4月9日(土)、富士スピードウェイを舞台に行われた全日本スーパーフォーミュラ選手権の2022年第1戦。決勝では異なるピット戦略の平川亮(carenex TEAM IMPUL)と野尻智紀(TEAM MUGEN)がレース後半に直接対決を演じ、平川が見事に2022年最初のウイナーとなった。
平川は開幕を迎えるまでのこのオフシーズンを、「ハマりかけていた」と振り返る。きっかけは、ヨコハマのリヤタイヤが新しくなったこと。この仕様変更は耐久性の向上を目的としたものだが、ここまでのテストでも、その“副作用”の大きさを口にする陣営は多かった。
「新しいタイヤに全然(セットアップが)合わなくて。ロングランもしなければならないのに、そもそもショートラン(一発)で全然いい感触がないまま、2回の合同テストが過ぎていってしまいました」と平川。
さらに開幕戦金曜の専有走行も、ロングランをかけるまでもなく、セットアップをあれこれと試していたという。
大駅俊臣エンジニアはタイヤに加えて「今季は新しいトライもしていたので、やることが多かった」と、オフの間のセットアップに時間を費やした理由を説明する。
そして平川本人にはもうひとつ、不安要素があった。今季はWEC世界耐久選手権との並行参戦となる平川は、とくにこの3〜4月はハードスケジュール。3月上旬の鈴鹿テストの後はアメリカ・セブリングに飛んでWECの公式テストと開幕戦を戦い、帰国後すぐに富士に入って2日間、テストでステアリングを握った。
さらにこの富士での開幕週の前半にも、WECのテストのためヨーロッパを“弾丸”往復していた。
「(2カテゴリー参戦は)自分で『大丈夫』と言っておきながら、乗り方がまったく違いますし、マシンの重量も向こうは倍くらいあるので、スーパーフォーミュラとGT以上に差がある。今週は向こうでテストもしてきたので、結構不安はありました」
しかし試行錯誤に終始した金曜専有走行の後、メカニカルトラブルが発見され、チームが夜までかけてそれを修復したところから、事態が好転する。
土曜午前の第1戦予選では「今季初めて、カチっとはまった」(大駅エンジニア)と、Q1・B組を3番手通過。Q2に向けてはアジャストを若干失敗したものの、3番グリッドを確保した。
決勝スタートでは目前の笹原右京(TEAM MUGEN)がストールするハプニングが起こるも、平川は冷静に対応。
「ほんの数パーセントですが、頭の片隅にその可能性は想定していた」となんとか笹原のマシンを回避した平川は、この動きの影響で1コーナーまでにポジションを落とす覚悟をしたが、後方の混乱にも助けられ首位でオープニングラップを終えた。
ぶっつけ本番となったロングランだったが、平川は悪くないラップを刻んでいた。そこに背後から現れ、一度トップを奪ったのがサッシャ・フェネストラズ(KONDO RACING)だった。
しかしフェネストラズに抜かれた平川は、それまでの勢いが4号車にないことに気づく。フェネストラズは序盤にタイヤを使いすぎていたのだ。平川が首位を奪い返す。
この頃インパルのピットでは、ミニマム周回の10周目でピット作業を行った野尻のラップタイムを大駅エンジニアが注視していた。フレッシュタイヤの野尻のペースは良く、このままだと平川はアンダーカットされてしまう。
昨年までのタイヤであれば、「10周目にピットインしても、そこから30周、ラップタイムは落ちなかった」(大駅エンジニア)。しかし、まず平川が野尻に匹敵するタイムを出せなくなる。これがひとつ目の兆候であり、そしてやがて野尻のペースも落ち始めた。
『このタイヤは、昨年よりデグラデーションが大きい』
それがレース中にインパルの出した結論だった。平川は苦しいながらもレース中間点を過ぎた25周までピットインを引っ張った。
「ピット後、野尻には抜かれる。けど、コース上で抜き返してこい!」
大駅エンジニアがそう檄を飛ばして平川を送り出すと、果たして結果はそのとおりとなった。まだタイヤがフレッシュなタイミングで、ダンロップコーナーからの立ち上がりで野尻を仕留める平川。その後も差を広げ、フィニッシュラインまで逃げ切った。
WECとの同時参戦の今年、開幕ラウンドで結果を出す重要性は、オフの間ずっと平川とも話してきたことだと大駅エンジニアは言う。「その予選でちゃんと結果を出してくるの、すごいですよ」。決勝の第1スティント終盤、タイヤが厳しくなるなかで好ラップをそろえてきたことにも、大駅エンジニアは驚いたという。
レース後の平川からは、WEC開幕戦での2位表彰台に続き、“結果”を残せたことに対する安堵感が滲み出ていた。
「でももう、同じ週に向こう(ヨーロッパ)に行って帰ってくるのは……しんどいっすね(笑)」
タイヤの特性が変わったかどうかは、陣営によって判断に差があるようだが、この先さらに暑い時期となればますます、昨年までとは異なるセットアップや戦略判断を求められる可能性がある。開幕戦ではインパルがいち早く、“正解”に近づいたのかもしれない。
■第2戦へ向け野尻が描く逆襲のシナリオ
一方、敗れた野尻も、当然ながらレース距離の半分くらいでのピットインをベストなプランとして想定していたという。しかし5番手を走行していた序盤、前方が集団となっており、「前がピットインしなかったら、入って」というチームの指示どおり、ミニマム周回数でのピットインとなった。
「あの周は牽制というか、みんなストレートでピットロード側に寄って行っていたので、『どうなる?』とは思ったのですが、前のクルマがピット入口を通過したのを見て、『BOX!』と言って飛び込みました」と野尻。
「僕がアンダーカットを狙ったので、次の周に(近いポジションの)誰かが反応するかと思ったのですが、そういった選手はいなくて、これは長丁場のバトルになるな、と。そこからはオーバーテイク(システム)を隔周で使いながらタイムを稼いでいったのですが、そこでもう少しタイヤのマージンを残せていれば、もうちょっと勝負になったかもしれませんね」
ピットタイミングが平川と野尻の明暗を分けた、と言ってしまえばそれまでだ。だが、それを差し引いても「まだちょっとだけ、彼らに対して負けているかなという感じはする」と野尻は平川陣営との差を分析する。
第1戦の予選、野尻はQ1からQ2へのセット変更を失敗しているといい、「反省点ではあるけど、明日に向けた良い材料になった」という。また平川に対しては、「予選で前に行ければ、抑え込みはできるくらいの差だと思う」とも。
「まずは予選でしっかりと流れを作りたい。僕らのタービュランス(乱気流)の後ろに抑え込めれば、抜かれることはないかなと思っています。とにかく明日は予選で前に行きたい」と第2戦に向け、野尻は逆襲のシナリオを描く。
第1戦の結果からそれぞれが修正点を見出して臨む日曜日の第2戦は、さらなる接戦も見込まれる。第1戦で早々に戦列を離れたフロントロウの2台も当然ながら上位でレースをすることが予想され、そうなれば土曜日と同じ展開とはならないだろう。
それでも、初戦にして結果を残した平川と野尻は日曜日の第2戦でも“本命”と呼べる存在であり、ライバルのマークも厳しくなるなか、その戦いぶりに注目が集まる。