まだまだ油断はできませんが、北海道のウインターシーズンもそろそろ終わりが近づいてきました。
2022年も北海道は積雪が多く、悲惨な交通事故も多数発生しています。ちなみに交通事故の発生件数は、夏期(5月~11月)に比べて冬期(11月~4月)は1.8倍に増加するそう。
そんな北海道で35年以上無事故・無違反のトラックドライバーAKさんに、今季のウインターシーズンの締め括りとして、冬の北海道の交通状況・道路状況や積雪路・凍結路の走り方の秘訣を聞いてみました。
文・写真/AKさん(北海道在住ベテラントラックドライバー)
ラリーで磨いた運転技術
大雪、凍結路の走り方を言葉でお伝えするのは大変難しく、結果を先に述べるなら、「とにかく実際に経験を積んで頂くしかない」としか言えないのですが、私が35年以上無事故であった秘訣みたいなものがあるとするなら、若かりし頃に経験したモータースポーツの感覚以外に思い当たりません。
私はクルマの免許を取る前はモトクロスライダーでした。そして、クルマの免許を取ってすぐに、とあるラリーチームに入りました。
流石に学生の私にラリー車のような高価なクルマは買えず、先輩からお下がりのダートトライアルの競技車両を手に入れました。ラリーは約6年間続けましたが、その経験で培った低摩擦路面の走行技術は今も役に立っています。
クルマが限界を超えた時の挙動を、ケガと引き換えに覚えましたから、一般道を普通に走っていてコントロールを失うことはありません。
私の周りにいる運転の巧い人は、皆さんモトクロスやダートトライアル、ラリーの経験者が多く、私と同じように30年以上無事故無違反の人もいます。どんな状況が危険に繋がるかを把握しているからだと思いますよ。
そして、皆さんとてもマナーの良い、優しい運転をします。私の経験では、運転技術の高い人ほど道路上でのお行儀も良いです。
競技車両には一歩間違えば死ぬような速度で走っても死なないだけの装備がありますので、一に練習、二に練習です。競技車両での練習は、競技以外の運転技術も確実に磨いてくれたと思っています。
滑ってもコントロールを失わない技術があれば、どんな悪条件下でもパニックを起こしません。そんな余裕を身に付けるには、やはり練習しかありません。
事故を誘発するのは危険なブレーキ
しかし、どんなに運転に長けていても、北海道の冬道はちょっとしたミスで命を落とします。
もっと恐ろしいのは、他人の命を奪ってしまう可能性が高いことです。なにしろ圧雪・凍結路では、クルマを止めたい距離で止めるのは不可能ですから、市街地やクルマの多い幹線道路ではかなり緊張します。
制動距離は夏の2倍、条件によってはそれ以上に長くなります。北海道のドライバーは技術の無い人でも平気で夏と同じ速度で走行していますが、ほとんどが「一か八か」という運転であることをお知らせしておきます。
初めて冬の北海道の道を走られる方は、皆が飛ばしているから大丈夫だとは絶対に思わないで下さい。慣れからくるもので、止まれないことをわかりながら普段と同じ速度で走っています。
しかしすべてのドライバーにそんな度胸はありませんから、同じ道路に極端に遅かったり、危険なブレーキを踏む人もいます。そうした場合、確実に事故になります。
制限速度を守るのは良いのですが、トンネルやコーナーに入ったとたんに更に減速する安全思考に囚われている人が大事故を誘発しています。自動車教習所ではクルマの限界を教えてくれませんし、凍結路では「下手な減速」がもっとも危険だと言う実習も無いでしょう。
例え言葉で教わっていたとしても、恐怖で流れに乗れないドライバーは、路上でもっとも危険な存在です。
猛吹雪の時は?
どんなに冬道に慣れたドライバーたちでも、絶対に普通の速度を出せないのが猛吹雪の時です。
しかし経験を積んでいる人は見えなくなるのは数秒だと知っていますから、それまで見ていた記憶を頼りに、ゆっくりと走り続けます。決して止まりません。
ご想像の通り、後続車の追突を避けるためです。
初心者は前が見えなくなると一瞬でパニックを起こし、急ブレーキを踏みます。そのまま止まれたならまだ幸いで、凍結路はつねに平らだとは限りませんから、轍があれば確実にスピンします。
その結果クルマが真横になって止まってしまえば、後続車はライトもテールランプも視認できずに、追突は避けられません。こればかりは経験を積んでもらうしかないのです。
凍結路のエキスパートは、追突を避けるため以外では、どんな状況下でもパニックブレーキを踏みません。
ところで、私は趣味で山に登ります(若い頃は無知の勢いで何度もビバークを経験しました)。山を知る人は、北海道の山では本州プラス1000mの標高気象を想定します。つまり、北海道の冬は本州の山間部の気候だと言うことでしょう。
酷い雪の吹き溜まりで立ち往生し、クルマの中で窒息死する事故が過去に何度もありました。一番寒い二月にはクルマのヒーターが効かず凍死する可能性もあります。
古いトラックで真冬の北海道に来られる方は、氷点下対応のシュラフ、スコップ、60km/hの速度で長時間走行できる特殊鋼のチェーンを装備してください。
あとは2~3日分の食料と飲料水、携帯トイレも忘れずに。運が悪ければ大雪に見舞われ、交差点の真ん中で除雪車の助けを待つことになります。大抵は遅くとも3日以内に助けが来ますから、安心してください(笑)。
氷点下の秘密
最後に、恐らく北海道でしか体験できない氷点下の秘密をお伝えしておきます。
一月から二月、札幌より東北方面、つまり道北や道東方面へ向かう時なら、終日氷点下15度以下になる日が多く、時には氷点下25度から34度くらいまで気温が下がります。
そして快晴なら、穴だらけのシートでも荷物が濡れないんですよ。空気中の水分がすべて凍結していますから、水濡れ厳禁の荷物も大丈夫です。
さらに北海道のトラックドライバーなら口を揃えて言うと思いますが、氷点下20度以下では例え路面が凍結していても不思議なくらい滑りません。
夏のアスファルトとまったく同じとまではいいませんが、ほぼアスファルトと同じくらい滑りません。北海道の方言で言う「縛れ乾き」(しばれがわき)の状態なので、氷の上でも滑りません。チャンスがあれば体験して下さい。
冬のドライブは危険ばかりではありません。極寒の地でしか体験できない素敵なこともたくさんあります。
空気中の水分が凍ってキラキラと光るダイヤモンドダスト。濡れたタオルを振り回すと棒になる凍結現象。深い雪に音が吸収される無音現象。氷点下の真夜中は別世界です。タイミングに恵まれたなら、そんな体験をお土産にして、生きて帰って欲しいです。
凍結路のドライブを楽しいと感じられるようになったなら、あなたも立派な北海道人です。過酷な自然には、言葉にはできない魅力があります!
投稿 今季も無事故で走り納め! 北海道在住トラックドライバーに聞く大雪・吹雪・凍結路の走り方 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。