横浜・南本牧ふ頭がベースの海コン運転手のヒロさんにとって、首都高はほとんど毎日利用する、まさに生命線。その首都高の利用料金が4月1日から値上げされるというので、心穏やかではありません。
一体いくらぐらい負担増になるのか、ヒロさんが詳細に記録している運行日誌を元に、超リアルな利用料金値上げのビフォー・アフターを試算してもらいました。
文/ヒロさん(海コン運転手) 写真/トラックマガジン「フルロード」編集部
横浜港を拠点とする海コン運転手への影響は?
ご存知の方も多いかと思いますが、今年の2022年(令和4年)4月1日(金)から、関東地方を走る「首都高速道路」の利用料金が変わります。
「変わる」と言って、値下げになれば「やったー」とか言って喜んじゃうんですけど、このご時世と言いましょうか、何と言いましょうか、値下げなんてことがあるワケもなく、「値上げ」になります。
燃料費も高騰してるし、首都高も値上げするし……、困ったもんです。
自分はですねぇ、横浜港の南本牧ふ頭を拠点に、トレーラで「国際海上コンテナ」を専門に運ぶ運転手、俗に言う「海コン運転手(かいこんうんてんしゅ)」なんて呼ばれるトレーラ運転手をやっておりまして、気づけば、この仕事をやり始めて今年の8月で丸20年となります。
新人当時の自分を知っている人からしたら、「真っ先に逃げ出すと思ってたのに、まだやってたんだ!」なんて感じだと思うんですけど、いろいろな方々のお陰もあり、何とか続けております(笑)。
まぁ、そんなことは置いといて、首都高のハナシに戻りますが、横浜港を拠点とする自分にとって、この首都高の値上げは、あまりイイ出来事ではないんですよねぇ。
横浜港にとって首都高は、「生命線」と言っても過言ではない道路で、仕事の時は常に使う道路なんですね。
「生命線なんて、大げさな!」と思われるかもしれませんが、台風だったり雪だったりで首都高が通行止めになると、横浜港の南本牧ふ頭、本牧ふ頭 、大黒ふ頭は激しい渋滞に見舞われて、「麻痺」って言葉がピッタリなくらいな地獄絵図状態になります。
ホント、5キロくらいの移動に4時間かかったりしますからねぇ。
所属する運送会社によって、高速代は全額、運転手の自腹だったり、売上から高速代を引かれたり……と、マチマチなんですけど、自分が所属している会社は、全額会社が負担してくれているので、首都高が値上げになったからと言って、自分の懐が痛むワケでもないし、直接給料に影響するワケでもないんですけど、会社は負担が増えちゃうんで、困っちゃいますよねぇ。
首都高利用料金値上げのあらまし
で、実際にどれくらいの値上げになるかと言いますと、これがチョットややっこしい(笑)。
首都高のWebサイトによると、「中型車および特大車を除くETCのお客さまは、料金距離35.7km以内をご利用になる場合、現行の基本料金から変更ありません。料金距離35.7km超をご利用になる場合は、急激な負担増を避けるため、新たな上限料金(普通車1,950円)を設定します。」となっているんですね。
海コンって、トレーラヘッドのみで走る、いわゆる「アタマ」の状態と、トレーラ(シャシー)を引っ張って走る、「ケツ」を引っ張った状態の2種類があるんです。
アタマの状態で首都高を走った時は、車種としては「中型車」に分類され、一般的な2軸(シャシーを真横から見た時、タイヤが2つの状態)または3軸(シャシーを真横から見た時、タイヤが3つの状態)のケツを引っ張った状態だと「特大車」に分類されます。
ちなみに、アタマが2軸+ケツが1軸の状態のトレーラは、「大型車」に分類されるんで、「特大車」より安く高速を走れるんですけど、自分が所属している会社には、2軸と3軸のシャシーしかないし、エアサスの機能で1軸になるシャシーもないので、そこについては考えないことにします。
首都高の発表によると「中型車および特大車を除くETCのお客さまは……」と書いてあるので、自分ら海コンに関しては、距離の短い区間を走ったとしても、全区間で値上げになるんですね。
では、どれくらいの値上げになるかと言いますと、
■中型車
・310円〜1410円(現行)
↓
・330円〜2310円(新料金)
■特大車
・460円〜2650円(現行)
↓
・550円〜5080円(新料金)
となりまして、値上げ幅は、中型車で20円~900円、特大車で90円~2430円となります。
例えばですね、横浜の南本牧ふ頭から首都高に乗って、埼玉県の与野で降りた場合、現行だと特大車で2650円……なんですが、特大車と大型車に関しては、「環境ロードプライジング」、略して「環プラ」と言う割引制度がありまして、高速神奈川1号横羽線(K1)の「浅田~大師」の区間を走らず、高速湾岸線(B)の「大黒ジャンクション~川崎浮島ジャンクション」の区間を走れば、いくらか安く走れます。
要は、「大型のトレーラとトラックは、横羽を走らないで、湾岸のベイブリッジとかつばさを走ってね。その代わりと言っちゃなんだけど、少し安くするからさ」って制度ですね。
なので、南本牧ふ頭から首都高に乗って、高速湾岸線(B)の横浜ベイブリッジや鶴見つばさ橋、高速中央環状線(C2)の山手トンネルなんかを経由して与野で降りると、260円お得な2390円となります。
これが、4月1日からの新料金になると、南本牧ふ頭から与野まで特大車で5080円。「環プラ」の割引が入っても、510円お得な4570円となります。
ってことは、「環プラ」の割引が入ったとしても2180円の値上げとなります。
これだけ見ると、「へ~、最大で高速代が2500円くらい上がるんだぁ」って感じなんですが、そー単純なハナシでもないんです。
海コンの場合は、コンテナを引っ張って港を出発して、配達先に持って行きます。
そこで、輸入の場合はコンテナの中身を全て出してもらい、輸出の場合は品物をコンテナの中に詰めてもらいます。そのコンテナを引っ張って港に戻って、これで一つの仕事が完了となります。
つまり「港→配達先→港」ってカタチになりますから、往復をしなければならないんですね。
そー考えると、首都高 南本牧ふ頭と与野の間を往復するような場合、基本料金で高速代が1万0160円、「環プラ」の割引が効いても9140円ってことになります。
一つの仕事に対して、基本料金で4860円、「環プラ」が効いた状態で4360円の負担増となりますから、運送会社にとっては、なかなかの負担ですよねぇ。
しかし、一運転手として考えれば、毎日のように南本牧ふ頭と与野の間を往復しているワケではなく、その日に付けてもらった仕事によって、行き先も違えば走る道も違うので、全ての仕事に対して、これだけ負担が増えるワケではないんです。
実データをもとにどのくらいの負担が増えるのかを試算
ここで、昨年2021年(令和3年)の1月、2月、3月の走行実績を基に、どれくらい負担が増えるのか、試算した結果をお伝えしようかと思います。
「何で、去年の1月、2月、3月なの? 中途半端じゃない?」なんて思われた方もいらっしゃると思いますが……。すみません、ホントは「よっしゃ! 去年一年間の走行実績を全部出すぞ!」と意気込んで入力作業を始めたものの、自らが思っていたより有料道路を使ってました。
2月分まで入力を終えた時点でExcelの行数が207行となり、「う~ん……、一年はムリだから、3月分までで終わりにしよう。っつーか、高速使い過ぎだよ、俺」と挫けてしまい、このようなことになりました(笑)。
まず、毎月どれくらい高速代を使っていたかといいますと、
・2021年1月 … 14万3180円
・2021年2月 … 16万6610円
・2021年3月 … 17万0270円
です。
この中から、「首都高」のみの利用料金を抜き出してみると、
・2021年1月 … 9万1180円
・2021年2月 … 9万8460円
・2021年3月 … 9万7700円
となります。
どの区間をどれだけ走ったのかということですが、この3カ月間で見てみると、
・保土ヶ谷バイパス接続→新山下(8.9km) … 26回
・南本牧ふ頭→保土ヶ谷バイパス接続(11.4km) … 16回
・新山下→保土ヶ谷バイパス接続(8.9km) … 14回
・本牧ふ頭→与野(68.0km) … 12回
・保土ヶ谷バイパス接続→南本牧ふ頭(11.4km) … 11回
・三溪園→幸浦(10.0km) … 11回
・杉田→三溪園(6.9km) … 10回
・その他
って感じで、ダントツで保土ヶ谷バイパス接続から乗って新山下で降りるパターンが多いんですが、これは「乗り口」「降り口」を厳密に区別した結果で、新山下・南本牧ふ頭・本牧ふ頭・大黒ふ頭・三溪園を「横浜港」として一くくりにして、もう一度見直してみると、
・保土ヶ谷バイパス接続→横浜港 … 39回
・横浜港→保土ヶ谷バイパス接続 … 30回
・横浜港→与野 … 19回
・与野→横浜港 … 13回
・横浜港→東扇島 … 12回
・東扇島→横浜港 … 12回
・横浜港→幸浦 … 11回
・杉田→横浜港 … 10回
・アクアライン接続→横浜港 … 8回
・東北・外環接続→横浜港 … 6回
・横浜港→アクアライン接続 … 5回
・横浜港→東神奈川 … 5回
・東神奈川→横浜港 … 5回
・その他
と、なります。
やっぱり、保土ヶ谷バイパス接続っていうか、狩場と港の間の通行が一番多いですねぇ。
これらを踏まえた上で、新しい料金体系で各月の首都高のみの利用料金を試算してみるとですねぇ、
・2021年1月分 … 14万8400円
・2021年2月分 … 15万8210円
・2021年3月分 … 14万2950円
ってな結果になりました。
1月分で5万7260円の負担増、2月分で5万9750円の負担増、3月分で4万5250円の負担増となるので、雰囲気的に「毎月6万円くらいの負担増になるのかな?」って感じでしょうか。結構なモンですねぇ。
新たに導入される深夜割と割引率の拡大が行なわれる大口割を適用した場合の数値は!?
しかし、首都高も鬼ではありません(笑)。まず、「深夜割引」が導入されます。
世間では「深夜」なものの、自分的には「朝」なんですけど、朝0時から4時の間に、首都高の「入口」にあるETCアンテナをくぐって首都高に入れば、20%の割引が受けられます。
3時50分に南本牧ふ頭のETCゲートをくぐって首都高に入り、環プラの割引も効かせつつ与野で降りた場合、通常だと特大車が4570円のところ、「深夜割引」+「環プラ」で、910円お得な3660円となります。
朝4時までに、首都高のETCゲートをくぐることって、そこそこありまして、「あと30分くらい早起きしたら、朝4時までに料金所をくぐれたな」ってケースも含め、「深夜割引」を考慮して試算しなおしてみますと、
・2021年1月分 … 14万0040円
・2021年2月分 … 15万0480円
・2021年3月分 … 13万7670円
となりました。
1月分で-8360円、2月分で-7730円、3月分で-5280円なんで、何かあんま安くなってないですね(笑)。
また「深夜割引」とは別件で、これは、会社やら団体への請求時に適用される割引で、一運転手の自分にはまったく見えて来ないモノなんですけど、「物流を支える車の負担が急激に増加しないよう」ってことで、以前からあった「大口・多頻度割引」ってヤツも更に拡充されます。
これは、「たくさん首都高に乗ってくれるクルマは、チョット安くしますよ~」ってな割引なんですが、「ETCコーポレートカード」ってヤツが対象なんで、個人のETCカードじゃダメなんですけど、1台というか1カードあたり、1カ月の首都高の利用が5万円超の部分が「基本割引」ってことで20%割引だったのが25%割引になったり、「中央環状線の内側を通行しない利用分」の1万円超の部分に対して5%割引だったのが10%割引になったり、「契約単位割引」ってヤツは変わらずの10%割引ってことで、最大で45%の割引が受けられるようです。
ただし、総額から最大45%の割引が受けられるワケではないみたいで、基本割引の条件に「5万円超の部分」とか書いてあるんで、「5万円を超えた金額に対して25%割引ますよ」ってことみたいだし、「中央環状線の内側」ってところも、全部が全部その条件に当てはまる通行ではないので、何だかむずかしいっスね。
自分の理解が正しいとして、一番利用額が多かった2021年2月分で現行・改定後の請求額を試算してみると、
・改定前 … 7万6435円
・改定後 … 12万5917円
となるようです。
しかし、この数値、ホントに正しいのか?(笑)。
最大限に割引の恩恵を受けたとしても、4万9482円の負担増となるんで、やっぱ会社としては痛いんだろうなぁ。
自分は会社のナカのヒトじゃないんで、毎月どれくらいの請求が来ているのか、まったく分からないし、もしかすると、あまりにも細かすぎて、会社側も請求書が来るまで、正確な金額を事前に把握しきれてないのかもしれませんねぇ。
その月の、実際に支払う首都高の利用料は、神のみぞ知るっていうか、紙(請求書)のみぞ知るってことですかね(笑)。
投稿 海コン運転手が超リアルに試算! 首都高の利用料金値上げでヤバいくらいの負担増!? は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。