2022年F1シーズンが3月18日~20日のバーレーンGPで開幕する。どのチームが初戦で強さを見せ、どのチームが苦しむのか。テストの情報のみで各マシンの真の速さや序列を予想するのは難しいが、formula1.comでの解説でもお馴染みのF1ジャーナリスト、サム・コリンズ氏が、プレシーズンテスト期間の6日間、各マシンを観察した印象をまとめてくれた。
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“不透明”。バーレーンでのF1プレシーズンテストの結果を一言で表現するなら、この言葉が一番しっくりくるだろう。
2022年F1開幕戦で何が起こるか、予想できる者は誰もいない。ラップタイムだけでは多くのことは分からず、何を仮定しても今の段階では無意味なのだ。
バーレーンテスト全体の最速タイムを出したのは、波乱の2021年シーズンを制してドライバーズタイトルを手にしたマックス・フェルスタッペン/レッドブルだった。だが、2021年の最下位チームであるハースに乗るミック・シューマッハーが、フェルスタッペンよりもハード寄りのタイヤで2番手に入ってみせた──。
■レッドブルRB18:疑問符が残る最速タイム
ラップタイムだけでは何も分からないが、タイミングデータを分析していくことで、ある種の結論を導き出すことを試みることは可能だ。燃料の量やエンジンモードといったいくつかの重要な要素を無視するならば、ある程度の結論を引き出すことができる。
そうした重要なファクターを無視した場合、レッドブルが最速ということになる。しかしこれは、主にテスト最終日のみに基づいた結論だ。この日、レッドブルは、RB18に大幅なアップデートを施した。一見すると、サイドポッドが主な変更点に見えるが、それだけではパフォーマンスの大幅な向上を説明することはできないだろう。
レッドブルは、極端に燃料を軽くして、非常にアグレッシブなエンジンマップを選択して走行した可能性がある。しかも、フェルスタッペンは、バーレーンGPでは使用されない最もソフトなタイヤ、C5コンパウンドを使って最速タイムを記録している。
2021年シーズンにレッドブルは、タイトル争いのなかで、最終戦までRB16Bの開発に取り組んだ。厳しく制限された風洞作業時間の多くをRB16Bに費やし、RB18の開発にそれほど多くの時間は割けなかったはずなのだ。それを考えると、実際に彼らが予選で圧倒的な強さを発揮したなら、それは驚くべきことだ。RB18はひどい重量過多に悩まされているらしいことも気になる。
■フェラーリF1-75:真の最強マシンか
ペースデータではフェラーリは2番手だが、実際にはF1-75は、どのタイヤでも、どういう燃料搭載量でも強そうに見え、最強であるという印象を受けた。
また、マシンの信頼性が高いことも重要だ。“ポーパシング”という、空力的な影響で起こる高速走行時の激しい振動に悩まされてはいたが、これはこのマシンのダウンフォースレベルが高いことを示している。
■メルセデスW13:大規模アップグレード導入も精彩欠く
2021年のコンストラクターズチャンピオンであるメルセデスは、バーレーンテストに、サイドポッドを大幅に縮小するという大規模なアップグレードを持ち込んだものの、データ上では3番手のタイムにとどまっている。
劇的なアップグレードが施されたW13だが、ひどいポーパシング現象に見舞われ、さらには小さな信頼性の問題が多数発生していた。ドライバーはふたりともマシンに良い感触を持っておらず、ルイス・ハミルトンは、現状ではこのマシンに優勝する力はないと断言する。とはいえ、過去5シーズン、彼がこの時期に同じことを言っていたことを忘れてはならない。
■アルピーヌA522:最終テストで劇的に改善
アルピーヌチームは、バルセロナテストでは散々な結果に終わったが、バーレーンでは好転した。
バーレーンでの最終テストでは、目立たないながらも大規模なアップデートを持ち込み、マシンは大幅に速くなったようだ。しかしアルピーヌは速いラップタイムを出そうとしなかったため、このマシンについて多くの結論を引き出すことは難しい。
■マクラーレンMCL36:ブレーキに苦しみ、開幕戦に懸念
バルセロナでのマクラーレンは非常に強力に見えたし、他チームとは異なり、ポーパシングの影響もさほど受けていなかった。そのためバーレーンでも強さを発揮することが期待されたが、ブレーキシステムに大きな問題が発生した。チームはその問題をテスト中に解決することができず、開幕に向けてマシンの状態が整うのかどうかも不明だ。決勝では完走できないのではないかという予想もなされている。
■アストンマーティンAMR22:今年も上位浮上は困難か
今シーズンは中団から脱却することを目指しているアストンマーティンだが、プレシーズンテストでは毎日のように、マシンが深刻な問題に見舞われていた。バーレーンテスト終盤に向けて良くなっていったが、目立った改善ではなかった。
ニューマシン発表会ではチームは大きな希望を抱いていた。しかしバーレーンテストの時点では、今季も入賞圏内下位を争うことになりそうな印象だった。
■アルファタウリAT03:時折速さを見せるが読めない存在
アルファタウリは、プレシーズンテストの間、ほとんど目立たない存在だった。AT03は優秀に見えるし、時にはかなり速そうだった。だが、どの点から見ても、特に目を見張るようなものを見せてはいない。ポーパシングが出ていたが、他のチームと比較して、最もひどいレベルではなく、最も良い状態というわけでもなかった。そのあたりが、このチームの状況を表しているといえるかもしれない。
■ハースVF-22:序盤から入賞も可能
ハースに驚かされたのは、ドライバー選択だけでなく、VF-22が非常に速いことだ。とはいえそれは予想外と言うべきではないだろう。ハースには、メルセデスやレッドブルよりはるかに多くの風洞使用時間が許されていた。それがうまく生かされたと見ていい。
ハースは、昨年彼らよりも強力だった多数のチームよりも、かなり複雑なマシンを作ってきたようだ。ただ、実際にマシンがどれぐらい強力なのかを予想するのは難しい。やや複雑すぎる部分があるかもしれないし、信頼性の問題を抱えているようだ。それでも最初の数戦でこのマシンがポイントを獲得しても、ショックを受けることはないだろう。
■アルファロメオC42:最軽量もトラブル多発
最低重量として当初定められた795kgに近づけることができたのはアルファロメオだけだったと言われる(注:その後、最低重量は798kgに引き上げられた)。ただ、彼らは信頼性の面で問題を抱えていた。今年からギヤボックスを自社で設計・製造すると決めたことが大きく影響しており、テスト中に何度も故障が起きていた。
トラブルに見舞われずに走れれば、このマシンはかなりの速さを発揮するように思われる。テストのデータだけでは、このマシンの真のペースは測れないと思う。
■ウイリアムズFW44:ポーパシングの解決法を見出せず
FW44は何かがうまくいっていない。全体的に良さそうに見えるが、小さな信頼性のトラブルが多数発生していた。
さらに問題なのは、あらゆる速度域で、ポーパシングに苦しめられていたことだ。チームはこれに対する解決法を見出していないようだった。2022年開幕戦は名門ウイリアムズにとって難しいものになるかもしれない。
■多くのバトルが期待できる2022年シーズン
もちろん、ここまで書いた結論は、エンジンモードや燃料搭載量など、いくつかの重要なデータを考慮に入れずに導き出したものだ。
またタイヤの摩耗についても評価していない。マシンがピレリの新タイヤをうまく機能させられるかどうかは、非常に重要なポイントになる。
ちなみにホイールとタイヤが大型化し、重量が大幅に増えたことで、ピットストップ作業が以前より難しくなり、今までよりも時間がかかるようになると予想されている。
個々のマシンのパフォーマンスは読みづらいものの、テストからひとつ確実になったのは、他のマシンを追走することが以前よりたやすくなったということだ。F1ではダーティエアがもはや問題ではなくなったようだ。テスト中、多数のドライバーたちが前のマシンに接近してみて、「去年よりもはるかについていきやすくなった」とコメントしている。そのため、バーレーンGPではたくさんのバトルが見られると期待してよさそうだ。