なんといっても現行モデルにはない「味」があるのが旧車の魅力。だがそれはなにもいいことばかりではないだろう。ひとたび所有すれば、オーナーならではの「愉悦」と「苦悩」もあるはずだ。5人のオーナーに、ならではの「愉悦」と「苦悩」を聞いた!!
※本稿は2022年2月のものです
文・写真/松村 透
初出:『ベストカー』2022年3月10日号
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■新車から49年。乗って走り、楽しめることの幸せ(ルージュダン鈴木さん/マツダ コスモスポーツ 1972年式/所有年数 49年)
■DATA
・オーナー:ルージュダン鈴木さん(自営業/埼玉県)
・モデル:マツダコスモスポーツ 1972年式
・購入時期:1973年(所有年数:49年)
・購入時の走行距離:新車で購入
・現在の走行距離:約21万5000km
・購入時の金額:160万円
・現在の中古車相場価格:990万円〜ASK万円
鈴木さんとコスモスポーツの付き合いは今年でなんと49年というから驚き。
「これまで4回エンジンをオーバーホールしました。部品を交換した時は『最後まで使い切った』という達成感がありましたね」と鈴木さん。
このクルマに乗っていて困ることが気になるが……。
「特にないんです。出先で不調になった時、『家までどう帰ろうか』と悩んでも、後々それがいい思い出になりますし」
古いクルマだけに部品の入手は困らないのだろうか。
「所属するコスモスポーツオーナーズクラブのメンバー同士でやり取りをしてるので大丈夫です。あとは、同クラブ内でのパーツプロジェクトが製作してくれるのを待ちます」
これまでの忘れられないエピソードは?
「クラブの企画でドイツにこのクルマを持ち込み、アウトバーンを200km/hオーバーで走ったことです」
これまで手放そうと思ったことはないのだろうか……?
「子どもの学費を捻出するため……と思ったことはありました。でも子どもたちが『売らないほうがいいよ』と言ってくれて。
産まれた時から家にコスモスポーツがあったわけですし、妻もこのクルマがないと生きていけないことを理解してくれていることに感謝ですね。今年で71歳ですし、あと10年くらい乗るのが理想です」
まさに人生をともに歩んできたコスモスポーツ。超がつくほど極上のカーライフだ。
●私の愉悦:アウトバーンで200km/h出したこと!
●私の苦悩:その時は苦悩でも、後々楽しい思い出になる
■新車から38年。墓まで持っていきますよ!(森田達郎さん/ホンダ バラードスポーツCR-X 1985年式/所有年数 38年)
■DATA
・オーナー:森田達郎さん(会社員/千葉県)
・モデル:バラードスポーツCR-X 1985年式
・購入時期:1985年(所有年数:38年)
・購入時の走行距離:新車で購入
・現在の走行距離:約72万km
・購入時の金額:約160万円
・現在の中古車相場価格:約150万〜約230万円
今見ると驚くほどコンパクトな初代CR-X。オーナーの森田さんは新車で手に入れてから38年、約72万kmを走破したという。
「人生の半分以上の時間をこのCR-Xと過ごしてきたわけです。所有できていること自体が喜びです」
手元にあることが日常とはいえ、CR-Xを所有していると実感する瞬間があるという。
「メンテナンス後、元気よくエンジンが始動した時です。このクルマ特有のメンテナンスポイントがあり、ショップ任せでは限界があるため、できるだけ自分でメンテナンスするようになりました」
愛あればこそだ。愛車との忘れられないエピソードは?
「当時、同型同色のCR-Xに乗っていた妻と出会ったことに運命を感じます。妻も当時所有していたCR-Xを今も手放さずに持っています」
困ることは何だろう?
「ご想像どおり部品がないことです。ほとんどの部品が手に入りません。ネットオークションも争奪戦ですね」
それだけ大変だと手放そうと思ったこともありそう……。
「手放そうと思ったことはありません(キッパリ)。どうにもならない時は自作して対処。仲間内で交換し合うのはもう飽和し切っていて、もはや各々が自身の未来のために確保しているような状況です。現段階でも仲間を頼りにするのはご法度です。ひたすら流用加工&自作するのみです」
さまざまなご苦労があっても今後もCR-Xとともに?
「もちろん! 墓まで持って行きます(笑)」
実は……、ご夫婦だけでなく、2人のお子さんもCR-Xを所有している(!)という。森田さんご一家の『CR-X愛』は、名実ともにギネス級だ。
●私の愉悦:同型同色のCR-Xに乗っていた妻との出会い
●私の苦悩:部品がないのは承知のうえ。流用加工&自作!
■愛娘の成長を一緒に見守ってきた家族の一員です!(堀田大輔さん/日産 スカイラインGT-R 1995年式/所有年数 27年)
■DATA
・オーナー:堀田大輔さん(会社員/東京都)
・モデル:スカイラインGT-R 1995年式
・購入時期:1995年(所有年数:27年)
・購入時の走行距離:新車で購入
・現在の走行距離:約20万7000km
・購入時の金額:約490万円
・現在の中古車相場価格:約450万〜約1600万円
R33GT-R、初期ロットの個体との付き合いは27年で、「今でも快調に動くだけで感謝ですね」と話す。
「俺はGT-Rを所有している!」と実感する瞬間は?
「フルスロットルで加速している時ですね!」とキッパリ。
気になる、GT-Rとの忘れられないエピソードについては、「人生の半分以上の時間を一緒に過ごしているのでエピソードがありすぎ」と笑う。
困ったことは何だろうか?
「出先でトラブルに遭遇し、自宅や目的地に辿り着けないかもと感じたことですね。手放そうと思ったことですか? 家族みんなが気に入っていますし、手放そうと思ったことはありません!」
そしてやはり気になる、部品入手の苦労話……は?
「知恵を使います(笑)。日々ショップのプログなどをリサーチし『明日は我が身』の精神で対策法を考えています」
この先も「ガソリンが安定供給されるうちは間違いなく乗り続けます」と堀田さん。GT-Rとともに成長したお嬢さんはMT車免許を取得。クルマの微妙な変化も感知する有力な次期オーナー候補ということだ!
●私の愉悦:フルスロットルで加速している時
●私の苦悩:徹底的なリサーチで苦悩は回避してます
■カッコイイと思うGTOに31年間、毎日乗れる喜び(安藤一弘さん/三菱 GTOツインターボ 1991年式/所有年数 約31年)
■DATA
・オーナー:安藤一弘さん(会社員/埼玉県)
・モデル:三菱GTOツインターボ 1991年式
・購入時期:1991年(所有年数:約31年)
・購入時の走行距離:新車で購入
・現在の走行距離:約57万4000km
・購入時の金額:約399万円
・現在の中古車相場価格:約88万〜約458万円
リトラクタブルヘッドライトのGTОとは31年の付き合いになる安藤さん。
「念願だったGTОを手に入れて31年。カッコイイこのクルマに今でも毎日乗れる喜びと幸運を噛みしめる日々です」
GTОオーナーだと実感する瞬間について、「アクセルペダルを踏んでいる時ですね。特に2速、3速の加速を楽しむ瞬間は最高!」と語る。
忘れられないエピソードは、「数年前まで、往復1650kmのロングドライブを日帰りでしていたことです(最近は体力的に厳しいので1日半くらいで往復)」
その一方で長い付き合いのなかで最も困ることについて
「やはり部品の入手ですね。毎年どこかしら壊れますから。でも、オーナーズクラブの仲間や知人から情報提供してもらい探します。場合によっては譲ってもらうことも。どうしても無理な時は他年式の部品に変更・流用・アレンジして対処しています」
GTОを手放そうと考えたことはないのか?
「ありません! 一度もほかのクルマに浮気したり、乗り換えようと思ったことがないんです。乗り続けられるうちは一緒に走りたいです!」
というほど安藤さんにとってGTОは離れがたい存在のようで、これまでGTОで約57万kmを走破。エンジンは2基目、ミッションが3基目、クラッチを5回交換してもまだまだ現役! 100万kmを目指して歩んでいただきたい!
●私の愉悦:31年間、カッコイイクルマに毎日乗れる
●私の苦悩:純正部品が手に入りにくくなっている点
■10代・20代をともに過ごした一生モノのトレノ(尾形 隼さん/トヨタ スプリンタートレノGT-V改 1986年式/所有年数 11年)
■DATA
・オーナー:尾形隼さん(会社員/埼玉県)
・モデル:トヨタスプリンタートレノ GT-V改 1986年式
・購入時期:2010年(所有年数:11年)
・購入時の走行距離:約23万1000km
・現在の走行距離:約30万km
・購入時の金額:約120万円(車検2年付き)
・現在の中古車相場価格:約290万〜約590万円
人生初の愛車がこのトレノという尾形さん。青春時代を駆け抜けてきた相棒。
「生産から30年以上経った現在でもアフターパーツが豊富で、さらに純正部品が復刻されたこともオーナーとしてうれしいです!」
オーナーであることを実感する瞬間にも愛情いっぱい。
「ボディカバーを外してトレノを眺めた時、このクルマのオーナーなんだな……と」
まずトレノとの忘れられないエピソードについて、
「2015年に富士スピードウェイで開催された86のイベントで愛車自慢コンテストに愛車をエントリー、土屋圭市さんに最優秀賞に選んでいただいたこと。その翌年、初めてWebメディアの取材をしてもらったことです」
と、語ってくれた。
トレノを所有するうえで困ることはないのだろうか?
「ボディが錆びやすく、内装が劣化しやすいことです。そのためなるべく洗車せず、保管時にサンシェードとボディーカバーで劣化を防ぐ努力をしています。
それと復刻されていない部品は新品の入手が年々厳しくなっていますし、高騰も著しいです。付き合いのあるクルマ屋さんに相談して対処していますが、前後バンパーカバー、ダッシュボード、リトラクタブルモーター及びリレー、ドアサイドモールなどの復刻を願っています」
これまで手放そうと思ったことはないのだろうか?
「箱替えを考えたことはありましたが、このトレノに愛着があるのでやめました。このトレノは一生モノで、ガソリン車に乗れなくなるまで走り続けたいです」
人生初の愛車が一生モノ。尾形さんとトレノのカーライフは夢半ばなのかもしれない。
●私の愉悦:ボディカバーを外してクルマを眺めた瞬間
●私の苦悩:このトレノより欲しいクルマが見つからない
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