welfare /動物福祉という動物愛護に基づいた家畜にも優しい思想がある。
その辺の事情をオランダ農業振興会の方にお聞きした。豚は一緒に生まれ育った兄弟たちと一緒いるほうがストレスが少なく、肉も美味しいという。そんな彼らを搬送するときも極力ストレスを減らすアイデアが必要だったのだ。
オランダでは年間1400万頭(2011年)生産、そのうち約70%が欧州をはじめ世界中へ輸出され、日本へも精肉のほか大ヨークシャーなどの種豚が輸入されている。輸出量はアメリカ、ドイツについで世界第三位(2011年)となる。
チューリップと風車が有名だが、実は畜産先進国で動物愛護の精神に基づきながら、安全で健康的な美味しい食肉を生産、供給している国でもあるのだ。このトレーラは現在4台が活躍中とのことなので見かけるチャンスがあるかもしれない。
●取材協力:日本ロジスティクス イノベーション(ベルデックス輸入・販売)、オランダ農業振興会
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