アメリカのディーゼルエンジンメーカー・カミンズが、商用車用のアクスル(車軸)、ブレーキなどで大きなシェアを持つメリトールの買収を発表した。
従来の内燃機関によるパワートレーン事業でのシナジーに加えて、電動パワートレーンの開発を本格化する狙いがあり、競争が激しくなっている電動アクスルの開発に際して、アクスルメーカーのノウハウが重要になっている。
いっぽう、部品メーカーの統合が進んだことでサプライヤの持つ影響力も大きくなった。内製コンポーネントにこだわっていたトラックメーカーでも水平分業が進んで行きそうだ。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/メリトール・デーナ・アリソン・ZF・いすゞ・米国日野・ダイムラー・「フルロード」編集部
カミンズがメリトールの買収を発表
アメリカのカミンズは2月22日、メリトールの買収を発表した。買収額は総額37億ドル(4260億円、1株あたり36.5ドル)としている。メリトールの取締役会は買収提案に賛成しており、株主総会を経て正式に決定する見通しだ。
国際的なエンジンメーカーであるカミンズは北米の大型トラック市場で40%近いシェアを持ち、ディーゼルエンジンを中心にターボチャージャーや電動パワートレーンなど、パワーソリューションを提供する。
カミンズは日本ではコマツと密接な関係にあるほか、2019年にいすゞ自動車とパワートレーン事業に関する包括的パートナーシップ契約を締結している。
いっぽうメリトールはトラック・トレーラ用のアクスル、ブレーキ、サスペンションなどで高いシェアを持つ部品メーカーだ。買収が実現すればカミンズは内燃機関と電動の両パワートレーン全体を一社で提供することになる。
内燃機関でのシナジー効果は3年間で1.3億ドルを見込むが、より重点をおいているのが電動パワートレーンの開発で、カミンズのトム・ラインバーガーCEOは次のように述べている。
「メリトールとともに、私たちは今の時代に最も必要とされている技術的な挑戦に取り組んで行きます。すなわち商用車の世界に、経済的に実現可能なゼロカーボン・ソリューションをもたらすことです」。
メリトールはすでに電動アクスルを販売しているほか、カミンズも電動パワートレーン、バッテリーパック、燃料電池セルなどを扱っている。
内燃機関を開発する上で車軸に関するノウハウは重要ではないかも知れないが、電動パワートレーンでは事情が異なる。特に電動アクスルは、モーターとギアボックスを統合し、さらにはブレーキ、ディファレンシャル、トランスファなどの機能の一部を受け持つ重要なコンポーネントだからだ。
トラックの電動化で採られる手法
エンジンを電動モーターに置き換えれば電動化という目的は達するわけだが、フロントにエンジンを置き後輪を駆動する(FR)という一般的なトラックの仕組み上、その目的を達成するために現在多く採用されている方法が2つある。
一つは「セントラルドライブ」と呼ばれる方式で、エンジンの代わりにモーター・インバーターを搭載し、それ以外は従来車と同様にプロペラシャフトを介して駆動力を伝えるものだ。
既存のシャシを使えるのがメリットで、量産車でいうと、三菱ふそうの「eキャンター」(現行の2020年モデル「eキャンター1.1」)はこの方式を採用している。またZFの「CeTrax」シリーズなどセントラルドライブ方式の電動ユニットも市販されている。
もう一つは、モーター・インバーター、ギアボックス、アクスルなどを一体化した「電動アクスル」を使用するもの。既存のシャシから変更点は多くなるが、プロペラシャフトなどが不要となるため、シャシ設計の自由度が高くなるのがメリットだ。
メリトールが採用するのはこの方式で、バッテリー電気駆動であっても水素燃料電池であっても、カミンズにとっては重要な技術となる。今後はギアボックス、アクスル、ブレーキなどはメリトールの技術をベースとしつつ、モーター、インバーターなどは共同で設計することになると思われる。
電動化の手法として、ほかにインホイールモーターもあるが、出力やばね下重量の問題などがあり大型車では要件が厳しい。また、量産車ではないが日野の小型トラック「日野デュトロZ EV」では前輪を駆動する(FF)ことで電動化と低床レイアウトを成立させている。
各社の電動パワートレーン
自動車業界の産業構造が、垂直統合から水平分業へ移行するなかで、電動パワートレーン開発は競争が激しくなっている。
1月にはドイツのZFが、買収したワブコ(トラック・トレーラ用のブレーキやサスペンションのメーカー)に由来する部門を統合し、「商用車ソリューションズ事業部」を発足した。
ZFは世界最大の商用車部品のサプライヤーで、電動セントラルドライブ、電動アクスルの両方を販売する。
他に、アメリカの商用車向けトランスミッションのメーカー、アリソン・トランスミッションは「eGen Power」シリーズの電動アクスルを開発している。同じくアメリカでアクスルやトランスミッションを製造するデーナも「zero-8」シリーズなど大型車用の電動アクスルを販売する。
トラックメーカーでは、ダイムラーが量産化した「eアクトロス」は内製の電動アクスルを搭載しており、「eパワートレーン」プラットフォームとしてグローバルに展開する。
いっぽうで、パワートレーンに内製コンポーネントを使うことが多かった日本のトラックメーカーは、海外向けの製品などで、電動化に伴い外部から調達するケースも出てきている。
電動化による水平分業の進展
例えばいすゞは1月20日、カミンズとの包括的パートナーシップ契約に基づき、北米市場向けの中型トラック「FTR」シリーズ(日本の「フォワード」クラス)に、カミンズの「PowerDrive6000」を搭載した電動車のモニター運行を開始すると発表している。
モニター終了後、同システムを搭載したトラックの事業化を検討する。なお「PowerDrive」はもともとプラグインハイブリッド用のシステムとして発表されたもので、純電動で使用するのはFTRが初となる(予定)。
また、米国日野とアリソン・トランスミッションはバッテリー電気式(BEV)大型トラックの電動アクスル開発で包括的かつ戦略的な業務提携を行なうことを2021年9月に発表している。
米国日野はゼロエミッションに向けた「プロジェクトZ」を2020年に開始しているが、ショーモデルに搭載したのはアリソンのデュアルモーター式電動アクスル「eGen Power 100D」であった。その後両社の提携に伴い、シングルモーターの「eGen Power 100S」を共同で開発している。
商用車も脱炭素に向けた変革が求められる中、昨今は資本関係を基本とした垂直統合より、水平分業が進んでいる。日野自動車がトヨタグループの垣根を越えてフォルクスワーゲングループのトレイトンと提携したのはその象徴ともいえる。
いっぽうで買収・合併を通じて部品メーカーの影響力も増しているので、電動化を契機に水平分業化という動きはさらに加速しそうだ。
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