一般社団法人 日本自動車販売協会連合会(自販連)が発表している「乗用車ブランド通称名別順位」の2021年累計台数で、マツダ2は2万4652台で25位に入った。
ライバルでは、ヤリス:9万8780台、ノート:9万177台、フィット:5万8780台と、販売力の差もあり水をあけられたが、マツダの人気SUVであるCX-5が2万2431台で28位と考えると、かなり健闘した数字だと考えられる。
しかし、マツダで話題に上るのは、SUVばかり……。最近では2022年に登場するラージ商品群まで登場して、マツダ2がお茶の間の話題に挙がることがほとんどない状態……。結構頑張っているのに、なぜマツダ2は存在感が薄いのか? その理由と、マツダに必要な方向性について分析していきたい。
文/渡辺陽一郎
写真/マツダ
■好みが分かれやすい!? MX-30開発から見えたマツダ2の抱える課題
MX-30の開発者と話をしている時、マツダ2に関する次のような経緯を聞いた。
「マツダ2(発売当時はデミオ)はコンパクトカーだから、発売直後に、クルマ好きではない一般の女性を対象にアンケート調査を行った。そこで意外な結果が明かされた。マツダ2はスポーツカーのように思えて私には運転できない、男の人向けのクルマ、という意見が多かった。そこで従来のマツダ車に興味を持たなかったお客様を振り向かせるため、MX-30の開発プランが持ち上がった。それまでの魂動デザインとは違う、新たな路線を追求した」
このコメントは、今のマツダ車と、マツダ2の置かれた状況を明確に物語っている。マツダ2は、全長が4m少々の5ナンバーサイズに収まるコンパクトカーだから、女性にとって日常的な買い物にも使いやすいハズだ。そこで女性にリサーチしたところ「スポーツカーのように思えて私には運転できない」という返答が目立った。
この背景にあるのは、マツダ2の外観だ。ボンネットを長く見せて、サイドウィンドウの下端を後ろに向けて大きく持ち上げた。リヤゲートは寝かせている。
今はボディ形状が似たヤリスも登場しており、マツダ2が特殊な印象は薄れたが、2014年に現行型が登場した時は、先代型と同じく個性が強く思えた。
そしてマツダ2の魂動デザインは、2012年に登場したマツダ6(当時はアテンザ)、2013年のアクセラ(現行マツダ3の先代型)と同じ考え方に基づく。ユーザーの受け取り方も、スポーティなマツダ6やマツダ3のコンパクト版となった。
従ってマツダ3やマツダ6が好きなユーザーは、マツダ2も好意的に受け取る。見栄えがカッコよく、遠方から見てもマツダ車だとわかるためだ。内装も上質で、マツダ3と比べても見劣りせず、価格は同程度の装備を採用したマツダ3に比べて40~50万円安い。メルセデスベンツのコンパクトなAクラスやCクラスと同様、「小さくて安いのに見栄えは一緒」という買い得感がある。
しかし、マツダ車ではなくコンパクトカーが欲しいユーザーには、前述のとおり「マツダらしさ」が裏目に出た。「スポーツカーのように思えて私には運転できない、男の人向けのクルマ」と受け取られた。
■販売規模から考えれば、ライバルに対して健闘しているマツダ2
それならマツダ2の売れ行きはどうなのか。発売から6年以上を経過しながら、2021年には2万4652台(1カ月平均で2054台)を登録した。この販売実績は、ヤリス(ヤリスクロスとGRヤリスを除く)の24%、ノート(シリーズ合計)の27%、フィットの42%に留まるが、マツダとしては最多販売車種だ。
ちなみに国内で展開するマツダの販売店舗数は約770箇所とされる。トヨタの4600箇所、日産の2100箇所、ホンダの2200箇所に比べて大幅に少ないから、見方を変えればマツダ2は1店舗当たりの売れ行きが多い。マツダ2の1店舗の年間平均登録台数は32台だから、ノートの43台よりは少ないが、フィットの27台、ヤリス(ヤリスクロスとGRヤリスを除く)の22台を上まわる。マツダ2は、マツダの国内販売を支える基幹車種だ。
それでもマツダ2の販売推移を振り返ると減少傾向にある。現行マツダ2がデミオとして発売された翌年の2015年には、7万2771台(1カ月平均で6064台)を登録して、2021年のフィットを上まわりノートに迫る売れ行きだった。それが2016年には5万7320台、2017年には4万9302台と下がっていく。
マツダ2はコンパクトカーでも趣味性が強く、購入理由もカッコよさや楽しい運転感覚などマツダ車の魅力だから、「マツダ2を買いたい」という動機で選ばれる。「コンパクトカーが欲しい」ではないから、ユーザー層もほかの車種に比べると狭くなる。
ハイブリッドが用意されず、クリーンディーゼルターボになることもマツダらしさだが、これもユーザー層を狭めた原因だ。今はコンパクトカーもハイブリッド人気が高く、ノートシリーズはノーマルエンジンを用意しない。フィットもe:HEVが圧倒的で、ヤリスはノーマルエンジンを2種類(1Lと1.5L)設定しながら、ハイブリッドが45%を占める。
以上のようにマツダ2は、コンパクトカーのユーザーではなく、マツダ車の顧客に向けて開発された。従ってハイブリッドも用意されず、クリーンディーゼルターボになる。仮にハイブリッドを用意しても「マツダらしくない」とされ、かつてのアクセラハイブリッドのように販売は伸び悩んだ。
そこまで考えると今のマツダ2は、マツダ車としてクルマ造りに必然性があり、売れ行きも妥当と判断される。マツダ2は現状でよいのだ。
■振り向かせたかったはずがチョイスを誤ったマツダは、再考すべきところに来ている
ここで話は再び冒頭に戻る。「マツダ2はスポーツカーのように思えて私には運転できない」という意見も多く、「従来のマツダ車に興味を持たなかったお客様を振り向かせるため、MX-30の開発プランが持ち上がった」のだが、MX-30は失敗に終わった。
マイルドハイブリッドに加えて電気自動車も設定したが、2021年の登録台数は4653台(1カ月平均は388台)だ。MX-30を2020年に発売した時の月販目標は1000台だったが、発売直後の時点で目標の達成率は40%以下であった。
それでも「従来のマツダ車に興味を持たなかったお客様を振り向かせたい」という思いは素晴らしい。今の魂動デザインに基づくマツダ車は硬直化しており、どれも同じに見えてしまう。好きなユーザーはすべてのマツダ車に共感するが、そうでない人は全滅だ。「従来のマツダ車に興味を持たなかったお客様を振り向かせたい」という商品開発は、硬直化した現状の突破口になり得る。
問題はその商品開発の結果がMX-30だったことだ。ボディサイズがCX-30と同等のSUVで、観音開きのドアは一般的に使いにくい。外観は水平基調でシンプルに仕上げ、内装にコルクを使うなどリラックスできる雰囲気だが、車両全体を見ると理解しにくい。売れ行きが目標の40%以下に留まるのも当然だ。
MX-30の出発点となったアンケート調査は、前述のとおり、マツダ2に関してクルマ好きではない一般女性を対象に行われた。そこから導き出された考え方が「従来のマツダ車に興味を持たなかったお客様を振り向かせたい」なのだから、開発する車両のカテゴリーも、マツダ2と同じコンパクトカーにすべきだった。マツダ2のアンケート結果を、CX-30の姉妹車に反映させても成功しないのだ。
それなら具体的にどうすべきか。マツダ2のプラットフォームやエンジンを使った少し背の高いコンパクトカーを開発すべきだ。2代目デミオ・コージーのように、良好な視界で運転しやすく、車内は広い。内装は明るい木目調パネルとコルクで仕上げ、シート生地には伸縮性の優れたファブリックを使う。内装のセンスはMX-30と同じでよい。
従来のマツダ車は「気持ちよく、速く走る」価値観だが、新しいコンセプトのコンパクトカーは「車内が心地よいから、少し時間を掛けて、ゆっくりと目的地に向かいたい」というものだ。それを前述のアンケートに沿って、コンパクトカーで商品化すべきだった。
このようなコンパクトカーが登場すれば「マツダ2はスポーツカーのように思えて私には運転できない」と考えている「従来のマツダ車に興味を持たなかったお客様」も振り向くだろう。
直列6気筒エンジン+後輪駆動のマツダ車も魅力的だが、それ以前にMX-30で果たせなかった思いを成功させるべきだ。マツダが国内のユーザーを大切に考えているなら、国内市場向けのチャレンジを優先させるのは当然だろう。
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