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 日野自動車の排出ガスおよび燃費に関する認証申請における不正行為が発覚した。国土交通省が本社工場に立ち入り調査を行なうなど、社会的にも批判が高まっている。

 今回の不正により日野車の国内販売の約35%が出荷停止となり、使用過程車へのリコールや対応策、燃費の不正では優遇税制の減税額の補填など、今後多大な影響が出ることは間違いない。

 日野自動車は、長らく日本の商用車メーカーのリーディングカンパニーとして自他ともに認める存在だった。しかし、今回の不正はユーザーの信頼を裏切るものであり、トラック業界・バス業界にとっても販売会社や架装メーカーなど多方面に深刻な影響を及ぼす事態となるだろう。

 商用車のリーディングカンパニーは、なぜ自らその地位から失墜するような愚行を犯したのか? 日野自動車の心のうちに分け入ってみると、そこには意外な背景が浮かび上がってくる。

文・写真/フルロード編集部・日野自動車


日野の不正問題の概要と経緯

 まずは、日野自動車の3月4日の発表資料から今回の不正問題の概要と経緯をそのまま転載する。

 日野自動車株式会社は、日本市場向け車両用エンジンの排出ガスおよび燃費に関する認証申請における不正行為を確認しました。

 中型エンジン「A05C(HC-SCR)」は排出ガス性能の劣化耐久試験において、大型エンジン「A09C」および「E13C」は認証試験の燃費測定において、それぞれエンジン性能を偽る不正行為があったことを確認し、エンジン性能に問題があることも判明したため、本日、これら3機種とその搭載車両の出荷停止を決定しました。

 小型エンジン「N04C(尿素 SCR)」についても、不正の有無は判明していないものの燃費性能の問題が判明したことから、これら4機種について、国土交通省および経済産業省に報告いたしました。

 お客様をはじめとするステークホルダーの皆様には、多大なるご迷惑をおかけすることとなりましたことを深くお詫び申し上げます。

不正を確認した経緯

 北米市場向け車両用エンジンについて、社内にて排出ガス認証に関する課題を認識したことから、外部弁護士の主導の下、自主的に調査を開始し、現地当局への報告を実施しました。これまでの間に米国司法省からの調査も開始されており、当社は当局の調査に全面的に協力しております。

 いっぽうで、日本市場向けエンジンに調査対象を拡大し、外部弁護士とエンジン認証手続きに関する調査を進め、排出ガスおよび燃費といったエンジン性能の再確認も行なってきました。

 現行規制である平成28年排出ガス規制(ポスト・ポスト新長期規制)対象エンジンの複数機種において、認証手続き上の不正行為があったことを確認するとともに、エンジン性能に問題があることも判明したため、本日、当該エンジン「A05C(HC-SCR)」「A09C」「E13C」およびその搭載車両の出荷停止を決定しました。

 小型エンジン「N04C(尿素 SCR)」についても、不正の有無は判明していないものの燃費性能の問題が判明したことから、これら4機種について、国土交通省および経済産業省へ報告をいたしました。

小型バス「リエッセⅡ」に搭載されたN04C型エンジン

判明事項および対応 

 平成28年排出ガス規制(ポスト・ポスト新長期規制)対象エンジンにおける判明事項および対応は以下の通りです。

(1)中型エンジン「A05C(HC-SCR)」

[判明事項]
 エンジン認証試験の 1 つである排出ガス性能の劣化耐久試験において、排出ガス浄化性能が劣化し規制値に適合しない可能性を認識した上で、排出ガス後処理装置の第 2 マフラー※を途中で交換し試験を継続した事実を確認しました。

 排出ガス劣化耐久性能の再試験結果から、経年変化により排出ガスの規制値を超過する可能性があることも判明しています。
(※エンジンから排出されたNOxを燃料(HC)と還元反応させ、窒素と水に浄化する装置)

[対応]
 「日野レンジャー」の同エンジン搭載車型の出荷を停止します。今後、再発防止策を講じた上で、出荷再開に向けた対応を至急進めてまいります。あわせて、経年変化による排出ガス規制値超過の可能性に対し、使用過程車へのリコール等の対応準備を可及的速やかに進めてまいります。

日野レンジャーに搭載されているA05C型エンジン

(2)大型エンジン「A09C」「E13C」

[判明事項]
 認証試験の燃費測定において、測定装置の操作パネルから、燃料流量校正値を燃費に有利に働くような数値に設定し、実際よりも良い燃費値を燃費計に表示させるようにして試験を実施した事実を確認しました。技術検証により、実際の燃費性能が諸元値に満たないことも判明しています。

[対応]
 同エンジンを搭載する大型トラック「日野プロフィア」および大型観光バス「日野セレガ」の出荷を停止します。今後、再発防止策を講じた上で、出荷再開に向けた対応を至急進めてまいります。あわせて、使用過程車に対しては、正しい諸元値を確認した上で必要な対応を行ないます。
(※同エンジン2機種はいすゞ自動車株式会社 大型観光バス「ガーラ」にも搭載)

(3)小型エンジン「N04C(尿素SCR)」

[判明事項]
 現在調査中であり、不正行為の有無については判明しておりませんが、技術検証により実際の燃費性能が諸元値に満たないことが判明しています。

[対応]
 使用過程車に対して、正しい諸元値を確認した上で必要な対応を行ないます。なお、同エンジンを搭載する小型バス「日野リエッセⅡ」は、モデル切り替えのため現時点で新規出荷はありません。
(※同エンジンはトヨタ自動車株式会社 小型バス「コースター」にも搭載)

 また、これらのエンジン機種の搭載車について、排出ガスおよび燃費に関する税制優遇への影響を精査し、追加納付が必要な場合は当社が負担してまいります。

日野プロフィアに搭載されているA09C型エンジン
出荷停止の対象エンジンと車種

 なお、上記以外の機種については、現時点では、排出ガス規制値超過の可能性および燃費諸元値に関する問題は見つかっておりません。

お客様への対応 

 お客様に大変なご迷惑とご心配をおかけすることを心からお詫び申し上げます。お客様の稼働への影響を最小限にすべく、真摯な対応を可及的速やかに実行してまいります。

 なお、当社から使用過程車への対応に関するご連絡を差し上げるまでの間、引き続き車両をご使用いただくにあたってお客様の側でご対応をいただく事項はございません。

 経年変化による排出ガス規制値超過の可能性が判明した「A05C(HC-SCR)」搭載の「日野レンジャー」一部車型については、使用過程車へのリコール等の対応を急ぎ検討し、お客様に速やかにご連絡申し上げます。 

 実際の燃費性能が諸元値に満たないことを確認した「A09C」および「E13C」搭載の「日野プロフィア」および「日野セレガ」、「N04C(尿素 SCR)」搭載の「日野リエッセⅡ」については、これらの車両をご使用中のお客様への対応を至急検討してまいります。 

 なお、今回判明した不正行為およびエンジン性能に関する事項は、走行機能に影響はなく、安全上の懸念が発生するものではございません。 

原因と再発防止 今後について 

 現時点までの判明事項から、現場における数値目標達成やスケジュール厳守へのプレッシャー等への対応が取られてこなかったことが問題の背景にあると考えており、経営として非常に重く受け止めています。

 今後の会社経営においては、コンプライアンス最優先の姿勢を明確にし、すでに着手している組織変更や業務プロセスの見直しといったガバナンスの改善に加え、従業員一人ひとりの意識改革への取組みを進めてまいります。

 今後も総点検として、エンジン認証手続きに関する徹底的な事実関係の調査、認証プロセスの遵守状況およびエンジン性能の検証を継続してまいります。

 加えて、事案の重要性に鑑みて、今後、当社と利害関係のない外部有識者による特別調査委員会(仮称)を設置し、事案の全容解明および真因分析に加え、当社の組織の在り方や開発プロセスにまで踏み込んだ再発防止策の提言をいただくことといたします。

 当社は、その結果も踏まえて、今後も、信頼回復に向けた抜本的な再発防止およびコンプライアンス・ファーストの企業体質再構築に取り組んでまいる所存です。

平成28年排出ガス規制(ポスト・ポスト新長期規制)対象エンジン一覧

 以上が3月4日に明らかにされた日野自動車の発表資料である。当日は、日野自動車の下義生会長や小木曽聡社長が出席して記者会見を開いており、その質疑応答でのやりとりで明らかになったことを含め、もう少し整理してお伝えしよう。

 ――9日公開記事へ続く。

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