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 全日本スーパーフォーミュラ選手権は開幕前最後となる富士スピードウェイでの公式合同テストを終えた。初日はウエット、さらに午後のセッションは降雪で中止となってしまったが、2日はドライコンディションに恵まれ、各車は開幕に向けて精力的に走行を重ねていた。

 低気温とはなったものの、2日目午後のセッションの最後には各車が“現在地”を探るべく、タイムアタックを敢行。最終的には赤旗で終了となったが、ここでテスト全体のトップタイムを残したのがサッシャ・フェネストラズ(KONDO RACING)だった。

 2021年は入国制限の影響により、2レースしか戦うことが叶わなかったフェネストラズ。「チームにとっても難しい年だった」と振り返る。

 ところが2022年を迎えてみると、鈴鹿サーキットでのテスト初日最初のセッションでいきなり4番手につけるなど、好調ぶりを発揮。そして開幕前最後のセッションで、トップを奪った。

「去年、あまりレースできなかった僕は、みんなからは少し遅れていると思った。だからこのオフは、これまでにないくらいハードワークをしてきた」とフェネストラズ。

「もちろんこれはただのテストだから、周りと比べるのは難しい。でも、チームにとっても、僕にとっても、トップタイムはモチベーションになる。開幕に向けて、興奮しているよ」

2022スーパーフォーミュラ鈴鹿合同テスト サッシャ・フェネストラズ(KONDO RACING)
2022スーパーフォーミュラ鈴鹿合同テスト サッシャ・フェネストラズ(KONDO RACING)

 そのフェネストラズの好調ぶりを喜ぶのが、通訳兼アドバイザーとして今年チームに加わっているミハエル・クルム氏だ。

 ご存知のとおり、日本でのレース歴が長いクルム氏は日本語が堪能。スーパーGTではニッサン/ニスモ陣営のドライバーを退いた後もエグゼクティブアドバイザーとして関わり続けており、GT500でのドライブ経験もあったKONDO RACINGから声が掛かるのは自然な流れだった。

「近藤(真彦)さんには、“チームマネージャーみたいな(役割)”って言われたけど、基本的にはサッシャのコミュニケーション・サポートですね」とクルム氏は現在のポジションを説明する。

「サッシャはちょっと日本語ができるけど、これだけ速いクルマだと運転に100%集中しないと難しいし、セッティングやバランスに関しても自由に英語でコメントしてもらって、僕がエンジニアリングチームと(日本語で)相談する」

■「細かい言葉のニュアンスが大事」な理由

 元ドライバーだけに、その役割は単なる通訳では終わらない。加えて、トラックエンジニアを務める村田卓児氏とは古くからレースを戦ってきた間柄だけに、コミュニケーションとセットアップ作業全体がスムーズに進んでいるという。

「元ドライバーとして、どういう言い方でエンジニアに伝えればいいのか、という部分は経験がある。サッシャのコメントを、エンジニアが分かりやすい日本語にして伝えるのが一番大事。ドライバーがマシンから降りてきて、『ハァ、ハァ』って(興奮)状態でコメントするときって、ちょっと言葉が足りないもの(笑)。でも、そこで何が言いたいのかはよく分かるからね」

 とはいえ、クルム氏が最後にトップフォーミュラのステアリングを握っていたのは2007年。「タイムを見ると、めちゃくちゃ速くてビックリするよ!(笑)」と、マシンの進化には驚いているようだ。

「昔と比べれば、パドルシフトもパワーステアリングもあるから、疲れはちょっと違うと思う。でも、あの速さだし、すごいGがかかるし……。セットアップも、昔よりも細かいね。とにかく全体のタイム差が小さいから、ライバルに差をつけるのは大変。だから、細かい言葉のニュアンスは大事だと思う」

2022スーパーフォーミュラ富士合同テスト サッシャ・フェネストラズ(KONDO RACING)
2022スーパーフォーミュラ富士合同テスト サッシャ・フェネストラズ(KONDO RACING)

 トップタイムという結果はもちろんだが、3月に入って鈴鹿テスト、富士テストと仕事をしていくなかで、フェネストラズとの関係構築にもクルム氏は手応えを感じているようだ。

「一緒に仕事してまだ6日目だけど、サッシャも『どう思う?』って結構僕に聞いてくれる。あれは嬉しいですね。自分の意見も入れられるから」

 テストでの好調ぶりについては、「(山下)健太も鈴鹿の最後のセッションは2位だったし、KONDO RACING全体としてレベルが上がってきているんじゃないかと思う。……そう思いたい(笑)」とクルム氏。

 ちなみに、最初にフェネストラズを認識したのは、来日初年度の全日本F3だったという。

「なかなかF3でトムスに勝つ人っていないでしょ? だから、たしかその当時に声をかけました。『この人が速いんだぁ〜』って感じ(笑)」

 一見、意外なコンビネーションにも映るが、フェネストラズも鈴鹿テストの際に「すごく助かっていいる」とコメントしており、ふたりは開幕前からいい化学反応を起こしているよう。

 この先、実際のレースウイークともなれば、セットアップに関する判断のスピーディさや、決勝での無線を通じた戦略判断・伝達など、より“コンビ”としての真価が問われていくことになる。実戦のなかでクルム氏の存在をどのように活かし、チームとして戦っていくのか。今季のひとつの見どころともなりそうだ。