燃料価格の高騰が連日ニュースで伝えられていた先月末、全日本トラック協会はトラック運送の「燃料サーチャージ制」導入と「標準運賃の活用」を求める特設サイトを開設した。
燃料サーチャージは燃料価格の上昇分を別建ての運賃とする制度で、これまでも燃料価格が高騰するたびに議論されてきた。しかし実際に導入された例は少なく、中小の運送会社は荷主企業との間で価格交渉すらできないことも珍しくない。
燃料価格の変動によって安定した輸送力を確保できない現状は、果たして持続可能な物流と言えるのか? Eコマースの普及が進むいま、一般消費者にも無縁ではないトラック運送の燃料サーチャージを解説する。
文・写真/フルロード編集部
「燃料サーチャージ」と「標準運賃」への協力を求める特設サイト
燃料価格の高騰は、運送事業者の経営に大きな影響を与える。トラックドライバー不足、働き方改革、新型コロナウイルスなど課題が山積する中での燃料価格高騰により運送会社の経営は危機に直面している。
そんな中、全日本トラック協会(全ト協)は1月25日から特設サイトを公開し、荷主企業に対して「燃料サーチャージ制」の導入と「標準運賃の活用」に対して協力を求めている。
また、2月下旬までの1か月間、「燃料価格が1円上がるとトラック業界全体で約150億円負担が増えます!」というキャッチコピーで、インターネットのバナー広告を展開する。
トラック運送業における燃料サーチャージは、国土交通省が2008年にガイドラインを定めたもので、燃料価格の上昇・下落によるコストの増減分を別建ての運賃として設定する制度だ。
いっぽう、「標準的な運賃」は2020年に国交省が告示したもの。その中で軽油価格は1L当たり100円で算出されており、それを超えた場合は別に運賃を収受するよう定めている。
しかし、トラック運送の実態として、燃料価格の上昇分を運賃として収受できている運送事業者は多くない。
サーチャージ制が浸透している航空業界とは違い、運送業は中小零細企業も多く、荷主企業との価格交渉にすら至れないケースが多いからだ。
燃料価格の変動に左右されない安定した輸送力を確保するためには、トラックの利用者=荷主企業の理解と協力が欠かせない。
トラック運送における燃料サーチャージ制とは?
トラック運送の燃料サーチャージは、荷主企業と運送事業者の間で基準となる価格を定め、燃料価格の上昇分を運賃・料金に反映するもの。
標準的な運賃では100円/Lを基準価格としているが、今年に入ってから軽油価格は130円/Lを超える水準で推移している。
なお、トラック事業者から燃料費の上昇分を運賃・料金に反映することを求められたにもかかわらず、運賃・料金を不当に据え置くことは、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)に違反するおそれがある。
また、貨物自動車運送事業法(平成元年法律第83号)附則第1条の2に基づき、荷主への働きかけ、要請、勧告・公表等の対象となる。
実際の例を見たほうが分かりやすいと思うが、次に示すのは「標準的な運賃」に基づく、燃料サーチャージの具体的な計算例だ。なお計算式は「走行距離(km) / 燃費(km/L) * 算出上の燃料価格上昇額(円/L)」となっている。
標準運賃では基準価格100~105円は算出上の燃料価格上昇額を2.5円としている。それ以降は5円上がる毎に算出上の価格も5円上がる。関東地方の大型トラック・距離別運賃の場合、東京~福岡間(1100km)の走行に対して標準運賃は31万6590円だ。
燃料価格が120円だとすると、算出上の燃料価格上昇額は15円+2.5円で17.5円。仮に燃費が3.3km/Lなら、1100 / 3.3 * 17.5 = 5834円(端数切り上げ)が燃料サーチャージになる。これは標準運賃の約1.8%に相当する。
同じ条件で燃料価格が130円となった場合、算出上の燃料価格上昇額が27.5円となるので、サーチャージは9167円(運賃の約2.9%)という計算だ。
荷主企業がこの金額を負担するのであれば、輸送力は燃料価格に左右されず、安定的に確保できる。
トラック運送は国内輸送の9割を占めている。安定した輸送力の確保は、最終的には消費者や荷主企業にとっても利益となる。コロナ禍でサプライチェーンが注目される今こそ、「持続可能な物流」のあり方を考えるべきではないだろうか。
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