少しでもクルマに興味のある人なら、「カウンタック」を知らない人はいないだろう。歴史的にみてもランボルギーニを代表する1台であるのは偽りのない事実であるし、当時としては衝撃的なスタイルだった。
そんなカウンタックだが、2021年8月13日にリバイバルされて新車販売されることが発表されていた。そして最近、その生産車両が公道を走り始めたらしい。今回はその新型カウンタックについて、西川淳氏に語ってもらった。
文/西川 淳
写真/ランボルギーニ
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■デビュー当初から賛否両論の新型カウンタック
新型カウンタックが公道を走り出した、らしい。112台の生産も順調に進んでいるのだそう。日本人向けの個体のなかにはそろそろ完成するものもあるという。走り出してもらわなければ困るというタイミングでもある。
もっともカウンタックLPI800-4のベースはすでに「82台の実績」があるシアンで、元を正せばアヴェンタドールなわけだから、新たな鎧をまとう開発とテストも順調に進んで当然というわけだ。
新型カウンタックに関してはデビュー当初から賛否両論が渦巻いている。賛成はもちろんのこと、反対にも、否、反対にこそピュアなカウンタック愛が満ちあふれているのだから、まこと偉大なクルマだというほかない。
「マルチェロ・ガンディーニのオリジナルスタイルを超えることはできなかった」。否定派はそう言う。そりゃそうだ。いつの時代も評価の定まった、それもトップランクに決定した大元デザインを超えることなどたいてい不可能である。
■原点を超えようとするのではなく、モダンに解釈し直すということ
もちろん当のランボルギーニ社だって、熱狂的なカウンタックファンであるチーフデザイナーのミッティア・ボルカートだって、ガンディーニデザインを超えてやろうなどとは思っていなかったに違いない。
逆説的に言えば、そもそも超えることのできそうなデザインなどあえてリバイバルさせる必要もない。偉大過ぎるからこそモダンに解釈し、リバイバルさせる価値があるというものだ。別格の勝負、である。
筆者はもちろん、ガンディーニ・カウンタックの崇拝者だ。かつては生産台数わずかに150台というカウンタックLP400も所有して大いに乗り回した。そんな筆者でも新型カウンタックの写真を見て随分と興奮し喜んだ。
オリジナルデザインを超えることができなかったからといってLPI800-4がカウンタックと名乗る資格がないとはまるで思わなかった。それどころか、その中身がシアンであると知った瞬間に「カウンタックだ」と確信することができた。なぜか。
理由はシンプルだ。シアンであるということは、カウンタック以来の由緒正しきDNAを引き継いでいるからだ。
もう少しわかりやすく言おう。カウンタック以降のフラッグシップモデル、つまり、ディアブロ、ムルシエラゴ、アヴェンタドール、そして、それらの派生モデルたちは由緒正しきDNAを引き継いできたが、故にすべてが「カウンタック」だった、というのが筆者の見解だ。
■ランボルギーニの文化、カウンタック愛の源
由緒正しきDNAとは何か。それこそがカウンタック愛の源というべきものだから詳しく説明したい。
多くの人がガンディーニデザインこそカウンタックの真髄であると言う。確かに50年前にあのカタチの出現はまるで宇宙船に見えたことだろう。奇才による奇跡のデザインには違いない。
けれども正しき血統のありか、愛の源を探るためには、なぜあのデザインをガンディーニが描いたのか、その理由まで突き止めなければならない。彼は決して思いつくままにあのデザインを描いたわけではなかった。
もうひとり、重要な人物に登場願おう。天才エンジニア、パオロ・スタンツァーニ。惜しくもすでに故人だが、彼なくしてカウンタックは生まれなかった。彼が生み出した「とあるアイデア」がなければ、ガンディーニが奇跡のデザインを描き出すこともなかったからだ。
それは長く巨大な12気筒エンジン+トランスミッションを通常のミドシップレイアウトとは前後逆にするというアイデアだ。
1960年代末にジャンパオロ・ダッラーラの跡を継いで開発部門の陣頭指揮を取ることになったスタンツァーニは、12気筒エンジンを横置きミドにしたミウラに代わるフラッグシップモデルの開発をフェルッチョ・ランボルギーニから託されていた。
ミウラの長所(=FRのようなミドシップデザイン)と欠点(=安定したパフォーマンス)はいずれもV12エンジン横置きに起因していた。そう分析したスタンツァーニは性能のほうにこだわり、エンジン縦置きを模索する。
けれどもそうするとミッションケースはリアアクスルから後方へと大きく張り出し、ル・マンカーならともかくロードカーとしては全長的にも、またトランクスペース的にももはや成立しえない。
■まずV12ミドのロマン、次にそれを実現させる開発
巨大なパワートレーンをどうすれば縦置きリアミドにできるのか。12気筒にこだわるスタンツァーニはパワートレーンごと「ひっくり返す」という奇策を思いつく。この時点ですでに将来の4WD化も彼の頭のなかにはあった(ディアブロから採用される)。
運転席と助手席を隔てるように逆向きのミッションケースが鎮座し、巨大なV12エンジンはかろうじてリアアクスルの前に収まった。そしてF1マシンのようなサイドラジエター方式を採用。そんなスタンツァーニのアイデア、つまりはLPレイアウトにガンディーニは似合うスタイリングを描いた。
2名分の乗車スペースとリアには立派なトランクさえ設けられた。カウンタックの象徴というべきシザードアなどは、「その方法しかドアの開閉ができない」という必然のアイテムであった。
奇跡のレイアウトあってこその、奇跡のスタイリング。
■LPの血統
1971年、プロトタイプが誕生した。昨年2021年はその50周年。ランボルギーニ社では当初、ミウラ40周年の時のようなコンセプトカーを作るつもりだったのだろう。ところが、エンジニアリングチームとデザインチームが市販可能なロードカーに執着したらしい。
サイズやデザインだけを考えたなら、V10エンジンを積んだウラカンをベースにすることもできたはずだ。けれども開発陣は安易な道を選ばなかった。それこそ「クンタッチ」ではなくなるからだ。
どれほどガンディーニデザインに肉薄しようとも、ひょっとしてさらに格好よく優れていようとも、ウラカンをベースにすればそれはもはや「カウンタック」ではない。
なぜならスタンツァーニのLPレイアウトを採用していないからだ。ガンディーニがカウンタックを生み出した源がないからだ。カウンタック愛の源だ。
スタンツァーニのLPレイアウトこそ、引き継がれしDNA。カウンタックによって基礎が固められたモダン・ランボルギーニのブランドイメージを司る根本なのだ。
それゆえLPレイアウトのアヴェンタドール&シアンをベースに、オマージュを作り上げた。由緒正しき血統を彼らは決して忘れていなかった。
モダン・ランボルギーニにおけるディアブロ以降の全てのフラッグシップモデルは、名を変え、姿を変えたカウンタックだった。であれば、半世紀の節目にその名前を復活させて悪い話などどこにもない。わずか112台の限定車、50年の祝祭にふさわしい、それは神輿だったろう。
■文化や愛は見えずとも、純粋な心を熱狂させる
カウンタック愛は、スタンツァーニとガンディーニのコラボレーションへの愛だ。そして最も重要なことは、そんな舞台裏などつゆ知らず、世界中の子供たちが熱狂したことである。
子供の感性は本物を見極めていた。その現象としてのガンディーニデザインを感じ取っていたと言えば、小さい頃からカウンタックに憧れた自身への過大評価となるだろうか?
蛇足ながら、もし現地読みに近い車名、クンタッチやクンタッシではなく、カウンタックと子供たちには呼びやすくカッコいい語感であったこともまた幸いしたと思っている。
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