アメリカのトラックはボンネット型キャブが主流。塵芥車や消防車など一部の用途ではキャブオーバー型キャブも見られるが、ロングホール(長距離輸送)ではボンネット型キャブに巨大なスリーパー(居住スペース兼寝室)という組み合わせが一般的だ。
一体なぜアメリカのトラックはボンネット型キャブを採用しているのだろうか? 世界のトラック事情に詳しい多賀まりお氏に解説してもらった。
文/多賀まりお
※2020年6月15日発売「フルロード」第37号より
車体寸法に大きな影響を及ぼすブリッジフォーミュラ
アメリカのインターステーツ(州間高速道路)を走るトラック/トレーラの車体寸法に大きく影響しているのが、1974年に導入された連邦の橋梁照査(通称フェデラル・ブリッジフォーミュラ)である。
日本の最遠軸距/隣接軸重規制と同じく、橋梁を課題な負荷から守ることを目的とする同規則は、数式に基づいて一対の車軸間の距離と、その間にある車軸の数に応じた許容重量を規定。
車両に認められる総重量(GVWあるいはGCW)は、最遠軸距と車軸数に応じて定められ、同時に軸重配分を最適化させる目的から、それぞれの車軸間の組み合わせにおいても剛拳するとGVW/GCW値が成立するように許容軸重/軸距を確保することが求められる。
文章ではわかりにくいので上の図を参照いただきたいが、これは最もポピュラーな3軸セミトラクタと2軸セミトレーラを組み合わせた5軸トレーラのケース。
インターステーツにおけるGVW/GCWの基準上限である80000ポンド(約36.3t)を得るには、51フィート(約15.5m)以上の最遠軸距と同時に、トラクタ単体の最遠軸距は20フィート以上、トラクタとトレーラのタンデムアクスル同士の軸距も36フィート以上が要件となることを示している。
なお、最遠軸距を伸ばすか、同じ軸距でも車軸数を増やせば、より大きなGVWが得られる。ダンプ/ミキサーなどの特装系でリフトアップ機構付きの遊輪車軸を備えて積載量を稼ぐ車両が多く見られるのはこのためだ。
なぜアメリカのトラックはボンネットキャブなのか
ブリッジフォーミュラによってトラクタ側も一定のホイールベース長が求められると、BBC(Bumper to back of cab=キャブ前後長)の短いキャブオーバー型キャブの必然性は薄れる。
1982年の不況期に米国政府は陸上交通補助法を改定。これに伴って重量/寸法の規制緩和が行なわれ、もっとも一般的なトラクタ+セミトレーラ、あるいはセミトラクタ+セミトレーラ+トレーラの組み合わせについては連結全長を制限しないことになった。
こうして連結全長規制への効果的な対応策だったキャブオーバー車は徐々に少数派となり、2005年にフレイトライナーの「アーガシー」が米国で販売を終了したのを最後にロングホールセグメントから姿を消した。
現在はBBC120インチ(約3m)〜130インチ(約3.3m)のボンネット型キャブに前後長70インチ(約1.77m)級のスリーパーを組み合わせたトラクタが長距離輸送では標準的となっている。
アメリカで人気のトラックメーカーは?
米国における2019年のクラス8(GVW33001ポンド=約15t超)の大型トラックの販売台数は27万6000台あまり。主要なトラックの銘柄は6社の7ブランドで、もっともシェアが高いのはダイムラー・トラックス・ノース・アメリカ(DTNA)のフレイトライナーで約36%と断トツ。
パッカーの子会社であるピータービルトとケンワースがともに約15%で2、3位を占め、僅差でナヴィスターのインターナショナル、ちょっと離れて約10%シェアのボルボ・トラックス・ノース・アメリカ、ボルボ傘下のマック、そしてカスタムトラックを得意とするDTNAのウェスタンスターと続く。
欧州と同様に大手グローバルトラックグループが顔を揃えるいっぽうで、乗用車大手のGMやフォードは80年代までに大型車市場から撤退。ダイムラーやボルボはそうしたトラックメーカーの離合集散を機に本格参入の足がかりを得た経緯を持つ。
トラックのスタイルでは、ケンワースのW900あるいはウェスタンスターなどに象徴されるクラシックなロングノーズタイプの人気も根強いが、すでに大勢は空力性能と居住性に優れた新世代モデルに移っている。
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