この日、レッドブルは朝から少し様子が変だった。F1第3戦オーストラリアGPレース当日の日曜日の朝、パルクフェルメから帰ってきたマシンは、レースがスタートするまでセッティングの変更が許されない。したがって、メカニックたちはレギュレーションで許される範囲の作業、たとえば掃除や許可されている部品の交換を行うなど、必要最低限の作業しか行わない。
ところが、レッドブルはマックス・フェルスタッペンのマシンのみ、さまざまな部品の交換作業に追われていた。午後1時36分に国際自動車連盟(FIA)が発表したリストによれば、レッドブルがフェルスタッペンのマシンで交換したパーツは、以下のように多岐にわたっていた。
補助ラジエーター
LHSディフレクター
燃料タンク
クラッチアクチュエータ
ギヤボックス油圧システムおよびアクチュエータ
クラッチブレーキアウトボックス
クラッチアクチュエーターとギアボックス油圧システムに関わるパラメータ変更
7項目の変更というのがどれくらい多いのかは、前日の予選でクラッシュしたランス・ストロール(アストンマーティン)が、やはり7項目のパーツを変更していることでもわかる。つまり、この時点でフェルスタッペンのマシンは危機的状況だったことがわかる。
その様子はスタート前のグリッド上でも感じることができた。チーフエンジニアであるポール・モナハンがヘルムート・マルコ(モータースポーツアドバイザー)と暗い表情で会話していた。今年の2月に解散したHRD-UKの後継としてイギリスに拠点を構えているHRE-UKの責任者を務める吉野誠マネージャーが心配そうにフェルスタッペンのメカニックたちの作業を見つめていた。さらに国歌斉唱のセレモニーから帰ってきたフェルスタッペンに、レースエンジニアのジャンピエロ・ランビアーゼとマルコが駆け寄り、真剣な表情で静かに会話し始める。
じつはこのとき、フェルスタッペンは「リタイアする可能性を知らされていた」という。
その後、フェルスタッペンはスタートし、3戦連続でフェラーリのシャルル・ルクレールとの一騎打ちを展開していく。しかし、後半に入って、不安は的中。39周目の2コーナー脇にマシンを止めて、リタイアした。
マシンが止まった直後にリヤ側から炎が見え、消火活動が行われたため、当初はパワーユニットのトラブルではないかと思われたが、クリスチャン・ホーナー代表はそうではないとの見解を語った。
「外部からの燃料漏れだと思う。何が原因かはまだ正確に把握できていない」
炎に包まれたパワーユニットに関しては、「すぐにHRD Sakuraに返して、調査しなければならないが、おそらく大丈夫だと信じている」(ホーナー)とのことだ。
3戦で早くも2度目のリタイアとなったフェルスタッペンは言う。
「今日の僕たちは信頼性だけが問題ではなかった。速さも、タイヤの使い方もフェラーリに対して完全に負けていた。チームとして、見直さなければならない点は多い」