トラック・バス用タイヤのことを業界ではTBタイヤなんて言いますが、現役タイヤマンのハマダユキオさんは、主にこのTBタイヤのサービスが専門です。
今回はそんなハマダさんにスタッドレスタイヤの「履き潰し」について解説してもらいました。トラックでは一般的な履き潰しですが、乗用車でもOK。これさえ守れば安全で経済的な履き潰しができます。
文・写真/トラックマガジン「フルロード」、ハマダユキオ
スタッドレスタイヤの履き潰しとは?
春です。降雪や凍結も無くなって来たらスタッドレスタイヤから夏タイヤへの履き替えシーズン到来です。
ただ夏タイヤからスタッドレスへの履き替えに比べ、そんなに集中しないのがスタッドレスから夏タイヤへの履き替えですね。
地場(南関東)しか走らない車両から始まり北国や山奥に行く車両まではかなりのタイムラグがあります。
また履き替えシーズンと言っても履き替えをしない場合もあります。それが「履き潰し」です。
タイヤ関係、クルマ関係に疎い友人にマイカーの履き替えで履き潰しを提案したら「履き潰し」のワードがなんか怖いと言われましたが大丈夫です。全く怖くないんでご安心を。
履き潰しを実施する3つのパターン
履き潰しを実施するには幾つかの理由がございまして、その一つが「使用年」です。
スタッドレスタイヤのゴムは柔らかさが命。特に氷上性能はゴムの柔らかさの違いが性能に直結しますので、ある程度の年数を使用したら残溝に関わらず履き潰す方法があります。たいていは2~3年でしょうか?
もちろん残溝との兼ね合いもありますが、凍結路での走破性を重視して来シーズンは新品のスタッドレスタイヤを購入する予定で、それまで夏タイヤとして使用するパターンです。
もう一つは通年スタッドレスタイヤを装着する場合。
一年を通して夏タイヤを履くことは無く、冬の履き替え時に毎年新品スタッドレスタイヤを装着。一番性能を発揮してもらう時期に新品を装着し、その後は履き替えせずに夏も続投するパターンですね。
そしてもう一つは「プラットホーム露出」です。
これはスタッドレスタイヤとして使用できる残溝50%摩耗した時点で現れるインジケーターです。
通常の夏タイヤにあるスリップサインのようなモノで、スリップサインはタイヤサイド部分にある▲マークの延長上にインジケーターがあります。
その高さとトレッドの山の高さが同じ(繋がる)になると残溝が1.6mmなので、車検にパスできなかったり整備不良となるため、タイヤ交換の目途になるワケですね。
これと同じようにスタッドレスタイヤを冬用として使えるか使えないかの判断基準がプラットホームです。
スリップサインは▲でしたが、プラットホームは↑がマークとなります。
そしてこのプラットホームとトレッドのブロックの高さが同じになると、残溝は新品時から50%摩耗したことになるため、冬タイヤとしては使用不可となります。
この使用不可の理由としては、各都道府県が出している冬タイヤ使用に関する法律がバラバラではあるものの、多くの場所で残溝が50%以下は使用不可となっているからなんですね。
スタッドレスタイヤに求められる性能は積雪、凍結路での路面への食い付きですね。積雪の新雪等の場合は溝の深さが大事な要素であり、凍結路等はゴムの柔らかさが重要になります。
積雪路での駆動力や旋回力が必要な場合はタイヤで雪を踏んで溝で雪の柱を固めてつくるイメージです。その柱に駆動力や旋回力が掛けられクルマは進むことができます。
溝が十分深い状態ですと踏み固めてできる柱もしっかりしたモノが形成され、駆動力、旋回力、そして制動力も路面に伝わりやすくなります。
当然、タイヤがすり減ってくれば溝の深さも無くなり積雪路での駆動力は低下します。それをわかりやすくルール化したのがプラットホーム露出です。
ルールでダメだけではなく実際に性能は低下しているので、スタッドレスタイヤで残溝が新品から半分になったら夏タイヤとして再びスタッドレスシーズンまで使用することをお勧めします。
見た目の判断がむずかしいゴムの硬化
また性能低下の観点ではゴムの硬化もあります。
溝の深さは雪道での駆動力確保ですが、特に氷雪系スタッドレスは凍結路面での路面とタイヤとの間の水膜除去と凸凹の路面への密着度が肝となります。
まずは水膜除去ですが、凍結路でタイヤがスリップするメカニズムは、タイヤと氷の間に水の幕ができ、わかりやすく言えば路面に対してタイヤが浮いているから……。
これを各タイヤメーカー様が知恵を絞り、現代の最高の製造技術で作り上げたのがスタッドレスタイヤの特殊なゴムだったり、独特のパターン(模様)だったりするワケです。
で、この水膜除去するスタッドレスのトレッド部分のゴムも、路面に接地する部分は最大に接触させて路面とのコンタクトを取りたいもの。
そこで必要なのはゴムの柔らかさです。
タイヤは荷重を受け走行を始めた瞬間から、わずかずつですが劣化が進行していきます。
1シーズンくらいでは酷く劣化することはあまり考えられませんが、2、3シーズンを超えた辺りから劣化による硬化が進行してきます。
硬化が進行すると路面に対するタイヤの密着度が下がり、水膜を除去してタイヤが路面と密着している面積も減りますから、氷上性能も低下します。
このゴムの硬化は基準となるインジケーターがあるわけではなく、見た目での判断材料等も無いに等しいので、ここもやはり残溝50%での冬タイヤとしての使用限度とした方が冬タイヤの性能としての観点から履き潰しをお勧めします。
性能重視のスタッドレスタイヤ。一番効いて欲しい時期に冬タイヤとしての性能を充分に発揮できるように上手に履き替え、履き潰しをして安全運行を!
投稿 冬タイヤから履き替える? 履き替えない? 安全で経済的なスタッドレスタイヤの履き潰しのススメ は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。