桜が咲く季節が到来! まだ地方によっては、残雪が残っているかもしれないが、スタッドレスタイヤから夏タイヤへ交換する時期がやってきた。
そこで、外したスタッドレスタイヤの正しい保管方法はどうすればいいのか? また外したスタッドレスタイヤは来シーズンも使えるのか、寿命のチェック方法をお伝えしていきたい。
文/高根 英幸
写真/Adobe Stock(メイン写真=sojyun@Adobe Stock)
※記事中・画像ギャラリーの写真はすべてイメージです。
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■スタッドレスの方が夏タイヤより寿命は短い
夏タイヤはゴム硬度が高く、ブロック剛性も高いからスタッドレスに比べて耐久性が高い。
通常の使い方なら、夏タイヤは摩耗限界より前に劣化による寿命に到達してしまうことはほとんどないが、スタッドレスタイヤは、保管している内に劣化して、摩耗限界よりも機能の低下(主に氷雪性能)により、買い替えを余儀なくなれるケースが珍しくない。
しかも首都圏以西のドライバーであれば、一般的には夏タイヤよりもスタッドレスタイヤの方が使用頻度は少なく、走行距離も短めになる。
まだ十分に残り溝があるのに、買い替えなくてはならないのはドライバーとしては痛い出費だし、資源としても勿体ない。
そういった事態を防ぐには丁寧な走行を心がけるのと、シーズンオフの間の保管の仕方が重要だ。
■タイヤの仕組みや特性を知ることも大事
タイヤの原料には、20種類を超える素材が使われている。
内部の構造材であるカーカスにはナイロンが、スチールベルト、ビードには鋼鉄製のワイヤーが使われているが、表面や内側を覆い、トレッド面で路面と摩擦しているのはゴムだ。
このゴムも石油から作られる合成ゴムとゴムの木の樹液から作られる天然ゴムを配合して、さらにポリマーやシリカ、カーボンブラック、硫黄、オイルなどを添加して混錬することによりコンパウンドが完成する。
これをカーカスを覆ったタイヤのベースに貼り、金型に入れて加硫(加熱して硫黄により弾性化させる)ことでタイヤが出来上がる。
特に極低温でも柔軟さを維持しながら、ドライ路面の高速走行までカバーするスタッドレスタイヤのコンパウンドは、実に様々な工夫が施されている。
特に国産スタッドレスはゴムの劣化防止に様々な劣化防止剤を配合しているが、アジアンタイヤの中には柔軟さを確保するためにオイルを増やし、劣化防止剤はコスト削減のために省いているブランドもあるようだ。
ある程度の価格となる国産スタッドレスはより長持ちさせるために、格安なアジアンブランドのスタッドレスは性能の低下を抑えるために、シーズンオフの間の保管が大事なのだ。
ゴムという素材は不思議な特性を持っていて、運動している方が柔軟さを保つことができる。
使っていないと劣化による硬化が始まり、やがてタイヤの溝やサイドウォールに細かいヒビが入るようになってしまう。こうなるとスタッドレスとしての性能は大幅にダウンしてしまうことになる。
■来シーズンも使うための保管方法
夏タイヤに履き替えて、スタッドレスタイヤのホイールセットが車体から外されたら、まずは隅々まで洗おう。
ホイールはブレーキダストで汚れていたらカーシャンプーやクリーナーを使って落とし、タイヤは基本水洗いで泥や砂、埃などを落とし、カーシャンプーを使ったらよく洗い流す。これによりタイヤとホイールの点検も兼ねることができる。
タイヤに釘などの異物が刺さっていないか、ホイール内側のサイドウォールにも傷など異常がないか、ホイールも傷やクラック、歪みなどがないか点検しよう。
釘が刺さっていたら外からプラグを差し込むタイプのパンク修理でいいので、釘を抜いてパンク修理しておいた方がいい。水分の侵入などでスチールベルトが腐食すると、走行中にバーストする危険性が高まる。
洗ったら、乾かして水分を無くしてからゴミ袋などの大きなビニール袋に入れて、日陰の涼しい場所に保管しよう。
また保管時には、タイヤの空気圧を下げることも大事なことだ。
クルマを支える必要がないので空気圧を高めておく必要はなく、むしろ空気圧を下げることでタイヤの構造材にかかるテンションを和らげて、負担を軽減することになる。
ただし、空気を抜き過ぎると変形しやすくなって、後で再び履き替えても空気圧を高めても、しばらくは走行中に振動が出る恐れもある。目安は指定空気圧の半分ほどだ。
それと油分によりゴムが溶け出して変質して劣化するため、油性のタイヤワックスを塗ったままの保管もお勧めできない。水性でもタイヤワックスは美観のためのもので、タイヤの保護には役に立っていない。
また水に濡らしたり、湿気の多い場所も厳禁だ。水分により加水分解することもあり、さらに温度が高ければ、これらの反応はさらに活発になって劣化が早まってしまう。
紫外線があたったり、温度が上昇する日光があたる場所や、オゾンを発生させるエアコン室外機のそばに保管するのも避けたい。
ゴムは分子同士がつながる「架橋結合」となっているため、紫外線やオゾンといった刺激により分子同士のつながりが断ち切られてしまうと、やはり表面がヒビ割れてやがてボロボロになってしまうのだ。
樹脂パイプ製のタイヤラックも効率良く収納するためには便利なアイテムだが、それは保管の環境を改善するというより、本来スペースが十分ではないところに置けるようにするために使われるケースの方が多い。
自宅の収納スペースの関係上、そんなに環境の良い保管場所は確保できない、というケースも当然あるだろう。
コンテナのレンタル収納スペースは便利だが、夏場は内部が高温になってしまうので、スタッドレスタイヤの保管スペースとしては正直に言って適してはいない。
カー用品店やタイヤ専門店では、スタッドレスタイヤの保管サービスを行なっているところも多いが、そこでスタッドレスを購入する必要があるし、保管料もそれなり(5000円~2万円/年間)にかかる。
自分にとって、何がベストか悩むドライバーも多いのではないだろうか。
■スタッドレスタイヤの寿命の見分け方
前述の通り、国産スタッドレスであれば劣化防止剤などを添加することで、経年劣化を出来る限り低く抑え込んでいる。
高温下で保管することで長期間の保管を再現した耐久テストでは、5年程度経過した状態でも1割程度のグリップ力低下に抑え込んでいることが確認できた。
それでも実際の5年目のスタッドレスでは、さらに劣化が進んでしまうケースも考えられるし、摩耗によるサイプの短縮により氷雪路でのグリップは低下していくハズだ。
また見た目に表面がヒビ割れていないから大丈夫、という訳ではない。
ゴムの硬化とヒビ割れはどちらも劣化だが、同時に起こるとは限らない。細かいヒビ割れが発生していれば間違いなく劣化しているが、ヒビ割れていなくてもゴムが硬化している可能性はある。
硬化しているかどうかは、硬度計を使って測るのが一番よく分かる。タイヤ専門店などで測ってもらい、ゴムの劣化を判断するといい。
その状態でクルマに装着しても走ることはできるが、ロードノイズが大きくなったり、グリップ力の低下という形でタイヤ性能の劣化を感じることになるだろう。
ともあれどんなタイヤでも新品時の性能をいつまでも維持できる訳はないから、考え方を変える必要がある。寿命の短いスタッドレスタイヤであればなおさらだ。
とにかく圧雪路や凍った路面で滑るのが嫌なら、しっかりと雪が降った翌日は金属製のタイヤチェーンを4輪に装着するのも手だ。
スタッドレスはあくまでドライな路面での快適性を維持しながら低温下での、氷雪路でのグリップ力を引き出すべく工夫されたタイヤであり、絶対的な走破性はタイヤチェーン、それも金属チェーンには敵わない。
タイヤチェーンを脱着するのが面倒、というのであればより早いサイクルでスタッドレスを新品に履き替えるしかない。
■最新のスタッドレスタイヤを2~3年で買い替えることで安心を買える
そういう意味では2~3年で安いスタッドレスを買い替えるのも1つの方法ではあるが、そういう使い方では問題が2つある。
1つはタイヤ交換工賃がその分だけ掛かるので、意外と節約にはならないことだ。古いスタッドレスの処分費用も含めると、1台分のタイヤ交換工賃は1万円以上にはなる。
残るもう1つの問題は、廃棄されるスタッドレスタイヤも増える、ということだ。
まだ使えるスタッドレスであれば中古タイヤとして流通することも考えられる(それを購入して履こうというのはお勧めしない)が、最終的にはタイヤは燃料やコンクリートの原料として燃やされるのが大半だから、出来る限り廃棄されるタイヤを減らしたいものだ。
またタイヤ業界全体の取り組みとして、理想としてはスタッドレスタイヤにはしっかりとした構造を与えて、トラックの更生タイヤのようにトレッドゴムを何度か貼り替えて使えるようにするべきではないだろうか。
高い高速性能を求めず、トレッドゴムの劣化により交換を余儀なくされるのであれば、その方が合理的だ。
話を現実のスタッドレスタイヤに戻そう。劣化したスタッドレスタイヤでもタイヤチェーンを組み合せれば、氷雪路での性能は確保できる。これによって実質的にスタッドレスタイヤの使用年数を延ばすことも可能だ。ただしチェーン脱着の手間は覚悟しなければならない。
結局のところスタッドレスタイヤにどれだけ費用をかけるか、というのは自動車保険と同じようなものだ。
絶対の安心感を得たいのであれば、最新のスタッドレスタイヤを2~3年で買い替えることを続け、金属タイヤチェーンも併用すれば完璧だ。
摩耗限界まで使えることは、ほとんどないだろう。ちなみにスタッドレスタイヤには2段階の摩耗限界を知らせるインジケーターが備わっている。
1つは夏タイヤにも備わるウエアインジケーター、通称「スリップサイン」と呼ばれるブロックの境目が無くなる盛り上がった部分だ。
これは残り溝1.6mm以下になると現れるもので、車検に合格できなくなるだけでなく、走行中にも取り締まりを受けて整備不良で検挙される可能性もある。それに何よりウエット性能が大きく低下しており、雨の日の走行は危険だ。
もう1つが「プラットフォーム」と呼ばれるもの。これはサイドウォールのホイールに近い内側に4箇所、刻まれる矢印が目印で、その部分のトレッド面にノコギリ状の短い突起がブロックの間を走っているハズだ。
これは残り溝が50%以下になると現れるもので、冬タイヤとしての使用限界を示すサインだ。
プラットフォームが現れてからも、夏タイヤの代用として公道を走ることはできるが、グリップ性能などは夏タイヤに及ぶべくもないから、安全のためには夏タイヤに履き替える方がいい。
夏もそのまま履きつぶして冬に新品のスタッドレスに履き替えるのは最近トラック用タイヤで利用されているが、乗用車の夏タイヤはグリップレベルだけでなく、快適性も高いレベルが要求されるので、まだ技術的にその領域には達していないのである。
安全と快適のために、適切な交換時期に十分な性能を確保したスタッドレスと夏タイヤを履き替えて使うのが、現在の乗用車ではベスト。
どちらもほどほどの性能で十分ならオールシーズンタイヤという選択肢もある。
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