もっと詳しく
韓国のパニック由来の転売が原因か!!? 日本の尿素水高騰はどうなっているのか!?

 2021年末、韓国でディーゼル車に補給するアドブルーの原料である尿素が手に入らず、ディーゼル車での運行が制限されるパニックが発生した。その尿素水不足に目を付けたのが、日本の転売屋だ。

 インターネットオークションや転売サイトでは尿素水を買い付けて、大量に出品するケースが頻発。その影響で、国内の尿素水の供給にも影響を与えた。現役トラックドライバーによれば、「一回5Lまで」と制限を付けて販売しているスタンドもあったそうだ。

 日本国内で消費される尿素は、国内で生産することが可能と言われるが、韓国の尿素不足が原因で日本にも被害が出ている状況。2022年になり、その状況はどのように変わってきているのか? 改善傾向か、それとも値上がりして物流に影響が出る事態となっているのか? 最新の状況をレポートしていきたい。

文/高根英幸、写真/AdobeStock(トップ画像=algre@AdobeStock)、MITSUBISHI、TOYOTA、BMW

【画像ギャラリー】尿素水国内供給の現状とアドブルーを使用するディーゼルエンジン搭載モデルをピックアップ(12枚)画像ギャラリー

■どうしてトラックには尿素水が必要なのか

2021年11月頃からアドブルー(尿素水)の供給不足が起き、一部では販売制限されたところもあった(Moab Republic@AdobeStock)

 トラックドライバーや一部のクリーンディーゼル車オーナーしか影響がなかったので、気付いていない方も多いかもしれないが、2021年11月頃からアドブルーと呼ばれる尿素水の供給不足が起きて、ガソリンスタンドなどでは1回5Lまでなどという販売制限が敷かれたところもあるようだ。

 このアドブルー、何のために使われているかというと、ディーゼルエンジンの排気ガスを浄化する後処理装置のひとつであるSCR触媒内で噴射されている。

 それにより排気ガス中のNOx(窒素酸化物)と尿素(CH4N20)が反応してN2(窒素)とH2O(水)へと還元され、従来より大幅にクリーンな排気ガスを実現しているのだ。

■韓国の供給事情の急変が日本にも波及

尿素供給不足からくる尿素水の不足は、元を辿れば米中摩擦が発端となっている(aijiro@AdobeStock)

 今回のアドブルー騒動は、米中摩擦が発端だ。米国に同調したオーストラリアが中国に対して貿易や外交で態度を硬化させたことから、中国側が報復措置として石炭の輸入を停止したのだ。これにより尿素の原料であるアンモニアの生産量が低下したことで尿素の輸出を制限したのである。

 これで一番困ったのは韓国だ。というのも韓国は尿素のほぼすべてを中国からの輸入に頼ってきたからだ。このあたりは半導体の製造に必要な原料を日本が輸出規制したことに似ている。しかしアドブルーの場合、工場で使う原料や薬剤ではなく物流の現場、トラックに直接使うモノだけに、経済を直撃したのだ。

 そのため、急遽日本からアドブルーを輸入しようと商社などが買い集めため、日本国内の供給量にも影響が出たようだ。そして、それを聞きつけた転売ヤーが市場に残るアドブルーを買い占めに走ったこともあり、品薄状態に拍車がかかったのだろう。一時的に日本国内でも供給不安に陥ったのだ。

 当初は日本で買い付けたアドブルーを韓国に持ち込んで儲けようとしているのかと思ったのだが、日本国内でも品薄となるや、価格を吊り上げて国内で転売するのを見かけるようになった。

 価格のピークは2022年の初めあたりのようで、筆者がネットで調べただけでも20Lのアドブルーが1万3000円を超えていた。通常価格の7倍前後にはなるもので、この価格でも購入しなければならなかったドライバーも存在する、ということなのだろう。

 ちなみにアドブルーも購入方法によって従来から通常価格には大きな差があった。ガソリンスタンドでの購入はその場で補給できるので手軽だが、1L 100円~200円前後と高騰前でも結構な価格になっていたようだ。

乗用車のクリーンディーゼルの場合は、車の使用頻度にもよるが、半年に1回、1000円程度の出費なら気に留めないが、運送会社のトラックとなると話は変わってくる(vladim_ka@AdobeStock)

 それでも乗用車のクリーンディーゼルでは、半年に1回程度の補充で済むなら1回1000円程度の出費は大した負担ではないと感じていたオーナーが多かった。これがトラックとなれば、走行距離の違いから補充頻度や使用量はケタ違いとなるから、今回のアドブルー騒動はかなり影響があったようだ。

 アドブルーはディーラーや自動車部品販売会社でも扱っており、通販でも購入できる。10Lや20L入りの段ボール箱で販売されているため、これを直接購入するケースが増えているようだ。

 運送会社にとって経費増大は深刻なダメージとなるから、一時は対応に追われた企業も少なくなかったようだ。

 そのため運送会社によっては、これまでガソリンスタンドで補充していたものを大量購入して会社でストックするようになったところも多いらしい。このところ燃料価格の高騰が問題となっているが、アドブルーも今回の騒動の影響もあってか、値上がり傾向だという声もある。

 それでも、日本ではメーカーが増産体制とすることで、供給はすでに安定しているようだ。いまだに高い価格を提示している転売ヤーも見つかるが、普通にトラック用品の販売業者なども20Lで4000円前後の価格で販売しており、爆死した転売ヤーもいるとの噂だ。

 個人のフリマアプリなどを見ても、現状は騒動前と変わらない価格で取り引きされているところも見つかるので、インターネットで情報収集すれば、高いアドブルーを掴まされることはないだろう。

■今後は、アドブルーが不足したとしても限定的

日本では尿素のおよそ9割が、化学肥料の原料として消費されている(encierro@AdobeStock)

 今後も世界中で尿素不足は起こりえる。しかし、日本はマレーシアやインドネシアなどからも尿素を輸入しており、輸入元の比率を中国からほかの国にシフトすれば、問題ない。

 それ以前に日本の場合、尿素(尿素水=アドブルー)の原料となるアンモニアの8割前後を国内生産しており、生産能力自体は国内消費量を超えるほどあると言われているのだ。

 日本では尿素はその9割が、化学肥料の原料として消費されている。保湿成分としてハンドクリームなどに使われたり、火力発電所やトラックの触媒用として使われるのはホンのわずかでしかないのだ。

 さらに尿素の原料であるアンモニアは、約半分が尿素になる以外にも肥料用としての利用が圧倒的であるのが現状だ。しかし、今後はアンモニアの生産量は今後も増える可能性は高い。それは2つの理由がある。

 1つは石炭の有効利用だ。今後石炭火力による発電は減少していくことが予測される。もちろん石炭をガス化して燃焼させるなど、より高効率な石炭火力は開発されて普及していくだろうが、石炭を燃やさずにアンモニアの原料として利用する傾向が強まることは間違いない。

 またオーストラリアの褐炭など低品質な石炭は、燃やすより水素やアンモニアの材料としたほうが効率的だ。アンモニア生成時に発生するCO2は回収して、石油を取り出す際に圧力をかけるガスとして地下に送り込んだり、野菜工場などで利用するシステムを確立する方法が考えられている。

 そしてアンモニアは水素を運ぶキャリアとしての役割も検討されているが、直接燃料として利用することも期待されている。すでにこれまでの火力発電設備を活かして石炭とアンモニアを混焼させたり、アンモニアだけを燃料にする技術が開発中だ。

 燃料電池でもアンモニアから水素を取り出して発電するのではなく、直接アンモニアを触媒で反応させて発電させる技術も開発されている。

 つまり石炭からアンモニアを生成して利用する事業は、今後拡大する可能性が高い。ということは、アンモニア利用が盛んになれば、それを無害化した尿素を今よりも作りやすくなる。ディーゼルエンジンはバイオ燃料を利用して使われ続け、アドブルーを使い続けるという体制も安定したものにできるのだ。

【画像ギャラリー】尿素水国内供給の現状とアドブルーを使用するディーゼルエンジン搭載モデルをピックアップ(12枚)画像ギャラリー

投稿 韓国のパニック由来の転売が原因か!!? 日本の尿素水高騰はどうなっているのか!?自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。