三菱ふそうトラック・バスは3月14日、小型BEVトラック「eキャンター」の塵芥車(ごみ収集車)1台を神奈川県厚木市に納車した。
BEV(バッテリー式電気自動車)塵芥車はこれ以前にも例はあるが、改造車でも試作車でもない「量産型」のBEVトラックをベースシャシーとした塵芥車は、このクルマが日本初、さらに全世界で350台以上が使われているeキャンターの中でも、初めて塵芥車として完成したクルマである。
そして、あまり知られていないのだが、日本はシャシーに搭載する塵芥収集ユニットの電動化開発が進んでいる国の一つである。つまり、厚木市のeキャンター塵芥車は、シャシーも架装物もどちらも世界最先端という特装車なのだ。
文/緒方五郎、写真/緒方五郎・フルロード編集部
派手なスペックこそないが先進的なEVごみ収集車
厚木市では「EVごみ収集車」と呼ばれるeキャンター塵芥車は、国内ではこれまで冷凍車やドライのバン型車などで活用されてきたeキャンターと同一の車両総重量7.5t/ワイドキャブ/ロングボディ車に、新明和工業の回転板式塵芥収集ユニット「G-RX」を架装したものである。
「回転板式」とはごみを荷箱へ送り込む方式の1つで、この装置自体は電気ではなく油圧のパワーで作動するメカニズムが用いられており、実はディーゼルの塵芥車と同じである。違うのは、油圧パワーを発生させる油圧ポンプを駆動するのが、通常のエンジンではなく電気のモーターであることだ。
この油圧ポンプ用モーターを動かす電力は、eキャンターの360Vという高電圧のリチウムイオンバッテリーから供給するが、これは単なる電力ではない。
トラックを走らせるための電力は非常に電圧が高く、出力も大きい特徴がある。それを走りとは無関係の油圧ポンプ用モーターでも使えるようにするため、専用のインバータと電子制御ユニット(ECU)も搭載している。
そして架装物が必要とする電力をシャシーへリクエストし、かつそれを受け取るために、三菱ふそうと新明和とで共同開発が行なわれている。決して華々しくわかりやすいスペックが並ぶわけではないが、地味に先進的な開発が行なわれているのがEVごみ収集車なのである。
12年前に実用化していた塵芥収集装置の電動化
塵芥収集ユニットの電動化は最近始まったことではなく、ハイブリッドトラックが普及しはじめた10年以上も前から続いている話である。新明和をはじめとする日本の特装車メーカーでは、いまから12年前の2010年に塵芥収集ユニット単体の電動化を実現させていたのだ。
当時はハイブリッド車や純ディーゼル車への架装を前提とし、塵芥収集ユニットだけを電動化するため専用の蓄電装置(キャパシタやバッテリー)も搭載していたが、高電圧・大電流に対応した電動化技術のノウハウはこのころすでに手に入れている。
欧州でもほぼ同時に塵芥車の電動化開発が進められていたが、製品としての市販化や小型トラックへの架装という点で、日本の特装車メーカーは間違いなくパイオニアである。
この当時の製品は、通常の塵芥車に比べて高価で積載面の影響もあったことから大量普及に至らなかったが、そのノウハウがEVごみ収集車に活かされていることはいうまでもない。
もちろん、こんにちのBEVは当時のハイブリッド車やBEVよりも進化しているが、その流れに対応できる素地を日本メーカーは築いていたわけである。これはとても大きな財産だろう。
実証試験で問われる能力
厚木市のEVごみ収集車の実証試験は、三菱ふそう、新明和、そしてユーザーである市を加えた三者共同で進められ、納車翌日の3月15日から開始されている。
EVごみ収集車には、eキャンターにG-RXを架装するだけではなく、使用済み乾電池収集ボックスや清掃用品の収納器具といった「厚木市のオリジナル仕様」も踏襲。通常車と同様の収集作業ができる造りとなっている。このあたりはBEVであろうが、ローカルニーズは不変なところがみえる。
ただeキャンターは、厚木市で多用されている車両総重量5~6t級の小型トラック標準キャブ・標準ボディ車ベースの塵芥車よりもサイズが大きい。
いっぽう、ごみを積み込む荷箱のサイズは6.5立方メートルで、一般的な塵芥車の4.4立方メートルよりも大きいが、車両サイズの割には小さく、最大積載量は逆にマイナス400kgの1.6tに留まる。
家庭ごみや資源ごみは比重が高くないので、積載量不足で困ることはないとみられるが、やはりBEVの自重がかさんでいること、その原因である高電圧バッテリーがシャシーのスペースも占有するために、電動油圧システムと作動油、シャシー電装用12V鉛バッテリーを収めたボックスをキャブバックに設置するしかないことの影響は大きい。
このあたりはBEVトラックがディーゼル車より劣る部分だが、実際に不便かどうか、これも実証試験で明らかになるだろう。厚木市環境事業課によれば、まずはいろんなごみ収集ルートを試してから運行ルートを確定していくという。
一満充電あたり航続距離はeキャンターの100km以上に対して、EVごみ収集車では約90km程度になると三菱ふそうでは予測しており、実証試験で実力が量られることになる。
厚木市ではだいたい約80km程度のルートを設定する考えのようだ。拠点は厚木市環境センター(ごみ処理施設)で、充電用の電力も、集めたごみを焼却した熱を利用した蒸気タービンから発電するなど、ゼロカーボン化が図られている。市のごみ収集事業は朝や昼に稼働するので、夜間を利用して約8時間ほど通常充電が行なわれる。
EVごみ収集車はダイムラートラックから5年リースで使われる予定だが、実証試験の経過をみながら、今後2年おきに計2台のEVごみ収集車を追加する計画である。
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