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ユーロ7でエンジン車は走れなくなるのか?

 2014年、EU(欧州連合)は、自動車の排気ガスを規制するために、「ユーロ6(Euro 6)」を施行。2015年には、フォルクスワーゲン(VW)のディーゼル排出ガス偽装問題以降、日本に比べ厳しい条件での適合を求めている。

 さらに、2025年施行予定の「ユーロ7」には、現行の規制項目に加え、アンモニア、メタン、二酸化窒素に対する規制が追加され、厳しい基準になる予定だ。

 排気ガス規制「ユーロ6」、「ユーロ7」に触れつつ、自動車メーカーが抱える排気ガス規制と電動化戦略の行方について考察する。厳しい規制の背景にあった大きな課題とは一体なにか?

文/御堀直嗣
アイキャッチ写真/ROS – stock.adobe.com
写真/Adobe Stock、HONDA、NISSAN、MITSUBISHI、池之平昌信、平野 学

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欧州の排気ガス規制「ユーロ6」とは?

 欧州は、2025年から開始予定のユーロ7で、エンジン車からの有害物質の排出量や、燃費規制をさらに厳しくする予定だ。

 現行のユーロ6においても、有害物質の排出に関しては、フォルクスワーゲン(VW)によるディーゼル排出ガス偽装問題を受け、試験機でのモード走行による検査に加え、実走行による審査も行われ、日本などに比べはるかに厳しい条件での適合を求めている。

 たとえば、ディーゼルエンジンに限らずガソリンエンジンについても、筒内直噴(いわゆる直噴エンジン)で燃料を供給している場合、粒子状物質(PM)の排出があるため、これを浄化するガソリン・パティキュレート・フィルター(GPF)を装着しなければならない。

 燃費においても、95g/kmという二酸化炭素(CO2)排出量規制が、企業値として定められているので、日本式にいえば約28km/Lの燃費性能を販売する新車すべての平均値として達成しなければならない。ことに大型で重量の重いラグジュアリーブランドや、スポーツカーメーカーは厳しい状況にすでにある。

2025年施行予定「ユーロ7」はどこまで厳しくなるのか

ユーロ7が施行されると、厳格な規制への対応コストが非常に高くなる。そのため、エンジン車は条件を達成できたとしても新車価格の上昇が予想される(Grecaud Paul – stock.adobe.com)

 ユーロ7になると、排出ガス規制では、これまでの一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)に加え、アンモニア(NH3)、メタン(CH4)、二酸化窒素(NO2)に対する規制が追加される可能性がある。アンモニアは人体に有害な物質で、三元触媒によってNOx処理をした際に排出される。

 また、急加速や重い重量を運ぶような負荷がエンジンに掛った際にも排出量が増える。メタンは、オゾンを生成する。オゾンは、上空に層状にあることで紫外線を和らげる効果を持つが、その量が増えれば呼吸困難や麻痺を起こさせる懸念がある。

 メタンはまた、CO2の数十倍という強い温室効果ガスでもある。二酸化窒素は、呼吸器への影響があり、これまではNOxの一部として規制されてきたが、個別の規制対象となる。

 以上のような有害物質を浄化するには、新たな触媒を追加装備しなければならなくなり、それは原価の積み上げにつながる。

 燃費(CO2排出量に通じる)では、ユーロ7となることにより、現状に比べ2025年にはCO2排出量規制で15%、30年には37.5%の削減が予定されている。このため、単純計算で80g/kmから60g/kmへ、段階的にCO2排出量の削減を強めていくことになる。

 そのうえ欧州におけるWLTCでは、超高速走行領域もモード試験項目に入っているため、その部分が削減されている国内の燃費規制よりCO2削減への対応は厳しい条件下にある。

 日本は、高速道路の一部区間を除いて最高速度が時速100kmに制限されているため、超高速とよばれる時速130kmでの測定を行っていない。空気抵抗は、速度の2乗に比例するので、たとえば時速60kmと時速120kmの空気抵抗は、2倍になるのではなく4倍になる。超高速域での燃費性能を審査されることは、高い水準での空力的造形や、動力源での省燃費性能が実現されなければ基準の達成ができないことを意味する。

 欧州では、すでにユーロ6においても排出ガス基準とCO2排出量について、日本と比べものにならない厳しい条件下にある。さらに3年後に控えたユーロ7が実施されるとなると、燃料を燃やして使うエンジン車は、ガソリンかディーゼルかを問わず達成が難しくなり、たとえ達成できたとしても、排出ガス浄化に関わる追加触媒など後処理装置の取り付けに費用が掛かり、新車価格の上昇につながっていくことになるだろう。

自動車メーカーが抱える排気ガス規制と電動化戦略の行方

排出ガス基準とCO2排出量について日本と比べて厳しい条件下にある欧州では、HVのみのラインナップとなっているフィット

 いま、という時間軸で話せば、クルマの電動化はハイブリッド車(HV)においてはエンジンとモーターの複合システムとなることにより原価が上がり、新車価格を押し上げる要因となっている。

 このため廉価な大衆車的車種には採用が難しいとの見解もあるだろう。しかし、今後、上記のような排出ガス対策や燃費対策に余分の原価が掛るようになると、電動化された車種との価格差は縮むと考えられる。

 すでにホンダ・フィットは、国内ではHVのほかにガソリンエンジン車の選択肢があるが、欧州ではHVのみの販売となっている。数年後のユーロ7の実施を待たず、HV以上の電動車でなければ基準を達成できない状況にあるのだ。

 ポルシェが、タイカンという電気自動車(EV)を市場導入したのも、スポーツカーメーカーといえども将来を視野にガソリンエンジン車だけで欧州の規制を達成するのは難しいと考え、第一歩を印したといえる。そもそも、911は別として、パナメーラなどはプラグインハイブリッド車(PHEV)の導入を実施してきており、販売の主力がPHEVへ移行していた。

 ほかのスポーツカーメーカーやラグジュアリーブランドも、PHEVの開発や電動化車両の充実をはかっているのは、車種を問わず排出ガス浄化とCO2排出量の両面で、エンジン車だけでは商売が難しくなることを予見してのことだ。

 これまで人気を博してきたディーゼルターボエンジンでさえ、CO2排出規制を達成するのが難しい段階に達している。さらにディーゼルエンジンとなれば、ガソリンエンジン以上に排出ガス浄化対策への投資が必要になり、そこまでするなら電動化したほうが、EVを含めバッテリー原価の低減につながる可能性があるといえる。

 電動化が進むと、資源確保に課題が出るのではないかという疑問もあるだろう。しかし、いま欧州で進んでいる長距離移動のための大量なバッテリー容量の確保は、一部の車種に限られ、日常生活に必要な大衆車では、一日に走行できる距離の分だけバッテリーを積めばいいとの割り切りが先々浸透していくはずだ。

 同時にまた、リチウムイオンバッテリーの電極材料についても、原価の安い材料を選ぶ方法もあり、安いということは資源量が豊富であることを意味する。ドイツのVWは、すでに車種に応じた電極材料を取捨選択していくとの方針を打ち出している。

 そのうえで、自動運転や情報・通信の車載の行く先にあるのが、共同利用の利便性の向上だ。それによって世界の保有台数を減らすことが目指されることになる。世の中のクルマの台数が減れば、その分、資源の消費も抑えられる。

厳しい規制強化と電動化の背景にある課題とは

 それでも、20世紀に花開いたエンジン車への愛着も含め、エンジン車が走れなくなっていく未来に哀愁を覚える人はなお多いだろう。しかし、欧州にはじまり、世界へ広がる規制強化と電動化の背景にあるのは、単に自然環境問題だけではない。一番の課題は、極端な人口増加だ。

 20世紀のはじめ、世界人口は16億人だった。14億人を超えたといわれる中国の人口に日本を加えれば、ほぼそれに近づく。120年前には世界でそれだけの人数しかいなかった。ところがいまは78億人を超えていると、国際連合の人口基金(UNFPA)は報告している。20世紀初頭の4.8倍だ。そして、世界の自動車保有台数は13億台にのぼる。

 20世紀初頭の人間の数(16億人)であれば、今日なおエンジン車を満喫しても支障はないだろう。だが、5倍近い人間が同じようにエンジン車を乗り回せば、当然、環境負荷は高まり、渋滞なども増え、利便性は損なわれていかざるをえない。

 つまり、エンジンへの規制と電動化の動き、そして将来的に脱二酸化炭素を目指さなければならない最大の原因が、生き物のなかで増加を続ける人間の数なのである。

 趣味として旧車などを愛好することに罪はない。だが、大多数の人々が暮らしや仕事のために使うクルマは、一刻も早くEVになるべきだ。人口増という自ら撒いた種への対処であり、それでいて快適に日々を暮らすための知恵だ。

 18世紀の産業革命後、19世紀に栄えた蒸気機関車から、20世紀は新幹線に鉄道の手段は変わった。そして20世紀に花開いた従来とおりの文明ではなく、21世紀のための文明社会を創ることがいま求められている。

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