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 ドイツの大手商用車メーカーでフォルクスワーゲングループのトレイトンに所属するマン・トラック&バスは2月17日、間もなく量産を開始するBEV(バッテリーEV)大型トラックを公開した。製造は2024年の年頭からとしており、当初の計画をおよそ1年前倒しした形だ。

 ニュルンベルクで公開されたのは量産前のプロトタイプで、仕様などは公開されていない。また、アーリーステージの顧客が電動化に備えることができるように、包括的なeモビリティソリューションの準備を進めていることを明らかにした。

 併せてバイエルン州政府が進める水素モビリティプロジェクトへの参画も発表。2024年中に水素燃料電池を搭載した大型トラックで実証運行を開始する。脱炭素に向けて欧州はさらにアクセルを踏み込んでいる。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/MAN Truck & Bus


量産を目前に控えたBEV大型トラックを初公開

 ドイツ・ミュンヘンに本社を置くマン・トラック&バス(以下、マン)はゼロエミッション商用車に向けた変革を加速している。BEV大型トラックの製造を1年前倒しした上で、最初の200台を2024年の始めに納入すると発表した。

欧州トラックの「脱炭素」はさらに加速!! マンがBEV大型トラックの量産を1年前倒し
マンのBEV大型トラック(量産前のプロトタイプ)。キャブは2020年にモデルチェンジした最新のTGXがベースとなっているようだ

 トラックの購入は運送会社などの顧客が、事前に事業計画を立てた上で決定することが多い。このためアーリーステージの顧客が電動化に備えることができるように、包括的なeモビリティソリューションの準備も進めている。

 マンのCEO、アレクサンダー・フラスカンプ氏は次のように述べている。

 「私たちは電動化をさらに加速しています。しかし、これが成功するためには、お客様をサポートし、彼らが電動化に納得できるようにeモビリティを強化しなければなりません。この目的のため、デジタルソリューションと充電に関するオファーを準備しています」。

 ディーゼルからBEVへの転換には電動車両の購買決定に先だってヒューリスティックな分析が必要となる。また、購買後の運用フェーズにおいてもコスト最適化、ルート分析、フリートと充電インフラの最適化などが求められる。

 顧客が化石燃料フリーの「持続可能な輸送」を実現するためには、コンサルティングが不可欠だというのがマンの考えで、「eコンサルティング」の提供を準備しているようだ。

 量産型のBEV大型トラックはミュンヘンにあるマンのeモビリティ工場で製造する。加えてバッテリーパックも社内で製造し、BEVトラックの付加価値を強化する。量産モデルでは輸送セクターの大部分をカバーすることを目指す。

 バッテリーは電気駆動で最も重要なコンポーネントだが、マンはバッテリーパックの組み立てを2021年春から開始しており専門知識を深めてきた。その中心はニュルンベルクのeモビリティ・テクニカルセンターで、BEV用バッテリーパックの試験を行なっている。

 大型商用車のバッテリーパックは巨大なものになる。いくつかのバッテリーセルを組み合わせてバッテリーパックとし、車両にはこれを複数搭載する。マンのシティバス「ライオンズ・コーチ」(全長12m)の量産型BEVモデルでは、1機あたり80kWh容量のバッテリーパックを6機搭載している。

 このバスの場合、航続距離は350kmだが、実際の走行距離はこれより長くなり、同車は2021年5月に行われた「エフィシェンシー・ラン」で、ミュンヘンの公共交通において途中充電なしで550kmを走っている。

 もちろん地形や運転スタイル、気温、エアコンの使用といった影響は受けるが、BEVバスはすでに多くのケースで必要とされる航続距離を実現しており、普及が進んでいる。大型トラックの使用条件は、航続距離や重量などバスより厳しい。

水素モビリティの開発も継続

 いっぽう、水素モビリティに関しては、バイエルン州政府が850万ユーロ(約11億円)を投じる「バイエルン・フロッテ」計画への参画を表明。トレイトングループがBEVに注力する方針を示しているのでやや意外だが、フラスカンプ氏は次のように話している。

 「トレイトングループはバッテリー電気駆動に焦点を当てています。水素に関しては2030年以降に充分なグリーン水素が供給され、充分なインフラが整備されれば、一部の領域で水素トラックが活躍すると思っています。私たちが水素の研究を継続し、バイエルン州とともに経験を積み上げていく理由はそのためです」。

(「グリーン水素」とは、製造工程においても二酸化炭素を排出することなく、再生可能エネルギーを利用して製造した水素のこと)

 「バイエルン・フロッテ」は、州政府が独自の水素戦略とその能力を検証するための研究プロジェクトで、マンはボッシュ、フォーレシア、ZFなどのメーカーと共に水素燃料電池(FCEV)トラックを開発する。

 このトラックは2024年の中ごろに顧客(BayWa, DB Schenker, GRESS Spedition, Rhenus Logistics, Spedition Dettendorferの5社)のもとに届けられる。それぞれの会社は1年間の実運用を通じて水素トラックを試験する。

欧州トラックの「脱炭素」はさらに加速!! マンがBEV大型トラックの量産を1年前倒し
マンはバイエルン州の水素モビリティ計画への参加を表明、イベントには州首相ら政府の高官も駆け付けた

 BEVとFCEVは技術的には共通する部分も多く、特に電動モーターなどの駆動系は同じ。マンはBEVを基礎技術とし、将来的に使用される可能性のある水素パワートレーンをその上に構築することを考えている。重量の嵩むバッテリーの代わりに軽量な水素タンクと燃料電池を搭載する形だ。

 現在、エネルギー量という点では水素のほうがバッテリーより優れているが、水素のコストは予測可能な未来においても明らかに高い。走行距離が長い商用車にとってエネルギーコストは最も重要な要素となる。

 エネルギーの媒体としての水素のもう一つの重要な側面は、輸送セクターで必要とされる充分な量のグリーン水素を確保できないという点だ。このため「水素社会」が実現するとしても、商用車ではなく製鉄や化学などの分野から利用が拡大することになる。マンがFCEVを2030年以降とするのはこのためと思われる。

 ともあれ、ルドルフ・ディーゼル博士とともにディーゼルエンジンを実用化したことで知られるマンが、脱ディーゼルに向けてフルスロットルで突き進む現状に時代の変化を感じずにはいられない。

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