ラジアル構造とバイアス構造はタイヤの基礎知識かもしれませんが、逆に「いまさら聞けない」ということも……。
乗用車やトラックではラジアルタイヤがほぼ100%になっています。いっぽう、特殊車両など、車両の特性によっては現在でもバイアスタイヤが使われます。
タイヤとクルマと道路は、それぞれに影響を及ぼし合いながら、時代に合わせて進化してきました。現役タイヤマンのハマダユキオさんによる「タイヤの進化論」です。
文・写真/ハマダユキオ・フルロード編集部
トラック用ラジアルタイヤの登場から70年
「今度、ラジアルタイヤにしようかな?」
「今、ノーマルだからラジアルにしてくんない?」
なんて会話は現代では、ほぼありません。それだけラジアルタイヤは浸透し、普及しているのです。
当然ながら、タイヤが発明された当初からラジアルタイヤが存在していたワケではなく、進化の途中で現れてきました。
最初は乗用車用タイヤで1946年。トラック用で初のラジアルタイヤは1952年ですから、登場してから今年で70年です。
ラジアルとは「放射状の」という意味で、放射方向に力を発する物体や放射状の構造を差します。タイヤでいう所の「ラジアル」は構造上の表現で、タイヤの内部構造に使われている部材が放射状になっているのです。
ラジアルタイヤは今日ではすっかり定着しておりますが、ラジアル構造登場以前とはどう違うのか?
その前にある程度タイヤの中身がどうなってるのか、というのを伝えておきます。
タイヤの内部構造
タイヤはゴム製品ですが、ゴム風船のようなゴムだけの製品ではなく、人間と同じように内部に「骨」が入っております。空気を充填しなくても形が決まっているのはこの骨があるためなんです。
ゴム風船は空気を入れれば入れるほど膨らみます。これはゴムが伸縮性のある素材で、空気の圧力で広がるからです。狭い空間に押し込められた空気は圧力を下げようとしてゴムを拡げ、風船が膨らむのです。
逆にいえば、空間を制限すれば膨らまない代わりに圧力(空気圧)が高くなります。
タイヤも内部構造がないとゴム風船のように膨らんでしまいます。それでは使い物にならないので、荷重を支えるのに必要な分の空気圧を維持するために、そのタイヤに合わせた内部構造があるのです。
この「骨」のような役割をする内部構造を「カーカス」といいます。
カーカスは充填空気圧に耐え、負荷能力を確保するもので材質はナイロンやスチールで製造されます。
そしてこのカーカスの配列の仕方がタイヤを真横から見た時に放射状に配列されているものを「ラジアルタイヤ」と呼ぶのです。
「だからなに?」って思われる方もいらっしゃると思いますが、ダーウィンの進化論の如く、タイヤもクルマや道路に合わせて進化してきた証でございます。
バイアスタイヤの弱点
ではラジアルタイヤの前の構造はどうなのか?
実は現在でも製造され、使用されています。「バイアスタイヤ」と呼ばれているタイヤで、特殊車両や一部の二輪車用などに設定がございます。
バイアスとは英語で「斜め」の意味。これもカーカスが回転方向に対して斜めに配置(プラス60度とマイナス60度でカーカスコードが交差する形)されている事に由来します。
ラジアルタイヤとの違いはこのカーカスコードの配置の違いです。
現在でも製造されているのは、それなりに利点があるからでして、まず製造工程が単純で安価に製造できます。
「安価に」というと「特殊車両のタイヤは高いよ?」とおっしゃる方々もいらっしゃると思いますが、アレはアレで特殊なゴムを使用したり、構造も強く造るのでそれなりの価格となります。
現在は乗用車用、トラック用ともにほぼラジアル化していますが、特殊車両用にバイアスタイヤが使われることが多い理由に、外部に対する強度が高いため、頑丈なタイヤを作ることができる、という点があげられます。
コードを折り重ねる構造であるため、コードの量が多くなり、結果的に衝撃に強いということです。
また支えるべき過重が増える場合は、充填する空気圧を高めるのですが、その空気圧に耐える構造にしなければならないためカーカスコードの量を増やします。増やせば筋繊維が増えるようなモノでタイヤ本体は強くなります。
折り重なったコードは衝撃には強いものの、その反面、コード同士が擦れて熱を持ちやすいという特徴もあります。熱(高温)はタイヤにとって天敵でもあります。
ラジアルタイヤへの移行
道路整備や車両の進化により移動速度は高速化してきました。タイヤに求められる性能もシビアになり、高過重・高回転に耐えられるタイヤとなると、必然的にラジアルタイヤへの移行となってまいります。
また、強度を高めるためにコードを増やしたバイアスタイヤは路面からの突き上げをモロに受け、コードが増えた分、タイヤ本体の重量も増してしまいます。その結果、乗り心地と燃費が悪化します。
バイアスタイヤの欠点である走行により発生する熱を克服するため、強い内部構造を持ちながら、しかもしなやかなラジアルタイヤへと進化したものと考えて良いと思います。
これは、ラジアル配置による少ないカーカスコードと、それを締め上げて補強する役目をするベルトにより、軽量かつ高剛性のタイヤができるからです。
ラジアルタイヤは製造が複雑でコストもかかるタイヤですが、乗り心地もよく長持ち。さらにより安全で低燃費です。
抵床化でタイヤが薄くなっても荷重を支え、しっかり仕事をするラジアルタイヤは、例えるならアイドルが俳優やお笑いまでこなすようなパーツなのでございます。
投稿 いまさら聞けないタイヤの基礎 ラジアルタイヤとバイアスタイヤは何が違う? は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。