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EV時代でむしろ復権!!? 日本と世界で研究開発進む「モンスター級」スポーツEVたち

 EV化進むことで、スポーツカーはなくなってしまうのだろうか。世界中で急速に進むEV化の動きをそんな暗澹たる気持ちで見つめているクルマ好きもいるのかも知れない。

 しかし、電動化への移行が本格的になるにつれ、各メーカーが相次いでモンスター級のEVスポーツコンセプトを発表し始めた。

 電動化技術の進歩をアピールするEVスポーツはスポーツカー復権の兆しなのか!?

※本稿は2022年2月のものです
文/ベストカー編集部、写真/ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2022年3月10日号

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■日本でもEVスポーツカーがぞくぞくスタンバイする理由は?

STIが開発するE-RAは4モーターEVで最高出力1088psを叩き出す

 もはやスポーツカーの時代は終わった……。

 そんな風に言われて久しいし、実際、これぞスポーツカー!! と言えるようなクルマが特に日本国内向けから激減しているのが現状だ。

 だがしかし!!

「電動車」時代への移行が叫ばれるとともに、世界の自動車メーカーは、コンセプトモデルのフラッグシップクラスに相次いでモンスター級のEVスポーツモデルを開発して、スポーツカーでEV時代のテクノロジーをアピールする。

 日本の自動車メーカーも静観はしていない。

 昨年12月14日に、いっきに今後10年を見通したEV戦略を発表したトヨタは、レクサスブランドのスポーツEV、さらにトヨタブランドのコンパクトEVスポーツの存在を明らかにした。

 これに先立つ昨年10月には、ホンダが中国でのEV戦略を発表したが、2025年以降に新規投入するEVラインナップにスポーツクーペが用意されている。

 もちろん現時点ではシステムやスペックなどの詳細は明らかにされてはいないが、NSXをやめてしまう以上、それに代わるEVフラッグシップスポーツに向けた開発が進んでいるのだろう。

 さらに今年に入ると、スバルがSTIから「E-RAコンセプト」を公表した。見るからにGTマシンのような、2ドアスポーツプロトのような佇まい。

 開発を担当したSTIの森宏志氏に話を聞くと、イメージとしてはE-GT3レースマシンだという。しかし、スバルにはベースとなる市販モデルがないため、現状では出場できるレースカテゴリーがないのだという。

 では何のために、このようなEVスポーツを開発するのか?

 森氏は「最終的には、市販車のEV技術の研究開発、知見を深めるためです。この2ドア2シーターが、そのまま市販車になる可能性は、低いでしょう。しかし、このクルマで得られた知見がスバル市販車に生かされることを目指します」と言う。

 E-RAのシャシーはカーボンモノコックで、ベース車はないオリジナル開発。パワートレーンはヤマハ発動機と共同開発した4モーターEVで、システム出力は800kW=1088ps!! 最大トルクは1100Nmにも達するという。

 800kW、1088psと言えば、ポルシェのEVハイパースポーツ「ミッションR」とまったく同じだ。

 STI E-RAはニュルブルクリンクでのタイムアタックを通じて車両開発を深化させていく。最終的にはニュル北コースを400秒、つまり6分40秒で走ることを目標とする。

 これは中国のニーオEP9がもつ6分45秒を5秒上回るタイムで、2座の2ドアスポーツEVとして最速となる。24時間レース参戦でニュルの厳しさを知り尽くしたSTIだからこそ、新たなEV技術のブラッシュアップにはニュルタイムアタックが最適だと考えたのだ。

 キモとなるのはヤマハが開発に大きく関わったモーターユニット。昨年4月、ヤマハが発表した「ハイパーEV向け電動モーターユニット」がそれで、最大出力350kWクラスを想定し、ギア、インバーターを一体化したコンパクトなシステムで、動作電圧は800Vを採用。

 STI E-RAはこれをベースに最適化されたモーターユニットを4基搭載して800kW(1088ps)を発揮する。

■800Vと多段ギアこそがスポーツEVでのキーとなる

ポルシェ ミッションR。900Vシステムを使うポルシェミッションR。バッテリーは82kWhでモーター出力はフロント:320kW、リア:480kWでトータル800kW(1088ps)

 ここで注目したいのが、「動作電圧800V」という点だ。

 現在国内販売されるEVはバッテリー電圧350V前後。以前、EVの動作電圧は400V以下に規制されていたが、現在では1000Vに拡大している。ポルシェタイカンは800Vを採用する。

 本誌でもおなじみの水野和敏氏はこう解説する。

「ポルシェの800Vシステムは日立のインバーター技術がベースになっている。400V以下であれば弱電メーカーでも取り扱えるが、800〜1000V級になると重電メーカーでないと扱いきれない。日立などは2万〜2万5000Vで動かす鉄道車両の制御技術も扱っているので、1000V程度はお手のものなのです」と。

 さらに水野氏は「高電圧の800Vシステムを採用することで電流が小さくなる。これによりモーターの巻き線を細くすることができ、小型軽量化しながら高出力化が可能。

車体側の配線を細くすることができるので、スペース効率もよく、また軽量化にもなる。電流が小さいので発熱も小さく、冷却システムも小型化できるのです」と800Vシステムのメリットを説く。

 さらに多段ギアの組み合わせもスポーツEVには不可欠となる。STI E-RAが搭載するヤマハのモーターユニットにもギアが組み合わされているし、ポルシェタイカンも2段ギアが組み合わされる。

「モーターの効率は6000〜7000rpmが頭打ちで、それ以上回しすぎると、モーターの回転力そのものが抵抗になって効率は大きく落ちます。

今の国産EVは多段ギアの組み合わせはなく、高速道路を走ると1万回転以上でモーターが回ります。これではトルクは出ないし、電力消費量も大きくなってしまいます」と水野氏は指摘する。

 現在、航続距離を延ばすためには大容量バッテリーを搭載することが早道だが、これはコストアップになるだけではなく、重量増加にもなる。

 さらに、バッテリー製造時のCO2排出を考慮すれば環境負荷も大きい。

 さらに、大容量350Vバッテリーだと、充電時の時間も長くなる。多段ギアを組み合わせて巡航時のモーター回転を抑えれば、バッテリー容量を大きくすることなく航続距離を延ばすことが可能。

 重量的にもバッテリー増量抑止分とギア搭載分でのプラマイはほぼ変わることはないし、コスト的にも吸収可能と水野氏は言う。

 それに、なにより多段ギアが組み合わされることでドライブ感覚が俄然スポーティになる効果も大きい。ポルシェタイカンを走らせると、加速途中にギアが切り替わった瞬間、モーター回転に変化が生じ、エンジン車で加速していくあの感覚を呼び起こす。

 3年ほど前、水野さんも開発に関わったという、浜松の駆動系ユニットメーカー、ユニバンスが開発中の、ハイ/ローギアを組み合わせた駆動ユニットを前後に搭載した試作モデルに試乗したことがある。

 走行状況に応じて複雑にモーターとギア段を組み合わせた制御により、小気味よく走れる気持ちよさを実感した。

 このシステムは1ユニットわずか30kWで、前後に2基搭載してもトータル60kWにすぎないが、エンジン車で言えばマツダロードスターのような、小排気量ライトウエイトのような感覚を楽しめた。これはギアによるモーター回転の「オイシイところ」を活かしたメリットだ。

 EV時代へシフトしていくなか、特に欧州ではイメージリーダー的にスポーツモデルが華々しく存在をアピールしているという部分もあるが、800Vシステム、さらに有段ギアの組み合わせによるスポーティなドライブフィールもEVスポーツカーを後押しする重要な技術となっているのだ。

 国産EVも、この先、スポーツモデルを投入するのであれば800V化&有段ギア搭載に期待したい!!

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