アメリカ・テキサス州オースティンに位置する北米最新のF1トラック、サーキット・オブ・ジ・アメリカズ(COTA)で開催された2022年のNASCARカップシリーズ第6戦『エコーパーク・オートモーティブ・グランプリ』は、ここまで2戦連続2位入賞を果たし“台風の目”として躍進するロス・チャスティン(トラックハウス・レーシングチーム/シボレー・カマロ)が、幾度もリーダーが入れ替わった最終周の“カオティック・バトル”を制し、ついにカップシリーズ初優勝を手に入れた。
引き続き併催のNASCARエクスフィニティやキャンピング・ワールド・トラックに加え、北米が誇るトランザム・シリーズとも同時開催されたカップシリーズ第6戦は、今季初、そして2022年より導入の新車両規定“Next-Gen”にとっても初となるロードコースでの争いとなった。
そんなロード用セットをいち早くモノにしたのが、なんと今季カップ初挑戦の新興チームトラックハウス・レーシングチームで、99号車ダニエル・スアレス(シボレー・カマロ)は公式練習でもカイル・ブッシュ(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)に次ぐ2番手タイムを計時すると、予選でも最前列を争う速さを披露。
最終的にライアン・ブレイニー(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)にポールポジションこそ譲ったものの、2022年序盤戦の流れをリードする小規模チームの勢いを感じさせた。
迎えた決勝でも今季2度目、自身初のCOTA最前列から発進したブレイニーを出し抜き、序盤の15周を完全に支配下に置いたスアレスは、そのままステージ1を制覇してチームに2度目の勝利をもたらす快走を見せる。しかしステージ2開始早々にコリー・ラジョイ(スパイアー・モータースポーツ/シボレー・カマロ)にヒットされ、失意の24位フィニッシュに終わってしまう。
代わってレースの主役を演じたのがその僚友チャスティンで、1号車のシボレー・カマロZL1は後半戦だけでこの日最高のリードラップとなる31周を記録していく。残り20周を前にダレル“バッバ”ウォレスJr.(23XIレーシング/トヨタ・カムリ)が左リヤホイールを飛ばしたのを皮切りに、ラスト10周から2度のコーションが発生。
カイル・ラーソン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)、ジョーイ・ロガーノ(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)、そしてカート・ブッシュ(23XIレーシング/トヨタ・カムリ)らが起因となった最後のイエローが明けると、タイラー・レディック(リチャード・チルドレス・レーシング/シボレー・カマロ)を先頭に残り3周のファイナルバトルが幕を開ける。
するとセクター1のS字区間でチャスティンが仕掛け、まずはリードを奪還。その背後からは大ベテランのA.J.アルメンディンガー(カウリグ・レーシング/シボレー・カマロ)が追随してくる。
そのままホワイトフラッグが振られファイナルラップに突入すると、3番手浮上のアレックス・ボウマン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)も交えた三つ巴の勝負が展開され、バックストレートを駆け降りた3台はテール・トゥ・ノーズで最終セクターへ。
■激闘の末、参戦121戦目にして初のカップ戦勝利
防戦一方の首位チャスティンを突いたアルメンディンガーが、ターン15で前へ出ると、続く右コーナーでボウマンが一気に前を狙う。しかし左切り返しのターン19で、インサイドからのブレーキングバトルを仕掛けたチャスティンがクリッピングを抑えると、弾き出されたアルメンディンガーとアウト側レコードライン上のボウマンが衝突。
2台に挟まれた形のアルメンディンガーはたまらずスピンオフし、ボウマンはランオフに逃れながらもなんとか2番手でコース復帰を果たし、そのままチェッカー。チャスティンが参戦121戦目にして初のカップ戦勝利を手にし、チームにも同様のプレゼントを贈る結果となった。
「本当に正気の沙汰じゃないよ! A.J.のような最高のドライバーのひとりに立ち向かうため──もちろん、彼は腹を立てていると思うけど、僕らはともに激しくレースを戦った。そして彼は僕に借しがひとつできた、ってことさ。カップ戦で勝とうと思えば、勝負から引くことなんてできないんだ」と語った勝者チャスティン。
「もちろん、この(衝突の)結末を頭の中に描いていたわけじゃないけれど、僕は自分がすべきことをしただけだ。僕自身、今でも自分の判断を支持したいと思う」
一方、最終ラップの接触で33位に終わったアルメンディンガーは「1日の終わりには、僕らは皆、鏡で自分自身を見て『OK、今日も大丈夫だった』と言わなくちゃならない」と、ベテランらしい大人の応対でレースを振り返った。
「人それぞれ、誰もが違っている。そして僕はこのカウリグ・レーシングを誇りに思っている。今日のシェビー(カマロ)はとても速かったし、長い目で見れば誰も僕らに触れないだろうね」と続けたアルメンディンガー。
「さっきも言ったように、1日の終わりには、ひとりひとりが快適に行動する必要があり、それは問題ない。カップシリーズで勝つことは本当に難しいが、今日の僕らはそのショットを持っていて、それはかなり素晴らしい日だった。残念ながら、僕らにはあとふたつのコーナーが必要だったね」
2位ボウマンの背後にはクリストファー・ベル(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)が3位で続き、4位にチェイス・エリオット(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)、5位レディックのトップ5に。
一方、NASCARエクスフィニティ・シリーズの第6戦はそのアルメンディンガーが今季初勝利を飾り、NASCARキャンピング・ワールド・トラック・シリーズ第4戦はわずか11周のリードラップながら、ステージ1、ステージ2、そして最後の2周で先頭走者に躍り出たゼイン・スミス(フロントロウ・モータースポーツ/フォード・F-150)が完勝。服部茂章が率いるハットリ・レーシング・エンタープライズ(HRE)は、16号車のタイラー・アンクラムが接戦の末7位フィニッシュ、61号車チェイス・パーディはスピンを喫しながらも16位となっている。