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3DCGコンテンツの制作を手がけるプロダクションにインタビューを実施し、オートデスク製品の導入理由やその魅力を聞く本企画。「ゲーム業界編」となる今回は、カプコンに取材し、制作現場の声を聞いた。時代の変化が著しい昨今、ゲーム制作の最前線で3DCGはどのように使われているのだろうか。

TEXT&EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE

CASE:カプコン


「より良いゲーム体験」を作り出すためのカスタマイズ

時は1994年までさかのぼる。当時高校生だった筆者は、学校から帰宅するやいなやおもむろにテレビの電源を入れ、『スーパーストリートファイターII』のカセットをスーパーファミコンの本体に差し込む日々を送っていた。真っ暗なテレビ画面にカプコンのロゴが浮かび上がり、16ビットなサウンドが部屋に響くと胸が高鳴った。バブル崩壊後の経済不安が立ち込める時代ではあったが、ゲームから漠然とした可能性を感じていた。それから24年後の2018年、人々は『モンスターハンター:ワールド』(以下、MHW)に夢中になっていた。スマッシュヒットとなった『モンスターハンターダブルクロス Nintendo Switch Ver.』(2017)を凌ぐ記録的大ヒットとなった同作は、世界累計売上本数2,000万本を突破(2021年12月現在)。いまだ新種のウイルスが世界を妖しく覆ってはいるが、そんな中にあってもゲームは人々に可能性を与えてくれている。

そして2021年3月、Nintendo Switch(以下、Switch)から『モンスターハンターライズ』(以下、MHR)がリリースされた。「モンスターハンターシリーズの最新作」という期待を背負っての開発下にあっても、「クオリティとスケジュールの闘い」は避けられない。その勝敗を分ける鍵となったのは「自動化と効率化」だった。

CS第二開発統括 開発三部 第一ゲームグラフィック室でモデリングアーティストを務める佐藤博詞氏によると、『MHW』から一部の3Dモデルを流用して開発を進めようとしたところ、PlayStation 4(以下、PS4)向けに作られた3DモデルをSwitch向けの3Dモデルに作り変える過程でハードウェアの構成上変更せざるを得ない「処理負荷」の問題が発生したという。「処理負荷検証を行なったところ、Switchの仕様に合わせて作り直しとなりました」(佐藤氏)。

  • 佐藤博詞氏/Hiroshi Sato(カプコン)
  • 戸田勝己氏/Katsumi Toda(カプコン)
  • 岡田清正氏/Kiyomasa Okada(カプコン)

『MHW』に登場するキャラクターの3Dモデルの場合、多いもので10万頂点ほどもあるとのことだが、それをSwitchに対応させる必要があった。しかしその際、そのままベイクしてしまうと歪みが生じてしまう。そこで佐藤氏は、いったんMayaでハイメッシュに寄せた3Dモデルをノーマルマップ(法線マップ)生成用に作り、そのモデルを使ってベイクしノーマルマップだけを適用するという手法を採用した。「全てはノーマルマップを上手くベイクできるかにかかっていました。板ポリゴンを上手くベイクすることさえできれば、意外とそれなりのディテールがあるように見えるものです。この点を上手く利用して、処理負荷を軽減させつつもディテールを感じる3Dモデルに見えるようにしています」(佐藤氏)。


▲Nintendo Switch向けの『モンスターハンターライズ』での3D表現。様々な対応を経て、ディテールを感じる様に表現されているのが分かる。

背景制作においては「いかに効率的にイテレーションを行うか」に力を注いだと、CS第二開発統括 開発三部 テクニカルマネジメント室のテクニカルアーティスト・岡田清正氏は話している。「手動で行なっている工程を可能な限り自動化することが効率を上げる最大のポイントでした。具体的には、設定したアトリビュートをRE ENGINE(※1)に出力する際に “シェーダの割り当て” 等を自動で行なってくれるツールを社内で開発し、そのツールをMayaに入れて自動化するといった具合です。ひとつひとつ手動で設定すると非常に手間がかかりますが、自動化させることで効率がかなり上がり、そのぶん制作に力を注ぐことができました」(岡田氏)。多くの企業にとって「効率化」は大命題となっているが、それはエンターテインメントの世界も例外ではない。ゲームの世界で「効率化」が生み出すものは、「ゲームの全体のクオリティ」すなわち「より良いゲーム体験の創出」なのである。


※1:同社開発のゲームエンジン



▲いったん仮モデルをMayaで作成し同社が開発したゲームエンジン「RE ENGINE」で稼働しているかどうかを確認。次に、ZBrushなどでハイメッシュモデルを作成→MayaでSwitch対応用モデルにして、Substance上でノーマルマップを生成する。その後、ノーマルマップで質感などを作り込んで完成。「完成後も細かい修正が入るので、その都度Mayaで調整していきます」(佐藤氏)

そんな同社がMayaへの移行を開始したのは2013年のこと。Softimage(ソフトイマージ)から徐々にMayaへと移行を進め、現在は完全にMayaでの制作環境となっている。同社がMayaをメインツールとして選んだ背景として、佐藤氏は「柔軟性と拡張性の高さ」を第一に挙げる。「Mayaはとにかく多機能で拡張性が高いですからね。MELやPythonなど、様々な手法でツールが作成できるのは利点として大きいですね」(佐藤氏)。

Mayaの標準のスクリプト言語であるMEL(Maya Embedded Language)でのツール作成については、CS第二開発統括 開発三部 第一ゲームグラフィック室でテクニカルアーティストを務める戸田勝己氏が次のように話している。「『MHR』には多くの装備が登場するのですが、制作の途中で仕様が変わったり、ゲームエンジンに出力すると不都合がある度に、何百と作ってきた装備の全てに新しい仕組みを入れなければならないという状況が何度か発生しました。そういうときにMELであれば、どれかひとつの装備で実行した結果を”コピー&ペースト+少しだけ手を加える”ことで汎用性の高いスクリプトになるので、Mayaに搭載されているMELの柔軟性には助かりました」(戸田氏)。



▲地形データの作成やプロップモデルの配置などをMayaで行なってる。配置情報を出力する際、内製のエクスポートツール等を使用してアトリビュートを付与したり、所定のパスにモデルデータやコリジョンデータなどを出力。自動で所定のパスにデータを送ることができるため非常に効率的だ。「また、出力先のデータをMayaにデータをインポートする自社ツールも開発してもらいました。データのインポート&エクスポートが相互にできるようになりワークフローの効率化に繋がっていますし、修正・確認なども素早く対応できています」(岡田氏)

彼らがここまで効率化にこだわるのは、「ゲーム開発のクリエイティブな部分」に時間とエネルギーを注ぐためだ。「スタッフは皆、こう見えた方がプレイヤーの皆さんにとって面白いのではないか、こういうデザインだったら喜んでもらえるのではないかといったことを常に考えながら作っていました。プレイヤーの目線をとても大切にしているんです」(戸田氏)。また岡田氏は「シェーダの作成において、いかに3D空間で格好良く見せることができるか、またデザイナーの意図を可能な限り実現した結果、多種多様なシェーダが出来上がりました」と、クリエイティブの追求において技術的な壁を乗り越える必要があったと話している。というのもゲーム開発の過程では、デザイン上では成立していてもゲームに出力してみるとねらい通りに動かなかったり、動きが不自然になったりと不具合が生じることが多々あるからだ。「デザイナーの指示は細部に至るまでとても細かく、またそういった表現力に関する話は文章だけではなかなか伝わりません。彼らの思いを叶えるためにも、しっかりとコミュニケーションを取る必要があります」(佐藤氏)。

人類が誕生して以来、人間は様々な道具を生み出し進化させてきた。3DCGを使うことで「ボタンひとつで自動生成&効率化」が叶うのも強みではあるが、それは人の手でしか成し得ない部分に力を割くための手法のひとつにすぎない。3DCGは人の手が取り扱う道具である。3DCGで作られたゲームのいたるところに、「職人的なこだわり」や「作り手の思い」といった “人の手の痕跡” を垣間見ることができる。そんな職人たちの手に馴染むよう自由自在にカスタマイズできるのが、Mayaというツールの魅力なのだろう。


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