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 運送会社の経営者からは「女性ドライバーは3年いてくれればいいほうだよ」といった声がよく聞かれます。

 大型免許を保有している女性は13万4000人もいるそうですが、営業用大型貨物のハンドルを握っているのは、そのうちのわずか6%の8100人というが現実です。

 女性ドライバーの定着率が悪いのは、女性を受け入れようとしない、あるいは積極的に活用しようとしないトラック業界の頑迷な体質にこそ問題があるのかも!?

 今回、登場するベテラン女性トラックドライバーのみゆさんは、会社(荷主)の都合で泣く泣く「鋼材トレーラ」の仕事を辞めることとなり、就職活動を経て「大型ウイング運転手」として再デビューを果たしましたが、そこに待ち受けていたのはセクハラ・パワハラの数々……。

 トラック業界は女性ドライバーに厳しい!? 実録・女性トライバーの就職放浪記をお届けします。

文/みゆさん 写真/フルロード編集部

*2015年3月発売トラックマガジン「フルロード」第16号より


2カ月間の就職活動を経て大型ウイングの運転手として再デビュー 

 その運送会社はハローワークからの紹介という形での採用だったのですが、求人票に記載されている情報では「県内の地場集配の固定ルート・フォークリフトを使用してパレットでの荷役作業・完全週休2日制・年間休日120日・賞与年2回……」とナカナカの好条件。

 面接時にも「関東を中心に全国30カ所を超える営業所があり、独自の物流システムで大手メーカーの顧客を多く抱え、業績も年々伸びていて好調」だと聞かされていたので、採用が決まったときには喜びよりも驚き、期待と不安の新人生活をスタートさせることに……。

トラックドライバー不足とはいうものの……

 皆さんも経験があることと思いますが、入社後の数日~数週間を先輩と行動を共にして、1日の仕事の流れや担当するコースを覚えていく同乗研修。その中で人間関係を築いていき、面接では知ることができなかった「現場の声」を聞き出してみたりするわけです。

 そんな探りの段階でまず驚いたのが、私を指導してくれることになったベテランと思っていた先輩も「入社1カ月の新人」で、意外にも会社は定着率が悪く「古株」と呼ばれる運転手が少ないという予想外の事実!

 幸い求人票の内容には偽りはないようでしたが、事前に知らされていたら入社を考え直したかもと思うようなことまで次から次へと発覚。

 事故(製品の物損事故も含む)を起こしてしまった場合は「社内規定」に従っての処分(手当の減額等)があるという説明を受けてはいましたが、実際に「フォークリフトで積み荷である自動車部品を破損させてしまい、損害金の全額(約70万円)を弁償することになって、給料から分割で引かれている」と、当事者本人から聞いてしまっては……。

 もちろん事故を起こさなければいいだけの話ですが「明日は我が身」という不安は嫌でもつきまといますよね。

 恥ずかしながら、フォークリフトの免許は10年以上前に取得していながら、使用する機会はほとんどなく、初心者に限りなく近い腕前の私としましては、不注意な事故を起こしてしまわないよう慎重な作業を心がけていましたが、時間に追われてテキパキと動く先輩達の姿を見てしまうとさすがに焦ります。

 それでも「習うより慣れろ」「昨日より今日、今日より明日」という前向きな思いで自分なりに努力し頑張っていこうと決意をしていた矢先に、新たな問題が浮上!

冗談じゃないヨ! 指導係の先輩がセクハラ野郎に!

 その問題とは、ズバリ「セクハラ」です。仕事だとはいえ男女が2人きりとなる車内(走る密室?)で長い時間を過ごすというのは勘違いの元なのでしょうか?

 指導係となった先輩も、はじめは仕事以外の話はほとんどしなかったのに、世間話の合間に笑って済まされる程度の下ネタ系の話を挟んできては私の反応を見ていたのか。 

 私が場の空気を悪くしないようにと適当に相槌を打っていたことが災いしたのか。私が仕事を覚えていくのと反比例するかのように次第にエスカレートしていくセクハラ!

 「バカじゃないの? 私が男だったらそんなことは絶対に言わないくせに」と私が思っていることはまったく気がついていない様子で、「それってセクハラですよね?」と軽く忠告をしても、先輩はコミュニケーションなのだと主張し、自覚がないのが厄介……(そんな経験のある女性の方も多いのではないでしょうか)。

いえ、隣の男性はセクハラ親父ではありません! あるメーカーの試乗会での1コマでした

 なるべく相手にしないよう、聞こえなかったフリをしたり無視をしたりガマンを重ねていた私ですが、「もし私が会話を録音していて、セクハラで退社に追い込まれたと訴えたら300万円くらい貰えちゃいますかねぇ?」と怒りを押さえ笑顔で一言! 

 その言葉は効果があったようでセクハラはなくなりましたが、今度は違う形での逆襲!? 仕事上、必要なことさえも教えてもらえないというまさかの事態に……。

 私が運転をして先輩がアドバイスのためにと助手席に乗っているはずなのに「事故っちゃえばいいのに」と耳を疑うような発言までも……。

 この頃は「なんとか仕事さえ覚えて一人前になれば、いろいろ関わる必要もないし、嫌な思いをしなくて済む」という強い気持ちと、「もう会社に行きたくない」という弱い気持ちとの葛藤の日々でした(笑)。

 そんな思いをしてまで逃げ出さずにいたことで、次なる展開(試練?)となるわけですが……。ようやく「一人で仕事ができる」という段階になったと思っていたら、今度は私の後に入社してきた30才になったばかりだという新人君の指導役に抜擢! 

 え? 今度は私が新人君に「逆セクハラ」をしただろうって? するワケがないでしょう!(笑)。

 世代のギャップを感じながらも、時には優しく時には厳しく、子育てをする母親のように指導したつもりであります(今思えは新人君に指導をしているときが一番楽しく働けていたような気がしますね)。

 そんな中、またまた急展開で浮上してきたのが「転勤の話」。

 同僚の中には、別の営業所で採用されながら会社の都合で入社時にはまったく希望していなかった勤務地(私と同じ営業所)へと変更され、片道1時間半の道のりの通勤を強いられているという方もいたので、ココの会社ではよくある話で珍しいことではない!? 

 その話が栄転なのか左遷なのか何の意味があるのかも不明でありながら、話に聞く限りでは悪い話ではなさそうだし、「セクハラ先輩」と離れるチャンス(通勤時間は約2倍となってしまうのですが……)。

所長代理は豹変パワハラ野郎に! 過積載強要で堪忍袋の緒が切れた!

 即答はせずに、引き受けるかどうかは保留としてもらい、「百聞は一見に如かず」ということわざもあるくらいだしと、軽い気持ちでその営業所(担当する予定のコース)を見学させてもらうことになったのですが、今思えばこの見学が落とし穴だったのかも知れません。

 「他営業所からの研修」という形で通った2日間は親切にいろいろと教えてくれて、「ココで一緒に働こう」と笑顔で迎えてくれていたはずの所長代理(という肩書の配車係)が正式に転勤の話を受けた途端に豹変してしまうのです!(私に危険回避の予知能力が備わっていたら引き受けずにいたのに……)。

 新しい営業所では今までと同じ大型(低床四軸)ではなく、中型トラック(4tのワイド)に乗務。

 一日7~8件の固定客の集配で「客先さえ覚えてしまえば、初心者でもできる簡単な仕事」のように聞いていた仕事内容だったのが、実は担当する客先は40件以上もあり、曜日によっては一日に15件以上も行かなくてはならないとのこと!

 さらに見学のときには行かなかった狭い客先や、40kgを超える物の手降ろし作業をするような客先も次から次へと登場してきます。

キツい手積み手降ろしの仕事が待っていた

 無我夢中で働いていた20代の頃にはトレーラでも手積み・手降ろしの仕事もこなしていた私ですが、40才を超え体力が衰えてきている老体にはキツイ! 

 とはいえ弱音を吐くこともなく、周囲(同僚)からの「男でも大変なのに」「女にやらせるような仕事じゃない」と言われても「女だとは思われていないみたいよ」と笑い話に……。

 それでも同じ屋根の下で暮らす家族は敏感で、「そんなに無理してまで働く必要ない」「嫌な仕事なら辞めればいいのに」とまで言われる始末!(当時は疲れた顔をしていて笑顔が消えていたようです)。

 やはり長時間労働の代名詞となっている運送業と主婦業の両立には無理があるのか……?

 「責任もって引き継ぐから心配は要らない」と話していた所長代理(配車係)でしたが、教えてくれるどころか3日目(正式赴任となった日)からは、「運転は問題ないみたいだし一人で行けるよね?」と丸投げ状態!

 初めての客先も地図(グーグルマップを印刷しただけの紙)が添付されているだけで、私のほうから詳細(混載なので回る順番、荷台のどの辺りに積むのか、前進で進入するのか道路から後退進入なのか等々)を質問すると渋々教えてはもらえるのですが「俺は知ってるけど、こっちからは教えないよ。それで客先で失敗して怒られて自分で覚えたらいいんだよ」とのこと。

 元々は運転手だったという所長代理ですが、肩書が付いてしまうと運転手(部下)の気持ちがわからなくなってしまうモノなのでしょうか、なんとも恐ろしい上司です(笑)。

 そういえば最初に働いた運送会社でも、暴言を吐く上司(所長)がいましたが、「ちょっと賢いと文句を言うから、運転手はバカなほうがイイ」などと口は悪くても「黙って俺についてこい」というタイプ。

 陰湿さはまったく感じなかったし、仕事の面では面倒見の良いアニキのようで、「客先で迷惑をかけないように」「事故を起こさないように」と過去の失敗談を交えながらいろいろと教えてくれていたのに……。

 「アレ? 長年トレーラに乗っていたって聞いているけど無理なの? 行けないの?」と無理難題を押し付けてくる所長代理……。(トレーラでは混載して1日に何カ所も行くような事はしていないし、仕事の内容が全然違うのに!)

 客先で待たされたり、渋滞などの交通事情で帰社時間が少し遅れたりしただけで、「俺だったら半日で戻って来られるコースのはずなのに」。……私に何か恨みでもあるのでしょうか。

 「俺は気に入らないヤツをクビにできる権限もある」と、とにかく嫌味の嵐! コレが噂に聞くパワハラというヤツですね(笑)。

 「弱い犬ほどよく吠える」そうですが毎日こんな上司と関わっていては私のほうまで性格が悪くなってしまいそうです(以前から性格悪いだろうって?)。

 そんな嫌がらせ(パワハラ)に耐えるにもさすがに限界はあります。嫌だ嫌だとは思ってはいても無断欠勤をするワケにもいかず、普段と同じように出勤し伝票をチェックしているときに明らかに過積載だということが発覚!(これも新たな嫌がらせだったのか?)。

 最大積載量31000kgの中型トラックなのに、私の行き先となっている分の積み荷の量は6000kgを超えていて通常の2台分です(小学生でもわかりますよね)。

 当然ながらそのまま積むワケにもいかず、所長代理に指摘をすると、指示に従えない私が悪いかのように「物理的には積めるはず」。そして改善策(配車の組み直し)を考えてくれることもなく、「俺だって忙しいのに、何言ってるんだよ」という態度……。

 結局そのことが引き金となり、日頃から蓄積されていた不満が爆発!! 「もういいです! 帰ります!  明日から来ません」と言い残し、事務所を飛び出しトラック内の私物を片付け帰宅!  イイ歳してヤッちゃいましたね(笑)。

 今更の言い訳になってしまうかも知れませんが、求人票には「当社は労働法規など法令遵守第一です。運行管理規定を遵守し、過労運転、過積載はさせていません」と記載されていたのですから、私が断固拒否をして当然だったと思っています。

 もし指示に従って重大な事故を起こしてしまったら……?

 そんな騒ぎを知った所長代理の上司(所長・部長)からは、「せっかく頑張っていたのだから考え直してもらえないか」と退社を引き止める電話もありましたが、所長代理本人は「自分は悪くない」とでも思っているのか、謝罪は一切なし! 

 頑固な私の意思も変わらす、そのまま退社することとなりました。

男も女も関係なく運転手は会社の財産のはず

 約3カ月という短い間に「人生のジェットコースター」に乗せられてしまったのかというぐらいにいろいろとありましたが、今まで経験のなかった大型トラック(低床四軸)に中型トラック、そしてフォークリフトの練習ができたので良かったと思うことにします。

 相性もあるかも知れませんが、条件が良い会社=居心地の良い働きやすい会社だとは限らないみたいですね(もちろん大半が良い会社だとは思いたいですが……)。勉強になりました(笑)。

 たとえるならスピード離婚、そんな感じに、またも「無職」へと逆戻りしてしまった私は、現在も就活の真っ最中なのであります……。

 退職を決めた直後には「バラセメントやコンクリート製品を主に運搬している」という運送会社が「トレーラの運転手」を募集しているのを知り、早速の応募!

 とりあえず面接までは漕ぎ着けたものの、定年間近という感じの面接官の「女性差別」とも思えるような対応に失望しました。

 「女性ドライバーは時々見かけるけど、ウチの会社では今まで女性を雇ったことがなく、前例がないので扱い方に困るし、荷主が何と言われるか……」。女性=珍しい動物!?

 私としては、今までも「男社会」といわれる中で働いてきている経験もあるのだから特別視しないで、同じように扱ってくれても構わないと思っているのに「運転手たちがキレイな女性と一緒に働いて変な気を起こしちゃっても大変だしねぇ……」。

 確かにセクハラ問題が絶対にないとは言えませんが、恋愛は自由ですよ、私は既婚者ですが……(笑)。

みゆさんの就職放浪記はまだまだ続く……

 予想通りというか、残念ながら「不採用」という結果でしたが、女性というだけで拒否反応し面接すらしてくれないという会社の本音が少し見えた気がします。

 運送業界の人材不足解消のため国土交通省の「トラガール」と称した「女性の活用」を推進する取り組みもあるみたいですが、実際には「まだまだ」のようですね。

 常連となりつつあるハローワークの担当者からの「資格と経験があるのだから有利」という言葉を信じ、今も運送業界に復帰することを希望してはいますが、正直なところ「こだわる必要はないのでは?」「未経験でも運送業界より働きやすい環境が整っていて、自分に向いている仕事があるのではないか?」と心が揺れることもあります。

 それでも新聞の折り込みの求人広告や無料配布されている求人誌で「運送会社」を真っ先にチェックしてしまうのは習慣なのか本能なのか(笑)。

  運送会社は、トラックだけあっても、動かせる運転手という存在がなければ会社も物流も成り立ちませんよね。 

 「人材ではなく人財」。その財産はモノではなく心も足もあるのですから、大切に扱わないと私みたいに逃げ出しちゃいますよ(笑)。

 「運転手は会社の財産」、今度はそう思ってくれる会社と巡り合えることを願っています。

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