もっと詳しく

 トラックは、軍用車として戦争の道具にもなれば、復興を力強く推進する戦力にもなる。

 胸ふたがるようなウクライナの戦禍を見るにつけ、停戦への道のりも復興への道のりも長く険しいことは想像に難くない。しかし、いつか必ず復興の日は来るはず。

 いまは何の光明も見えないが、トラックは復興の象徴。荒れ果てたウクライナの国土に戦後復興のため力強く稼働するトラックの姿を早く見たいものだ。

 ロシア・ウクライナ・ベラルーシのトラック事情を通して、彼の地へ思いを馳せてみたい。

文/緒方五郎&フルロード編集部
*2020年12月発行「フルロード」第39号より


社会主義が生んだトラック

 ロシアは人口1億4000万人強と日本よりやや多く、新車の大型・中型トラック市場も年7~8万台程度で、意外に規模が近い。

 だが、自動車産業を旧ソ連時代に構築し、トラックには軍事と国土開発という体制上の役割が重視されたことから、走破性はともかく、自動車技術面で欧米に及ぶものではなかった。それが体制崩壊と連邦解体によって顕現し、いまも影響を及ぼしている。

 大型・中型トラック市場の半数近くを、国産で低価格のKamAZが占めるが、大型はボルボ、スカニア、MANなど欧州車が一定のシェアをもつ。欧州車は長距離輸送に強く、また露国内に生産拠点を有するメーカーも多い。一方、中国車も進出しているが、まだ少数である。
 
 国産車は、旧ソ連モデルをベースに、エンジンやトランスミッションを欧米製に換装したモデルが多かったが、近年は欧州車との競合を意識した高規格の新型車も現れつつある。総輪駆動車は比較的多いとみられるが、決して主流ではない。

 ちなみに車両クラス分けはGVW3.5t未満、GVW3.5~12t、GVW12t超と欧州に準じる。

 国際関係上の問題が多いロシアだが、保有台数が多く、資源開発など経済成長のポテンシャルがあるのも確かで、トラック市場としてのポテンシャルは大きい。
 
 旧ソ連構成国であるNISのベラルーシ、ウクライナのトラックも、当然ソ連メーカーがルーツで、独立後の動向も同様だ。

 新車トラック市場はベラルーシが1万台、ウクライナは1~2万台程度といわれるが、やはり欧州車が台頭している。ベラルーシ唯一のトラックメーカー・MAZは、ロシアをはじめ輸出でも一定の市場をもつが、同じくウクライナ唯一のKrAZは、対露関係の悪化もあって低迷、破綻状態にあり、消滅間近とみられる。

ダイムラーが提携を解消したKamAZ

 カマ自動車工場(KamAZ)は、ロシア大型車市場でシェア45%のトップメーカーで、ソ連時代の1969年、タタールスタンに創設された。

 当時ソ連は大型トラックが不足していたため、当初より大量生産能力が与えられ、第1号車ラインオフは76年、本格操業は77年からだが、78年夏に累計5万台を数える生産の勢いだった。

 最初の生産モデルは、GVW15tキャブオーバー6×4車「KamAZ-5320」で、ソ連の名門自動車メーカー・ZILがKamAZ生産モデルとして開発、10.8リッター・V8ディーゼルエンジンを搭載し、基幹モデルとしてダンプ車型、セミトラクタ車型を展開した。後に4×2車型も追加されている。

 80年、その全面改良モデルとして「KamAZ-53212」が登場、同様に基幹車型を展開するが、88年に積載量を拡大したGVW22t・6×4ダンプ車型「KamAZ-6520」が追加された。

 95年には「KamAZ-53215」へ全面改良し、96年にGVW25t・6×4ダンプ車型「KamAZ-6520」を設定した。現在もこれらの改良型が生産中である。

 なお、88年にワークスラリーチーム「KAMAZマスター」を結成して大型トラックによるモータースポーツ活動を開始、ダカールラリーの上位常連として有名だ。
 2003年、初の中型モデル「KamAZ-4308」を発表。05年、大型モデルの改良型「KamAZ-65117」を発表した。
 
 それ以降、欧米・中国のサプライヤーとの提携が相次いだ。08年、ダイムラーが第3位大株主となり、アクサー・キャブの国産化とキャンターのCKD組立を開始した。

KamAZ-54901。第5世代大型モデルのGCW35t後軸エアサス4×2セミトラクタ車型。現行アクトロスと同じキャブプラットフォームとダイムラー製アクスルを搭載

 17年、第4世代大型モデル「KamAZ-5490NEO」とその基幹車型が登場。同時に第5世代大型モデル「KamAZ-54901」も発表、21年から供給を開始する。これらの新型車は受注好調と伝えられている。また小型トラック参入の動きもある。

 (編集註)なお今般のロシアのウクライナ侵攻をうけて、ダイムラートラックはKamAZとの提携を解消。事業活動を停止している。

軍用トラックを多く生産するウラル

 ウラルは1941年、中央政府によりZIS(スターリン名称国営第1自動車工場)のトラック生産ラインを分散したうち、ウラル山脈東麓に設置された分工場を前身とする。

 42~55年まで戦時型3t積車「ZIS-5V」を生産。56年に改良型3.5t積「UralZIS-355」が完成するが、同時に新型車の開発も進め、58年に「UralZIS-355M」として発表した。なお、62年に工場名がウラル自動車工場(UralAZ)となった。

 61年、4.5t積6×6車「Ural-375」と、その改良型「Ural-375D」(69年)は、優れた走行性能で特に軍用トラックとして高評価を得た。77年にディーゼル化した「Ural-4320」に移行、現在も生産中である。

 99年に10~12t積キャブオーバー車(現・ウラルM) を追加。2015年、Ural-4320に新型GAZ車と共通のキャブを導入した「ウラルNEXT」が発表された。

 なお、ウラルは05年からGAZグループ傘下だったが、20年に統一機械製造グループ(OMG)傘下となっている。

軍需や新興国向けのUral-4320。GVW18~22tで、6×6、4×4を展開。エンジンは11.1リッターのV6・228hp、6.7リッター直6・273/310に、5段MTのみが組み合わせられる

フォードの支援で国産化したGAZ

 ゴーリキー自動車工場=GAZは、1932年設立の自動車メーカーで、フォードの支援で乗用車とトラックを国産化し、戦後は完全国産化を達成した。

 46年に2.5t積トラック「GAZ-51」の生産を開始、47年にその4×4車型「GAZ-63」も加わり、旧共産圏でも国産化された。62年に後継となる3t積4×2車「GAZ-53」、また64年にキャブオーバー2t積4×4車「GAZ-66」が登場。

 「53」は89年に「GAZ-3307/-3309」へ一新されたが、「66」は更新されず、97年登場の「GAZ-3308サドコ」が後継となった。また、2004年には、GVW7.5t未満車「GAZ-3310ヴァルダイ」が発売された。

 14年に発表された現行の「ガゼルNEXT」はGVW3.5~4.6t車、「ガゾンNEXT」は「3307」系の後継となるGVW8.7~10t車、19年から生産の「サドコNEXT」は無論「3308」の後継4×4車だ。

 20年7月には、ロシアでも配送需要の拡大を受け、新たにGVW6.7tキャブオーバー車「ヴァルダイNEXT」が発表されている。

ヴァルダイNEXT。GAZのシャシーに、北汽福田製の最新キャブを載せる。エンジンは2.8リッター・149hpで、6段MTを組み合わせる。ブレーキはフルエアで総輪ディスク式

ベラルーシのトラックメーカーMAZ

 ベラルーシのMAZ=ミンスク自動車工場は、第二次世界大戦中の1944年に設立されたトラックメーカーで、米国のレンドリース車の組立を担当し、戦後はヤロスラヴリ自動車工場(YaAZ)が開発した大型トラックMAZ-200を生産した。

 50年にGVW25tダンプを独自開発・生産し、57年にはGVW50tダンプも製品化するなど、重量級大型トラック分野に進出した。

 58年にMAZ-200系の後継となるキャブオーバー車MAZ-500系を開発、生産は65年からとなったが、以後MAZの主力となり、78年からMAZ-6422/-5432系に一新された。

 ソ連崩壊後の停滞期を経て、97年に新型のMAZ-6430/-5440系に全面改良。同年には独・MANと提携、欧州全域での運行に対応したMAZ車の合弁企業・MAZ-MANも発足した。

 99年に中型モデルMAZ-4370系を新たに展開、2014年には新開発キャブとダイムラー製Euro-Ⅵ適合エンジンを搭載するMAZ-5440M系を発表し、18年から生産を開始している。

MAZ-5440M9。4×2セミトラクタで、Euro-Ⅵ適合12.8リッター・475hpエンジンと12段AMTなどのパワートレイン一式をダイムラーから購入しており、ADASも搭載している

ウクライナのトラックメーカーKrAZは消滅!?

 ウクライナ唯一のトラックメーカー、KrAZ=クレメンチュク自動車工場は、1945年に設立された橋梁工場(後に農機工場)を前身とし、58年、ソ連政府によりヤロスラヴリ自動車工場(YaAZ)の大型トラック生産が移管され、翌年からKrAZ-222ドニエプルの生産を開始した。

 66~67年に新開発の大型トラック・KrAZ-256B/-255Bが登場、そのバリエーションは軍・民・輸出で多用され、78~82年にKrAZ-250/-260系へ一新された。

 92年にKrAZ-6510系、94年にKrAZ-6505系へ改良され、以降主力となる。また95年に8t積級2軸車・KrAZ-5系を追加した。09年に初のキャブオーバー車KrAZ-C20.2を発売、ルノー製や湖北斎星製MANのキャブ搭載車も追加された。

 だが対露関係の悪化で、主力のYaMZ製エンジンが調達不能となり、欧米製や中国製のみ選択可能となった。14年には5t積級車・KrAZ-54系で中型クラスへ参入するも、18年秋に破産、20年秋に資産売却が決まり、消滅する可能性が高い。

 (編集注)しかし2021年にウクライナの副首相(当時)がKrAZによるトラック・軍用車の生産再開の可能性を示唆し、実際に同年秋に操業が再開した。22年に6510系をモデルチェンジした6510TEをウクライナ軍に納入している。

 ロシアによるウクライナ侵攻後の2022年3月1日には「KrAZの軍用車と労働者は、故郷を守るためにあらゆることをしています!」と発表している。

KrAZ-7133C4。GVW41t・8×4ダンプ車型で最大積載量26t。COEモデルは、当初オリジナルキャブもあったが、現時点では写真のルノー製キャブと湖北斎星製MAN型のみ

投稿 停戦から復興へ道のりは遠く険しくとも! ロシア・ウクライナ・ベラルーシのトラック事情自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。