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 2クラスが混走し、激しい争いが繰り広げられるスーパーGT。ホイール・トゥ・ホイール、バンパー・トゥ・バンパーのバトルは観客にとって魅力的だが、その“副作用”として車両同士の接触や、予期せぬクラッシュ・トラブルなどもしばしば起こる。

 そんな”難しいレース”をコントロールしているのが、レースコントロール室(管制室)だ。

 事故が起きれば場合によってはレースを止めなければならないし、緊急車両や医師を現場に向かわせなければならない。マシン同士の接触が起きれば、映像などで事実関係を検証し、場合によってはペナルティを科すこともある。それらの作業はすべて、このレースコントロール室が起点となって行われている。

 今回は、スーパーGTでレースディレクター(以下、RD)を務める服部尚貴氏に、スーパーGTのレースコントロール術、そして知られざる管制室の“真実”を聞いた。

 服部氏は2007年までGT500に参戦。この年、スーパーGTには接触判定などの平準化を狙うドライビング・スタンダード・オブザーバー(以下、DSO)職が置かれた。服部氏は引退した翌年、このDSOに就任。2017年途中からはレースディレクターへとそのポジションを変えたが、この14シーズン、一貫してスーパーGTのレースコントロールに携わってきた(現在はRDとDSOを兼務)。

 その一方、スーパー耐久、86/BRZレースに参戦するなど、“現役ドライバー・服部尚貴”としても健在であり、自らステアリングを握るからこそ得られる知見を、RD職においても存分に発揮しているという。

 まずはスーパーGTのレースコントロール室では、どんな人々が働いているのか。服部RDの言葉とともに、その組織を明らかにしていこう。

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 コースを映し出す無数のモニター画面が並ぶ、レースコントロール室。サーキットにより異なるが、その画面に向かって配置につくスタッフの人数は、30人ほどにも及ぶ。

「簡単に言えば、レースを運営するため、コースを管理するための、いろいろな“部署”があるというイメージです。コースを管理する部署があり、レスキューに関わるところがあり、メディカルがあり、テクニカルの部署もある。あとは接触判定などの検証チーム。さらに別の部屋には計時の部署がある。大きく割ると、そのような形で動いています」

富士スピードウェイのレースコントロール室(2016年スーパーGT公式テスト)
富士スピードウェイのレースコントロール室(2016年スーパーGT公式テスト)

 たとえば、コース上でクラッシュが発生したとしよう。

 その情報はまず各オフィシャルポストからレースコントロールに報告される。それらの情報と映像モニターから、コントロール室ではコース管理が車両の撤去を、怪我人がいるのであればレスキューとメディカルがその手配を行い、車両同士の接触を伴う案件であれば検証チームが映像検証作業を始める、といった形で、ひとつの事象に対してさまざまな部門が作業にあたっていく。

 なお、デジタルフラッグを採用している富士スピードウェイでは、コース脇のポストで黄旗が提示されると同時にイエローのボタンが押され、それによってレースコントロール室の当該区間の映像モニターも連動して黄色く光るシステムになっている。

「昔は“伝言ゲーム”みたいだったけど、いまはかなり早く状況が共有できるようになり、初動までの時間がだいぶ短くなっていると思う」と服部RD。

 この組織の頂点に立つのが競技長だ。そして服部氏が担うレースディレクターは、この競技長とほぼ同等のポジションに並ぶ位置関係となる。

 お手元にレースの公式プログラムがある方は、その末尾に記載されている『大会役員』の項を参照いただきたい。『競技役員』とあるのが、そのサーキットが組織する競技団。つまり、ここはサーキット/イベントごとに異なるスタッフで組織され、競技長も含まれている。

 一方、『GTアソシエイション派遣役員』とあるのが、文字どおりGTAから全レースに派遣される役員で、メンバーは固定。ここにRDやDSOをはじめ、テクニカルやセーフティなど各分野における責任者である“デリゲート”と呼ばれるポジションが含まれている。

 RD含め、GTAが固定メンバーの派遣役員を置く目的は、さまざまな面での“平準化”だ。これには接触の判定はもちろんのこと、競技に不可欠な車検などにおける公平性、万が一の際の緊急車両や医師の運用などの安全性を一定水準に保つ意味も含まれている。『スーパーGTを熟知している、常任のスペシャリスト』というわけだ。

 RDについてGTのスポーティング規則では、「SUPER GTスポーツ活動の連続性および統一性を維持するため、競技長に協力しSUPER GTレースのスケジュールの管理、レース運営(Live放送 、シリーズ競技会としての成立、ドライバーの統率等)、レース運営のシリーズ平準化等を主役務とする」と記されている。

 RDと競技長の関係について服部氏は、「どちらが偉い、というものではない」と説明する。

「たとえばレースを止める(赤旗・セーフティカー[SC]・フルコースイエロー[FCY]などで非競技化する)判断を最終的にするのはRDで、最終的な責任もRDが持ちます。この部分に関しては、『51対49』の関係性になっています」

「ただその過程では、そのサーキットに精通している競技長の方が、よく分かっていることがある。たとえばそのサーキットが持つレスキューの機動力について、などですね。それを踏まえて車両の撤去が長引きそうだと競技長が判断すれば、『FCYではなくてSCにする』と自分が決断することもある」

 そして、競技長とRDが協力関係にあるのと同様、サーキットの競技団とGTAの派遣役員は、多くの分野で協力して作業にあたっている。たとえば服部RDが言うところの『検証チーム』を担うのは、競技役員である数名の副競技長と、派遣役員である3名のDSO(服部氏、村上敦氏、松田晃司氏)だ。

 スポーティング規則によれば、DSOは「競技長およびレースディレクターに協力し、ドライビング行為にする判断および判断例等の情報蓄積と情報提供を行う。また、ドライビング・モラルハザード制度の運用により、ドライブ行為に対する判断の基準と平準化を担う」と記されている。

 では、具体的にどういった仕事が行われているのか。次回は『車両間の接触』というシチュエーションを例に、ペナルティが科されるまでの作業フローを明らかにしていきたい。
(第2回へつづく)

スーパーGTでレースディレクターを務める服部尚貴氏。ドライビング・スタンダード・オブザーバーも兼務する。
スーパーGTでレースディレクターを務める服部尚貴氏。ドライビング・スタンダード・オブザーバーも兼務する。