長年F1を取材しているベテランジャーナリスト、ルイス・バスコンセロス氏が、全20人のドライバーのグランプリウイークエンドの戦いを詳細にチェック、独自の視点でそれぞれを10段階で評価する。
2022年F1第2戦サウジアラビアGPでは、セルジオ・ペレス(レッドブル)がキャリア初のポールポジションからレースをリードしながら、セーフティカー出動のタイミングが不利に働き、表彰台すらも逃がす不運な展開に。結果的に、チームメイトのマックス・フェルスタッペンが勝利を収めた。予選では、ミック・シューマッハー(ハース)による大アクシデントが発生。幸いシューマッハーにけがはなかった。サウジアラビアでのそれぞれのドライバーたちの戦いぶりを、バスコンセロス氏が振り返る。
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■メルセデス
ルイス・ハミルトン:評価 5/10
予選16番手/決勝10位
プラクティスではジョージ・ラッセルより速かったが、予選に向けたセッティングでギャンブルをした結果、それが完全に裏目に出てしまい、なんとQ1で敗退という、衝撃的な結果になった。
リバース・ストラテジーを選択し、序盤7周は冷えたハードタイヤで苦労したが、その後の9周で4つポジションを上げた。
セーフティカーのタイミングは不運だった。クリーンエアのなか6番手を走行していた際には、新しいタイヤを履いたラッセルと同等のタイムで周回。しかし最後のバーチャル・セーフティカー導入の際にピットレーンがクローズされてピットに入れず。ポイント圏外に落ちてしまったハミルトンは、なんとか10番手に上がって1ポイントをつかんだ。不運がなければ6位でフィニッシュできただろう。
ジョージ・ラッセル(メルセデス):評価 8/10
予選6番手/決勝5位
ハミルトンよりも好成績をあげたラッセルだが、彼の走りからW13の欠点を感じ取ることができた。エステバン・オコンに予選で負けた後、決勝の3周目に前に出て、その後はほぼ単独で走り続けた。
セーフティカー出動時にハードタイヤに交換するという理想的な戦略を取ることができ、残りの周回は、タイヤを最後まで持たせることに集中した。トップ4からは大きく引き離され、6位以下からチャレンジされることなく、単独の5位だった。
開幕戦の予選ではミスをしたが、今回は週末を通して一度もミスを犯さなかった。
■レッドブル
マックス・フェルスタッペン:評価 9/10
予選4番手/決勝1位
珍しく予選でチームメイトに敗れた。しかし決勝1周目にカルロス・サインツを抜き去り、セルジオ・ペレスがセーフティカーで不運にも順位を落としたことにより、フェルスタッペンは2番手に浮上した。
レッドブルはハードタイヤではシャルル・ルクレールより速かった。開幕戦に続いてフェルスタッペンとルクレールが激しい首位争いを展開、2度ルクレールがバトルを制したが、フェルスタッペンはDRS検知ポイントをうまく利用する方法を見出し、残り5周でトップに立った。
キャリア最高レベルとはいえないものの、いつもどおり速く、アグレッシブだった。
セルジオ・ペレス(レッドブル):評価 9/10
予選1番手/決勝4位
レッドブル加入以降ベストな週末を送っていたにもかかわらず、決勝で4位というのは残念だった。
見事なラップを走って、予想外のポールポジションを獲得。決勝ではプレッシャーに負けずにリードを維持していた。2番手のルクレールとの差をうまくコントロールしていたが、セーフティカー出動のタイミングが不運だった。タイヤ交換を済ませてピットを離れた直後にセーフティカーが出たことで順位を落としたのだ。また、セーフティカー走行中にカルロス・サインツを抜いたため、リスタートでポジションを戻さなければならず、その後は順位を上げられなかった。表彰台にふさわしい仕事をしていたため、残念な結果だった。
■フェラーリ
シャルル・ルクレール(フェラーリ):評価 9/10
予選2番手/決勝2位
すべてを完璧にこなしたが、ハードタイヤでのスピードが足りず、フェルスタッペンからの最後のアタックを防ぐことができなかった。
今回も予選で見事なラップを走り、ポール獲得かと思われたが、ペレスに抜かれて2番手となった。決勝序盤15周、ダーティーエアのなかで走ったことでミディアムタイヤが傷み、ペレスに食いついていくことができなかった。しかしペレスがセーフティカーによる不運で後退したことで、ルクレールはトップに浮上した。
レースをリードしながら、25周にわたりフェルスタッペンの前を走り続けたが、ユーズドハードタイヤでは首位を守り切れるだけのペースがなかった。
バーレーンと同様に、3カ所のDRS検知ポイントをうまく使って戦った。しかし最後にその術を理解したフェルスタッペンに、残り5周のところで敗れた。
カルロス・サインツ:評価 8/10
予選3番手/決勝3位
バーレーンで2位のサインツがひとつ順位を下げて、今回は3位となった。しかしドライバーのパフォーマンスとしては、サウジアラビアの方が優れていたと思う。
予選Q1とQ2で最速タイムをマークしたサインツは最終的には予選3番手に落ち、決勝スタート直後にフェルスタッペンに抜かれて4番手に。ペレスの不運により3番手に上がった後、前を行くフェルスタッペンに近い位置を10周にわたり走行。しかしハードタイヤでのペースが落ちていき、決勝半ばでサインツは前を狙える状態ではなくなった。
終盤はペレスからポジションを守ることに専念。それを成し遂げたことで、ドライバーズ選手権2位の座を固めた。
■マクラーレン
ランド・ノリス:評価 7/10
予選11番手/決勝7位
ジェッダでマクラーレンは一歩前進。ノリスは予選Q2で敗退したものの、Q3進出までの差はわずか0.033秒だった。
レースでは、ピエール・ガスリーと戦った後にピットストップ後に前に出た。終盤にはエステバン・オコンを一度は抜いて6番手に上がったが、フィニッシュまで数メートルのところで抜き返された。それでも6ポイント獲得はチームにとって大きな意味があり、マクラーレンが挽回する兆候が見られた。
ダニエル・リカルド:評価 6/10
予選12番手/決勝リタイア
バーレーンではCovid-19の影響が残っていたが、サウジアラビアでは体調が回復、週末を通してノリスにほぼ近い位置にいた。
決勝では早い段階でピットストップを行ったことでノリスの前に出て、ポイント獲得に向けて順調にレースを進めていた。しかし36周目にメカニカルトラブルのためにコース上でストップ、リタイアした。
まだチームメイトほどの速さを発揮できていないものの、その差が縮まってきているようだ。リカルドが2023年にシートを確保するために、それは重要なことだ。
■アルピーヌ
フェルナンド・アロンソ:評価 7/10
予選7番手/決勝リタイア
予選ではチームメイトに敗れたものの、決勝序盤は、アロンソの方がペースが良かった。ふたりはコース上でポジションを争い、チームオーダーが出なかったために、激しいバトルが何周にもわたって続き、最終的にはアロンソが前の位置を確保した。しかしこのバトルにより、後方のバルテリ・ボッタスにチャンスを与えることになってしまった。アロンソはずっとボッタスからポジションを守りながら走り続けたが、最終的にパワーユニット関連のトラブルにより、リタイアすることとなった。
エステバン・オコン:評価 7/10
予選5番手/決勝6位
予選で見事なラップを走り、ラッセルより上の5番手を獲得。しかしレース序盤でラッセルに抜かれ、アロンソとのバトルにも敗れ、ピットストップの前にはさらにボッタスの後ろに下がった。
しかしハードタイヤでのペースは良好で、アロンソとボッタスのリタイア、ハミルトンの後退により6番手に繰り上がった。終盤背後のノリスから大きなプレッシャーをかけられるが、昨年、チェッカー直前にボッタスに抜かれた経験を生かし、ノリスとのバトルを制して6位を持ち帰った。
■アルファタウリ
ピエール・ガスリー:評価 7/10
予選9番手/決勝8位
レース終盤、腸の耐えがたい痛みに襲われながら、ポジションを落とすことなくフィニッシュしたことは、称賛に値する。期待ほどの競争力を発揮していないマシンで、レースを通してベストを尽くした。
予選ではQ3に進出、決勝スタートでケビン・マグヌッセンに抜かれ、10番手を走行。その後、ノリスとの素晴らしいバトルを制したが、ピットストップの後、後ろに下がってしまった。しかしその後も諦めずに着実に走り続け、終盤、アロンソとボッタスがリタイアし、ハミルトンとマグヌッセンがピットストップしたことで、ポイント圏内に復帰した。
角田裕毅:評価できず/10
予選ノータイム/決勝出走せず
サウジアラビアの週末、彼は汗ひとつかかなかったのではなかろうか。予選では計測ラップを1周も走れず、決勝はグリッドに向かう途中でトラブルが発生してマシンをとめた。
FP1ではガスリーのすぐ後ろの6番手、FP2ではガスリーより良いタイムを記録し、好調さがうかがわれたが、その後の展開は最悪だった。予選も決勝も走行していないため、今回は点数をつけるのを控えたい。
■アストンマーティン
ランス・ストロール:評価 4/10
予選15番手/決勝13位
予選では、Q1を突破するのが精一杯だった。Q2では3ラップすべてでミスを犯し、Q1の自己ベストタイムより0.8秒遅いタイムしか記録できなかった。
レースではスタートでひとつポジションを上げた後、ペース不足のために、3つ順位を落とし、タイヤ交換を早く行ったことで、後方へと後退した。
ほとんどの周回をウイリアムズの前で走り、終盤にアレクサンダー・アルボンとの接触が起き、最後尾に落ちた。ストロールの決勝ベストラップは、チームメイトのニコ・ヒュルケンベルグより0.8秒も遅かった……。
ニコ・ヒュルケンベルグ:評価 6/10
予選18番手/決勝12位
今回もプロフェッショナルな、質の高い仕事をした。才能と経験があり、レースを走れるだけの体力を保っていれば、F1マシンに突然乗っても良い仕事ができるのだということを証明した。
予選でQ1を突破することはできなかったが、レースではウイリアムズの前を走り、16周目のセーフティカー出動により大部分のマシンがピットに入った後、リバース・ストラテジーを取っていたヒュルケンベルグは、9番手に繰り上がった。しかし、その後、使い込んだタイヤでフレッシュタイヤを履いたライバルたちに対抗するのは難しく、さらに、終盤のバーチャル・セーフティカーによって戦略が台無しになった結果、最後尾に落ちた。
ヒュルケンベルグのレース中のベストラップは全体の11番手、ストロールより0.8秒速いタイムだった。この難しい状況のなかで、彼がどれだけ良いレースをしたかが分かる。
■ウイリアムズ
アレクサンダー・アルボン:評価 6/10
予選17番手/決勝14位(リタイア)
週末の大半でニコラス・ラティフィよりも速かったが、バーレーンほどの結果は出せなかった。
予選はQ1で敗退。レースでは、タイヤのデグラデーションに苦しみ、ふたつポジションを落とした後に、早期にピットストップを行い、最後方に後退した。だが、諦めずに戦い続け、レース終盤にはストロールに追いつき、ターン1でブレーキングを遅らせて追い抜きを試みるが失敗した。基本的にはレーシングインシデントであるが、一輪を一瞬ロックさせたことで、接触の責任ありと判断され、次戦降格のペナルティを受けた。
それでもポジティブな週末だったことには変わりなく、親友ラッセルが過去3年間にしてきたように、ウイリアムズをリードしていく能力があるドライバーであることを証明した。
ニコラス・ラティフィ:評価 3/10
予選19番手/決勝リタイア
残念ながらまたしてもラティフィは悲惨な週末を過ごした。アルボンのペースには全くかなわず、2回にわたりリヤのコントロールを失ってアクシデントを引き起こした。一度目は予選のターン13入口、もう一度は決勝中、最終コーナーから立ち上がったところでオーバーステアになり、ピットウォールにヒットした。
ラティフィは、アクシデントは二度とも自分のミスであると認めている。一方、チームメイトとのラップタイム差については理由が見つからず、途方に暮れているようだ。
■アルファロメオ
バルテリ・ボッタス:評価 7/10
予選8番手/決勝リタイア
アルファロメオにとって重要なシーズンに、チームを率いるドライバーが出てきたことは心強い。高速でのパフォーマンスが不足しているマシンで、ボッタスは予選8番手を獲得。レース序盤にオコンを抜いて、アロンソと戦った後、結局2台ともトラブルでリタイアした。
バーレーンと同様に、一度もミスをせず、マシンの力を最大限に引き出した。走り切っていれば、7位、あるいは6位をつかめただろうが、マシンの信頼性の低さに足を引っ張られた。
周冠宇:評価 6/10
予選13番手/決勝11位
ルーキーでありながら高い成熟度を見せていることに感心させられる。だが今のところ、純粋なペースの点では、ボッタスにはかなわない。予選13番手は素晴らしい結果だったが、バーレーンの時と同様に、スタートでエンジンの回転数が落ちてアンチストールに入り、最後尾に落ちた。
その後、何度かオーバーテイクを成功させて、ポイント圏内に戻れる見通しだった。ところが2度ペナルティを受けたことで、それが実現しなかった。一度はコース外でアドバンテージを得たこと(チームはこれに反論している)、もう一度はピットウォールとメカニックとの間でミスコミュニケーションが起きたことが原因だった。それでもハミルトンから9秒差の11位でフィニッシュしている。
■ハース
ケビン・マグヌッセン:評価 8/10
予選10番手/決勝9位
驚くべきF1復帰の後、マグヌッセンの勢いは止まらない。FP1でトラブルのため走行できなかったにもかかわらず、初めて走るコースで予選Q3に進出した。
レースでは、リバース・ストラテジーでメルセデス2台の後ろでフィニッシュできるかと思われたが、バーチャル・セーフティカーのタイミングが非常に不運だった。
うまく9番手まで挽回、あと2周もあれば、レース終盤に体調不良のガスリーをつかまえることができただろう。
ミック・シューマッハー:評価 3/10
予選14番手/決勝出場せず
ミックにとって、ニキータ・マゼピンが去った後の日々は、想像以上にきついものになっているようだ。代わってマグヌッセンが加入したことで、ハードルが大幅に上がってしまったのだ。
マグヌッセンはFP1で走れなかったにもかかわらず、土曜にはミックより1周0.5秒も速いタイムを記録した。そしてミックは、Q2でウォールに激突し、決勝を欠場することとなった。
出場していればポイント獲得のチャンスがあったはずだ。ハースはこのクラッシュで約100万ドル(約1億2000万円)を失う見通しだという。ミックは昨年もこのコースで大きなアクシデントを起こしている。