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 いまやマーケットの主流になったといえるほど、クロスオーバーSUVは内外の自動車メーカーのラインナップに欠かせないモデルにまで広がった。このおありを最も受けたのがミニバンやステーションワゴンだろう。

 1990年代に始まったブームに乗って、日本メーカーはこぞってミニバンのカテゴリーに参入。2000年代は大中小のミニバンが激しい競争が展開された。なかに工夫を凝らしたモデルも見られたが、惜しくも消えていった「良品」も多い。

 そこで「いまなら売れるんじゃない?」と思えるようなミニバンの生産終了車を中心にピックアップしてみた。

文/岩尾信哉、写真/トヨタ、ホンダ、マツダ

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■3席×2列レイアウトの斬新さ──ホンダ エディックス(2004年7月~2009年8月生産終了)

ホンダ エディックスのボディサイズ:全長×全幅×全高:4285×1795×1610(4WD:1635)mm、ホイールベース:2680mm

 ある意味でミニバンブームの立役者はホンダかもしれない。当時は一部のホンダファンに“ミニバンメーカー”と揶揄されつつも、ステップワゴンやオデッセイ(残念ながら2021年12月に生産終了)を基幹モデルとして成功させたホンダの役割は大きい。

 そんな彼らがミニバンブームの最盛期に登場させた、ホンダらしい奇抜な、あるいは斬新なコンセプトを与えられたモデルがエディックスだった。

 2004年7月に発表された「3席×2列」という独自のシートレイアウトを採用して登場したエディックスのスペックや装備を辿ってみると、練られたコンセプトが浮かびあがってくる。

 乗る人同士の自由・多彩なコミュニケーション空間を生み出すという狙いから創造された「3×2ミニバン」をコンセプトに、新たな価値を持ったミニバンとして開発された。 

エディックス(Edix)の車名の由来は、ひとりから6人まで楽しさを思い思いに編集(edit)することができる6(six)人乗りミニバン、という意味合いを込めた造語とのこと。2L直4DOHCと1.7L直4SOHCエンジンを搭載(2L FWDのみ5速AT、他は4速AT)

 具体的には、3席×2列の6座を独立させてシートアレンジが可能として、たとえば前後センターシートをロングスライドさせる“V字シート”レイアウトにより、快適な横3人掛けを実現した。

 前席のベンチシートといえば、個人的にはコラム式シフトレバーとともに、旧き佳きアメリカ車のイメージが強いのだが、前席中央に設置された小振りなシートのアレンジは、アイデアに満ちていた。

 ロングスライド機構を設けて、インストルメントパネルおよび展開時のエアバッグとの距離を充分に確保して、チャイルドシートの装着を可能とした。なにより、前後のシートポジションの変化によって「前後席の一体感も生み出す」ことができるとしていた。

 ただし、コンセプトの新しさにマーケットはついて行けなかったようで、一代限りの短命モデルに終わってしまった。ホンダらしい斬新なコンセプトがモデルチェンジによってどう進化するのか見たかったという気分は今に至っても変わりはない。

■スタイリッシュミニバンとしての強い存在感──トヨタ エスティマ(1990年5月~2019年12月生産終了)

初代エスティマが画期的といえたのは、キャブオーバーのコンセプトから抜け出したことにあり、ニックネームの“天才タマゴ”の起源といえるワンモーションフォルムは、プラットフォームが他のFWD方式を採るミニバンと共有化されても、スタイリングのイメージとして残され続けた
トヨタ エスティマ(3代目)…ボディサイズ:全長×全幅×全高:4820×1810×1760mm、ホイールベース:2950mm

 日本市場では1990年5月に誕生して以来、30年近い長寿モデルとなったエスティマは、初代から受け継がれ続けた“ワンモーションフォルム”を備えた(ホンダ勢のどちらかといえば直線的な仕立てとは対照的)スタイリングが強い印象が残っている(主要なマーケットである米国市場ではプレヴィアと呼ばれた)。

 初代が登場した当時、定番といえた商用車ベースのワンボックスワゴンに対して、エスティマは「ミッドシップワゴン」と呼ばれるコンセプトを採用した。

 ボディ中央の床下に横に75度傾けて設置されたエンジン(冷却ファンやオルタネーターなどの補機類はフロント部に分離してシャフト駆動)によって後輪を駆動する独特なパワートレーンを構成された。

 その外観と独自のMRレイアウトにヒントを得た「天才タマゴ」のニックネームは的を射ていた。なにしろ日本市場では「ミニバン」という呼び名そのものが存在しなかった時代の話だった。

3代目エスティマの7人乗りモデルは2列目がキャプテンシートでロングスライドも可能だったことから、タクシーとしての需要もあった

 2000年1月に登場した2代目は汎用性をもたずコストのかかった独自のプラットフォームから海外向けの中小型車用プラットフォームに統合され、初代のスタイリングのイメージを可能な限り受け継ぎつつFWD化されることになった。

 発表から約1年を経た2001年にハイブリッドモデルを追加、2006年1月にフルモデルチェンジを受けて3代目となったエスティマはマイナーチェンジを繰り返しながら、一代で約13年もラインナップされ続けた後に2019年10月には生産終了が発表された。

 噂によれば、EV(電気自動車)で復活するという話もあるようで、是非とも初代のような大胆なコンセプトを実現して、再び姿を現すことを期待したい。

■センターピラーレスの有効性──トヨタ アイシス(2004年9月~2018年1月生産終了)

トヨタ アイシスのボディサイズ:全長×全幅×全高:4635×1695×1640mm、ホイールベース:2785mm

 トヨタアイシスはミドルクラス(というよりは5ナンバーサイズの)のミニバンとして、基本的な機能、使い勝手の良さを備え、確実に販売台数が稼げるモデルだったはずだが、それぞれのメーカーの都合で居場所を失ってしまったようにさえ思えてしまう。

 たとえば、トヨタのアルファード&ヴェルファイアといった大型ミニバンへのマーケットの移行や小型クロスオーバーSUVの台頭のなかで、シビアな販売戦略の影響を受けた被害者といえるかもしれず、ミニバンブームの火付け役といえるオデッセイさえもトレンドには逆らえず、力尽きてしまったといった印象が拭えない。

 話がそれたが2004年9月に発売されたアイシスのスペックを辿っておくと、ウィッシュやノア&ヴォクシーと共通する、前後を組み替え可能なFWD用プラットフォームを採用。パワートレーンとして、2Lガソリン直噴直列4気筒+CVTと1.8L直列4気筒+4速ATを設定した。

 基本的にFWD用プラットフォームを共有しつつも、前ヒンジ式後部ドアを備える身内のライバルするウィッシュ(ミニバンとしてのライバルは、“ほぼ同スペック”のホンダストリームだった)に対して、中型ミニバンとしてボディの助手席(左)側のセンターピラーレス・ボディを実現したことが大きな特徴といえ、開口部幅は1890mmに達していた。

 助手席側センターピラーレス構造は、コンパクトな軽自動車ではボディへの負荷や衝突安全性能をカバーできるためか採用が進んでおり、ダイハツタントは「ミラクルオープンドア」として、ホンダ N-VANでも「ドアインピラー構造」と呼んで採用している。

ミドルクラスミニバンとして登録車唯一だった助手席側センターピラーレス構造を採る「パノラマオープンドア」を与えられたアイシス(ネーミングの“政治的”な問題はメーカーやモデルの責任ではない)。トヨタ傘下の関東自動車工業・東富士工場で生産された

 アイシスが派手なスタイリングはもたずとも、真っ当な使いやすさを備えていたことを考えれば、2020年末に生産を終了した当時の関東自動車工業東富士工場との絡みなどがあったのではないかと想像してしまう。

■マツダ ボンゴバン(4代目:1999年6月~2020年5月自主生産終了)

マツダ ボンゴバン(4代目)のボディサイズ:全長×全幅×全高:4340(ロング:4610)×1690×1910mm、ホイールベース:2650mm
5ナンバーサイズの自社製の商用バンとして生き残っていたのが、マツダのボンゴバン&トラック

 現在では5代目としてトヨタのライトエースとライトエースのOEM供給車(インドネシア製)となった、マツダ・ボンゴバンだ。

 貴重なマツダ自社製のワンボックス商用車だったボンゴ(バンは2020年5月、トラックも同年8月に生産終了)の歴史を大まかに辿ると、初代が登場したのは1966年。

 1977年にモデルチェンジした2代目からは駆動方式をリアエンジンリアドライブ方式からキャブオーバー方式に変更。後輪にはその後にボンゴの特徴といえる装備となった、12インチ仕様の小径の“ダブルタイヤ”を装着。

 荷台や荷室/客室をホイールハウスを省いてフラット化させて、使い勝手を向上させた。

4代目のマイナーチェンジまで、ボンゴの特徴といえた“ダブルタイヤ”が設定されていた

 3代目(1983~99年)に続き、最後の自社生産モデルとなった4代目(1999年6月発表から2020年5月まで生産)は、プラットフォームの改良を受けて衝突安全対応のために前部に大型バンパー装着などの“後付け”の変更が施された。

 ちなみに、2016年2月のマイナーチェンジの際には、ボンゴの特徴といえた“ダブルタイヤ”も廃止となった。2~2.2L直列4気筒ディーゼルも設定されていたが、最終的には1.8Lガソリン直列4気筒のみの設定となってラインナップを縮小していった。

 加えておくと、2016年はマツダにとって経営戦略上、大きな節目となった。

 当時ラインナップされていたプレマシー、ビアンテ、MPV(2016年4月までで生産終了)のミニバンは、マツダのミニバン市場の撤退決定を受けて生産が終了、その後はクロスオーバー的なコンセプトとしての「魂動」デザインを施されたSUVにラインナップを特化することになった。

 どこかマツダの魂とも思えたボンゴだが、トヨタからのOEM供給車となってはさすがにかつてのような印象はなくなってしまった。

 願わくは、かつてのマツダ車にあった良い意味での身近な「生活感」と最新のオリジナル「デザイン」が融合したミニバンが復活してほしい。

■番外編:成功し切れなかった名跡──ホンダ シャトル(2022年内に生産終了予定)

ホンダ シャトルのボディサイズ:全長×全幅×全高:4440×1695×1545mm(4WD:1570mm)、ホイールベース:2530mm

 最後に、今年中に生産終了予定のシャトルもかなり惜しいと思っているので紹介しておきたい。

 ホンダは2021年12月上旬に開催した販売店向けの「ホンダビジネスミーティング」において、CR-V、インサイト、シャトルの3車種を2022年度に順次生産終了すると表明した(現時点で生産終了の正確な時期は不明)。

 コンパクトなステーションワゴンであるシャトルはその名が郷愁を誘うこともあって、シビックシャトル、フィットシャトルと続き、コンパクトミニバンとして独立したネーミングを与えられたシャトル(2015年5月発売)。

 パワートレーンはフィットをベースとして、1.5L直列4気筒DOHC i-VTECに、ハイブリッド仕様では7段DCTのi-DCD Intelligent Dual Clutch Drive(インテリジェント・デュアル・クラッチ・ドライブ)を採用。標準仕様はアトキンソンサイクル式直噴1.5L直列4気筒+CVTとしていた。

シビックシャトル(1983~96年)から15年ほどを経て復活したフィットシャトル(2011~15年)を引き継いだシャトルだったが、その名は再度消滅することになった

 フィットと同じく“センタータンクレイアウト”を採るプラットフォームを採用して、マーケットで稀少になった5ナンバーサイズのミニバンであるシャトルには、存在意義があったはず。

 いまさらながらライバルのノア&ヴォクシーでは全幅が1735mmと3ナンバー化したことを考えれば、使い勝手のうえで充分な利点があるようで「どうして廃止?」と思わざるをえない。

 会社の事情(生産拠点やパワートレーンなど)で効率化が図られたとすれば残念な話ではないだろうか。

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