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三歩進んで二歩下がる…? なぜ普及進まないサイドミラーのデジタル化と進化の足跡

 フェンダーミラーからドアミラー・ウィンカーミラーへ進化し、近年では、カメラとディスプレイを用いて後側方の状況を確認するデジタル(電子)サイドミラーが登場するなど、技術やクルマの進化とともに日々進化する、クルマのサイドミラー。

 デジタルサイドミラーは、2018年にレクサスESで初めて実用化され、電気自動車のアウデイ「e-tron」やホンダ「ホンダe」でも採用されていますが、現時点あまり普及は進んでいません。サイドミラーの歴史を振り返りながら、最新のデジタルサイドミラーの将来性について考察します。

文:Mr.ソラン、エムスリープロダクション
写真: TOYOTA、NISSAN、HONDA、写真AC

【画像ギャラリー】フェンダーミラーから、デジタルサイドミラーまで!! かたちを変えていくクルマのサイドミラー(20枚)画像ギャラリー

ドアミラー規制撤廃によってフェンダーミラーが消滅

 クルマの後側方を確認するサイドミラーとしては、現在はほとんどのクルマがドアミラーを採用していますが、1980年以前の日本のクルマでは、「フェンダーミラー」が採用されていました。当時米国や欧州では、デザイン性に優れたドアミラーがすでに採用されていましたが、日本では1983年にドアミラー規制が撤廃されるまでは、ドアミラーは法的に採用できなかったのです。

 日本政府が長くドアミラーを認めなかった理由は、フェンダーミラーの方が視認性に優れ、安全と考えていたから。ドライバーから離れた位置にあるフェンダーミラーは、ドライバーの目線移動が少ないため疲れにくい、後方視野が広く死角が少ない、またドアミラーより車幅を抑えられるといったメリットを重視していたのです。

 とはいうものの、すでにドアミラーが一般化していたクルマを日本へ輸出したい欧米メーカーからの不満は大きく、国内でもデザイン性に欠けるフェンダーミラーでは国際競争力が低下するとの声も上がっていたことから、1983年3月、ドアミラー規制は撤廃されました。

1983年以前のクルマは、フェンダーにミラーが固定されているフェンダーミラーを装備(PHOTO:写真AC_AQOS_ぽん太)

進化するドアミラー

 ドアミラーの最大のメリットは、デザイン性に優れ、対人事故の際の安全性が高いこと。このドアミラーを日本で最初に採用したのは、解禁の2か月後の1983年5月にマイナーチェンジした日産パルサーエクサでした。以降、ドアミラーは急速に普及、ドアミラーに一気に置き換わることになります。ただし、タクシーなど一部のクルマでは、前述のメリットを優先して、今でもフェンダーミラーを採用しています。

 1984年には、ミラーを電動で格納できる電動格納式ドアミラーが登場。日産の5代目ローレルで初めて採用されると、瞬く間に世界中に普及していきました。

 さらに1998年には、メルセデスベンツSクラス(W220型)が、世界で初めてウィンカー内蔵式のウィンカードアミラーを採用。ウィンカーミラーは、方向指示の視認性が高まるほか、見た目がスマートで高級感が増すという効果があります。国産車で初めて採用したのは、2001年にデビューした日産の4代目シーマ。以降普及が進み、今では軽自動車にも採用されています。

 近年では、広い範囲が見れるような凹面鏡やワイドビューミラー、雨でも見やすい親水ミラーやヒーターを埋め込んだミラーデフォッガーなども登場しています。

1984年、日本で初めて電動格納式ドアミラーを採用した日産の5代目「ローレル」。高級車から採用が始まり、現在軽自動車でも装備されている

デジタルサイドミラーの普及には、まだ時間が必要

 2016年の道路運送車両の保安基準が改定によって、日本でも解禁となったデジタルサイドミラー。冒頭でふれたように、最初に採用したのは、2018年10月に登場した7代目レクサスES。量産車では世界初でした。その後、電気自動車のアウデイ「e-tron」や、ホンダ「ホンダe」でも採用されました。

 デジタルサイドミラーの機構は、バックモニターやデジタルルームミラーと同じ。広角CMOSカメラによって後側方を撮影し、ECUで映像を画像処理して室内のモニターに映し出します。大きなドアミラーを小さなカメラに代えることによって、空気抵抗が改善し、デザインの自由度も向上するほか、次のようなメリットもあります。

・ドアミラーより、視野範囲が2倍程度拡大、画像が明るいので夜間の視認性も向上
・カメラユニットがコンパクトになるため、死角と風切り音が低減
・モニターが室内にあるので、左右の目線の移動量が小さい
・水滴が付着しにくい構造で、またヒーターが装備されているので雨などの気候変動に強い
・高速走行時や左折・右折時、後退時など運転条件に連動して、視野範囲やズーム機能など自動制御が可能

 一方で、システムコストが現行ドアミラーの約10倍と高いことからまだ普及に至るレベルではなく、他にも次のような課題もあります。

・小さな部分まで鮮明に映るため、通常の光学ミラーに比べて距離感やスピード感が把握しづらい
・条件によっては、LEDフリッカーと呼ばれる映像のちらつきが発生
・モニターを設置する場所の確保。レクサスESは、Aピラー下部に設置したため、後付け感が強く不評

 基本的には優れた映像機能を持つデジタルサイドミラーですが、コストパーフォーマンスの観点からはまだ不十分、高級車では使えても、一般的に普及するにはもう少し時間がかかりそうです。

2018年、世界で初めてデジタルサイドミラーを採用した「レクサスES」。モニター画面のちらつきやモニター位置について、一部に不評の声があった

運転支援や自動運転との連携次第では、急速に普及も

 デジタルサイドミラーは、優れた映像機能の他、クルマの後側方の情報をデジタル化できることが大きなメリット。高度な運転支援技術や自動運転のための有効な環境センサーとして活用することができます。例えば、周辺車両や歩行者、白線の検知による衝突回避機能や車線維持機能との連携したり、360°サラウンドビューカメラと組み合わせることで、自動運転に必要な周辺状況の認識にも使えます。

 しかし、運転支援や自動運転にとって、デジタルサイドミラーが必須デバイスであるかどうかは不透明。現行の自動運転レベル2クラスでは、複数のカメラやレーダーが搭載されており、デジタルサイドミラーの代用は可能なので、不要となる恐れがあります。

 また、最近日産などが採用しているスマート・ルームミラーでは、リアガラス内部にカメラを装着して、ルームミラーにその映像を映し出します。後席の乗員や荷物に遮られることなく、画像とそのデジタル情報が得られるので、視覚範囲と精度が十分であれば、デジタルサイドミラーの代用が可能となってしまいます。

 このように、デジタルサイドミラーが将来的に生き残れるかは不透明ですが、普及のためには、まずは低コスト化が最優先課題でしょう。

2020年にデビューした電気自動車「ホンダe」。画像モニターは、レクサスESよりも違和感なく、インパネにうまく収めている

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 運転支援や自動運転の開発によって、カメラやレーダーなどのセンシング技術が急速に進化しています。場合によっては、デジタルサイドミラーを含めたサイドミラーそのものが、クルマには不要となることも考えられます。便利さを追求して、少しずつクルマの形態が変わっていくことには、寂しさも感じますが、この先どうクルマが変わっていくのかも楽しみ。さらなる技術の進化を期待しています。

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