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 先般、「日産が日欧中向けガソリン車の新規開発を終了する」との報道があった。それに対して日産のグプタCOOは、「欧州向けは新規ガソリンエンジン開発を終了するが、日本と中国に関しては、お客様がいるかぎりそのようなことはない」と回答した。

 日本市場に関しての発言の要旨は、次のようなものである。

「日本市場については、2026年度までに新車販売の55%の電動車が目標。つまり45%は電動車ではない。わたしたちは電動化を進めているが、それはお客様が望むかたちで、自然にシフトしてゆくものだと考えている。決めるのはあくまでお客様だ」

 なるほどと思わされる説明だが、「お客様が存続を望んでいる日産のガソリン車」って、考えてみるとどれだろう? ”エンジンマニア”として知られる自動車評論家・清水草一が総括する。

文/清水草一
写真/日産

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■名機「RB26DETT」に匹敵するのは……

 真っ先に思い浮かぶのは、3.8L V6ツインターボ(VR38DETT)を搭載するGT-Rだが、騒音規制をクリアできないため、生産終了は秒読み段階。これはもう仕方ないし、個人的には、それほど惜しいという思いも沸かない。

 GT-Rはすでに14年間も生産され、十分にその役割を果たした。エンジンの味わい的には、ものすごくステキかというとそうでもなく、とにかくパワフルで、「結果を出すマシーン」という以外、心に刺さる部分はそれほどなかった。サイボーグ的と申しましょうか。

 それに比べると、第二世代スカイラインGT-Rに積まれたRB26DETTは、今乗ると風情も満点。RB26DETTは、今でも多くのマニアを魅了している。

 それに匹敵するんじゃないかと私が考えるのが、スカイライン400Rに積まれた3.0L V6ツインターボ(VR30DETT)だ。現行GT-Rに比べると、はるかにパワーは小さいが、味わいとしてはRB26DETTにも通じる風情がある。具体的には、トロトロッとソフトに回ってドカーンと炸裂する、古典的に気持ちいいターボエンジンの味わいだ。思わず「ウヒョー!」と叫びたくなってしまう、内燃エンジン独特の「タメ」がある。

「スカイライン」としては史上最高となる400馬力超を実現したVR30DETT

 このエンジンが、新型フェアレディZにも積まれるのは、本当に喜ばしい。新型Zはこのエンジンを積んでいるだけで、名車と呼ばれる予感ビンビンだ。スカイライン400Rはともかくとして、日産は新型Zを末永く、ギリギリまで作り続けてほしい。このエンジンなら、EVがどれだけ進化しても、それとは別の魅力を味わいたいという「お客様の要望」があるだろう。

■そのほかのエンジンはどうか?

 VR30DETTには、304馬力仕様もあるが、そちらは405馬力仕様に比べると大幅におとなしく、「残して欲しい!」とまでは思わなかった。また、フーガやエルグランドなどに搭載されているVQ系V6エンジン(ノンターボ)も、悪くないとは思うが、心に刺さった部分は特にない。

 4気筒系では、唯一マーチNISMO Sがマニアの心に刺さるクルマだが、それはハンドリングに関する部分で、1.5Lエンジン(HR15DE)は最高出力116馬力に過ぎず、フィーリングもぜんぜんまったくたいしたことはない。

 現在の日産にとって、主力のパワーユニットはe-POWER。つまりモーターになっている。e-POWERのエンジンは発電用の黒子で、黒子の存在をいかに消すかが最大の課題だ。我々ユーザーとしても、e-POWERのエンジンは、「かかるとうるさいからできれば消えて欲しい」と願っている。

今や日産の看板製品となっている「e-POWER」は海外でも展開されている

 デイズ/ルークスに積まれた軽自動車用3気筒660㏄は、トルクフルでスムーズでなかなか気持ちいい。ただこれも、「ぜひ残して欲しい」とまでは思わない。

 こうして見てみると、すでに日産のラインナップで、ぜひ残して欲しいガソリンエンジンは、VR30DETTだけになっている。そして、「これ以上にマニアックなヨロコビのあるガソリンエンジンを新規開発しろ!」というのが無理難題であることも理解している。

■平凡なエンジンならモーターのほうが上!

 私を含めたカーマニアは、内燃エンジンが消え、EVオンリーになることを憂いている。欧州がEVオンリー政策を全世界に押し付けようとしていることへの反感も抱いている。

 しかし現実として、長く残して欲しいとまで願う内燃エンジンは、すでにそれほど残っていない。日産ではVR30DETT(405馬力仕様)だけ! 国産他社を見回しても、ほんのわずかを残すのみだ。第二世代スカイラインGT-Rを始めとして、かつての名エンジンを積んだ中古車が高騰するのも無理はない。

R34、R33、R32型と第二世代スカイラインGT-Rの中古車は軒並み高額に。2000万円を超える物件もザラにある!

 一部の名エンジンを除けば、現在残っているエンジンの大部分は、ある意味「ごく普通に走るだけ」の実用機械にすぎない。それでも我々が内燃エンジンにこだわるのは、まだEVの充電が面倒くさく、その分、自由の翼を奪われるからである。

 EVだって、充電の煩わしさやバッテリーの耐久性などが解決すれば、なんの問題もない。ロードスターのような軽量スポーツはまた別だが、一般的な実用車に関しては、モーターのほうが静かで快適で、メリットのほうが大きい。EVがあらゆる面で進歩すれば、一部のマニアックなモデルを除いて、ガソリン車に取って代わるのは自然なこと。それが何年後かはわからないが、時間の問題だろう。

 つまり、日産グプタCOOの「(電動化は)お客様が望むかたちで、自然にシフトしてゆくものだと考えている。決めるのはあくまでお客様だ」という発言は真理を突いている。決めるのは我々なのだ。

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投稿 日産のガソリン車は新規開発終了!?? でも「残してほしいエンジン」はひとつだけ!自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。