2022年3月9日、欧州マツダは、2列シートのミッドサイズSUV「CX-60」の全体像を公開した。ラージ群商品4車種を2023年までに導入予定としているマツダ。その第1弾が今回のCX-60だ。
今回公開されたCX-60のパワートレインは、縦置きの2.5L直4ガソリンエンジンとモーターを組み合わせたプラグインハイブリッドだが、ラージ商品群へは48Vマイルドハイブリッドシステムの搭載のほか、ガソリンとディーゼルの直6エンジンも予定されている。
この令和の時代に、新たに直6エンジンをつくるというのはロマン溢れる話ではあるが、脱炭素が叫ばれる今日に、ハイブリッドやBEVの主力ラインナップを持たないマツダには無茶な話のようにも思える。はたして、マツダの戦略は、「吉」と出るのだろうか。
文/吉川賢一、写真/MAZDA
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■独自価値への投資として「直6」を開発
欧州仕様のCX-60には、2.5L直列4気筒ガソリンエンジンと電動モーターを組み合わせた、マツダ初のプラグインハイブリッドシステム「e-SKYACTIV PHEV」が搭載される。
欧州各国では3月8日より受注開始しており、山口県にあるマツダ防府第2工場(山口県防府市)において、3月11日より生産が開始されるとのこと。販売開始は今夏を予定しており、日本向けモデルについても4月上旬に公開予定としている。
コロナ禍による影響により、海外市場で販売好調のマツダも、部品不足で生産ができない事態に陥っているようだが、2022年1月の北米市場向け「CX-50」に続いて今回のCX-60発表と、着々と新製品を投入しており、商品開発は順調に進んでいるようだ。
マツダは、「企業存続には、「人と共に創る」マツダの独自価値が必須であり、成長投資を効率化しながら維持するとともに、CASE(Connected、Autonomous、Shared & Services、Electric)への対応を、協業強化と独自価値への投資で進めていく」としている。
そのための足場固めとして、ラージ群商品には「エンジン縦置きアーキテクチャーの開発」「直列6気筒エンジン(ガソリン/ディーゼル/X)とAWD」「プラグインハイブリッドと48Vマイルドハイブリッドによる電動化」、スモール群商品には「ロータリーエンジン技術を活用したマルチ電動化」、という4つの軸を進めている最中。
マツダはここまでを、「PHASE2」のマルチソリューションアーキテクチャーとしており、2025年以降、さらに「PHASE3」のEV専用アーキテクチャーを追加する戦略だ。
■専用プラットフォームも新規開発することで、課題を解決
直列6気筒エンジンの振動のなめらかさ、軽快なふけ上がり、澄んだ音質ながら迫力のあるエンジンサウンド、これらに神話的なあこがれをもつ方は、いまでもとても多い。
だが、全長が長い直6は、衝突した際にエンジンの逃げ場がなく、前面衝突をすると、エンジンがキャビン側へと押し込まれてしまい、乗員のダメージを低減することが難しい。
そのため、自動車メーカー各社は、2000年ごろから、排気量をそのままにエンジン全長が直4並に短くできるV型6気筒へと置き換え、衝突でつぶれる部分を増やし、衝突安全目標を満足させる方向へと舵を切った。
直6の開発にあたっては、この課題をクリアする技術目途が立っている必要がある。
「重要視されるオフセット衝突は直6の方が有利」とか、「シミュレーション技術の進歩が解決する」という意見に触れることがあるが、物理法則を無視したようなアイディアでは、厳格な衝突試験をクリアすることは到底できない。
依然として、縦置き+直6パッケージングの成立には高いハードルがあることは確かだ。
ただ、既存のプラットフォームを利用するのではなく、最初からV6前提の専用プラットフォームをつくることができれば、成立する解があるかもしれない。
エンコン(エンジンが収まるアボンネット下のエリアのこと)内の場所取り競争は昔よりもはるかに厳しく、そこへさらにエンジン全長の長い直6を積み、クラッシャブルゾーンを確保するのは至難の業だが、最初から直6前提であればクラッシャブルゾーンを緻密に設計することができる。
マツダもおそらく、エンジン縦置き用のプラットフォームも新規開発することで、課題をクリアしたのだろう。既に、ラージ群商品の1番手が登場したことを考えると、その目途は十分に立ったのだと思われ、発表が楽しみだ。
■マツダの技術力と心意気次第
ここ10年のマツダ車のデザインや技術力は、誰もが認めるところだ。しかし残念ながら、それと「クルマがヒットする」は比例するとは限らない。
「直6エンジン+AWDで重厚感のある走りを得て、さらにマイルド&ストロングHEVやPHEVで実燃費も抜群によい、デザインも最高のクルマにすれば売れる!!」という具合にはいかないのだ。
マツダが狙う「足場固め」には、2世代、3世代にわたりつくり続ける体力と、成功するまで諦めない忍耐力が重要だ。
仮に、直6搭載の新型車が売れなくとも、1世代で諦めず、次モデルに向けて改善し、顧客へと訴え続ける「心意気」が、信頼関係を築きあげ、そしてそれがブランドをつくりあげる、ということに繋がる。
1世代で「味見」したくらいで辞めてしまう程度の覚悟であれば、バッテリーEVへと戦略を全力で転換する方がよっぽどいい。
直6を今からつくる意味は、「技術力とブランド力の誇示」でしかない。車種の統廃合が進み、車種ネーミングでは欧州プレミアムメーカーがとる戦略をなぞっているマツダだが、ブランド力が試されるDセグ、Eセグメントでユーザーを振り向かせるのは、技術力はもちろん、かなりの忍耐力も必要だろう。
ひとまずマツダは、「直6エンジンと縦置きプラットフォーム」で、世間の関心を集めることに成功した。今後の戦略の成否はマツダの技術力と心意気にかかっている。引き続き、マツダの動向には注目していきたい。
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投稿 なぜいま直6を!? ロマンはあっても無茶じゃない!? マツダ内燃機関の勝算と誤算 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。