世はオラオラグリル全盛だが、その一方で、このところグリルレスのクルマが増えている。それらは、テスラモデル3に代表されるように、すべてEVだ。EVはフロントから空気を取り入れてラジエターを冷やす必要がない。バッテリーを冷やす必要はあるが、エンジンほどの熱は発しないし、搭載位置が床下なので、大きなフロントグリル(空気取り入れ口)は無意味。空気抵抗でしかない。
しかしEVでも、グリル風の装飾を残すクルマは非常に多い。日産アリアやbz4X、メルセデスEQシリーズ、BMW iX……数えればキリがない。
いま全世界で一番売れているEVはテスラモデル3で、前述のようにグリルレスだが、モデル3はデザインの魅力で売れているわけでなく、革新的なインターフェイスや独自の充電ネットワーク、そしてなによりコストパフォーマンスの高さが要因だ。どちらかというとデザインは平凡で、逆にグリルレスであることが最大の特徴になっている。
とにかく、テスラモデル3を除いて、世はオラオラグリル全盛であり、EVですらグリルの呪縛にハマったままだ。いったいなぜなのか?
そこで、歴代国産車のグリルレスに分類されるクルマたちの写真を見ていこう。エンジンがフロントにないリアエンジン車やミドシップ車、ボンネットの低いリトラクタブルヘッドライト採用車は除いた。
文/清水草一
写真/日産、ホンダ、マツダ、トヨタ、テスラ
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■日産車のグリルレス車はどれも売れていない!?
●インフィニティQ45
まずは日産勢から。日本を代表する(?)グリルレス車だ。グリルの代わりに七宝焼きをフロント中央に埋め込んで「和」を表現したが、ごく普通のグリルを持つセルシオに大敗した。グリルレスの高級セダンは「早すぎた」のか「もともとダメだった」のか……。グリルレスの失敗例の象徴である。
●初代プレセア
カリーナEDの対抗馬だったが、グリルレスを含め優しい女性的なイメージで、通俗的なカッコよさは表現できなかった。2代目はサニーの姉妹車となり、小さなグリルが付いた。
●NXクーペ
「ウナギイヌ」の異名を取り、代表的なカッコ悪いクルマの一台とされる。
●Be-1
レトロデザインで成功。グリルレスより、レトロデザインの走りとして歴史に残る。
●初代リーフ
世界で2番目の量産EVとしてグリルレスで登場したが、思ったほどの結果は残せなかった。EVのデザインとしては可もなく不可もなし。2代目はグリルのようなフロントパネルを装着し、だいぶ落ち着いて見えるようになった。
日産はインフィニティQ45に代表されるグリルレス王国(?)だが、成功といえるのはBe-1くらいという結果に終わっている。
続いてホンダだ。
■グリルレスのワンダーシビックの美しさが光る
シビック3代目(ワンダーシビック)、4代目(グランドシビック)、5代目(スポーツシビック)と、インテグラ2代目、3代目。すべて非常に低いボンネット先端部を持ち、ラジエターの空気取り入れ口をバンパー下に集約したグリルレス車だが、どれもシンプルかつスタイリッシュで、ホンダらしく権威を捨てたチャレンジスピリットを表現することに成功していた。特にワンダーシビックの美しさは、今見てもホレボレする。
が、1990年代後半に入ると、同じデザイン手法は通用しなくなり、ホンダからもグリルレス車が消えていった。それをある意味復活させたのが現行フィットだ。バンパーより上の空気取り入れ口はかなり小さく、かつてのワンダーシビックを髣髴とさせたが、予想外の販売不振に喘いでいる。やっぱりグリルがないとダメなのか?
■デザインは決して悪くはなかったマツダランティス
マツダ系のスタイリッシュなデザインで、狙いは「脱権威」「スポーティ」「カジュアル」といったあたりにあったが、販売的には失敗に終わった。デザインは決して悪くなかったが、アピールできなかった。
■トヨタは意外に少ない。3代目ソアラと4代目、5代目のスープラ
トヨタは3代目ソアラ、スープラ4代目(A80型)、現行5代目。主に北米向けのスポーツカーで、全体を北米好みの濃厚味に仕立ててある。どれも北米では成功したが、3代目ソアラは日本では大不評に終わった。一方、スープラはまずまずだった。
こうして見ると、グリルレスで成功したのは、レトロデザインのBe-1を除くと、すべてスポーティカーあるいはスポーツカーであることがわかる。ボンネットのフロントエンドを低くすることで、空気の下に潜り込むようなイメージのスポーティなグリルレス車ならば、成功する可能性はあるが、そうでなければほぼ失敗に終わっている。
ただ、範囲をリアエンジン車に広げると、スバル360やマツダR360クーペのような傑作が現れる。エンジンが後ろにあるのだから、フロントグリルはないのは当然で、フロント形状は自動的に先端が低くなる。つまり、そうでなければグリルレスは不自然な形状に見えてしまうということだ。
輸入車でも、RRの元祖ビートルやポルシェ911が大成功だったのは言うまでもない。フィアットのヌオーバ500も成功した。
元祖ビートルをモチーフにしたニュービートルや、現行フィアット500はともにFFだが、元祖をモチーフにしているため、どちらもグリルレスで成功した。しかしこれらはレトロカーであり、純粋な「グリルレスの成功例」とは言えない。
■奇跡的にグリルレスに成功したテスラモデル3
こうして考えていくと、テスラモデル3が成功しているのは、ある意味奇跡的な出来事のようにも思える。テスラでも、モデルSとモデルXは薄いグリル風の装飾を持っているが、モデル3は、いかにもグリルがハマりそうなフロント部に一切なんの装飾も付けず、そのまま一続きのボディにすることで、絶妙な違和感を演出している。
それはまるで、ピッタリしたボディスーツを着ているかのようで、逆に人の視線を引き付け、EVであることをアピールしているのだ。モデルY、サイバートラックも同様である(新型ロードスターはスーパーカー系なので、デザイン条件が異なる)。
テスラだけがグリルレスの呪い(?)を無視し、成功を手にしていると言えるのではないか。逆に既存の自動車メーカーは、EVでもグリルの呪縛から逃れられていない。
ただトヨタは、2021年12月のEV大お披露目会見で、レクサスの新型EVのコンセプトモデルを4台見せた。それらはすべて、スピンドルグリル風のフロントフェイスを持ちながら、あるべきところにグリルのない「スピンドルボディ」を採用しており、レクサスらしさとグリルレスの斬新さを併せ持っていた。
デザインでEVの未来を占うことはできないが、今後、レクサスがEV業界でテスラに挑戦状を叩きつける一番手になるのかも……という、ぼんやりとした期待は抱かせてくれた。
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