サッカー日本代表が、アウェーでオーストラリアを2-0で下し、7大会連続7度目のワールドカップ出場を決めた。勝てばワールドカップ出場が決まり、負ければ自力でのワールドカップ出場が消滅という大一番だったが地上波放送はなく、スポーツ配信サイト「DAZN」が独占配信した。
地上波放送なしにファンガッカリ
ツイッターなどのSNSでは、試合前から地上波で見られないことを嘆くユーザーの声であふれ返った。
地上波でやらないのかい!
サッカーワールドカップ予選、なんで地上波でやってない…
地上波で見せて欲しかった
サッカー、地上波中継無しって全くもって意味不明
中には、NHKに怒りをぶつけるユーザーもいた。
民放が、お金ないので放映権獲得できず…ならわかるよ!けど、こんな時のためにNHKがあるんじゃないんかい!何のための受信料だ!!NHKには加入してんのよ!
サッカー日本代表戦と言えば、2002年日韓ワールドカップのロシア戦では日本歴代3位の66.1%を記録するなど、テレビ局にとってかつては「ドル箱」と言われるほどの人気コンテンツだった。
サッカー日本代表戦は「視聴率が確実に稼げるコンテンツ」として民放各局はもちろん、NHKまで参加して放送権の熾烈な獲得競争が繰り広げられてきた。アウェー戦とは言え、公式戦が地上波で放送されないことは考えられないことだった。
放映権料が4倍に急騰
娯楽やコンテンツの多様化に伴い、ここ数年、徐々に日本代表戦の視聴率は落ちてきてはいた。しかし今回、地上波で放送されなかった直接の原因は視聴率低迷ではない。
端的に言えば、放送権料の高騰だ。ワールドカップアジア予選の放映権の販売元であるアジアサッカー連盟が、放映権を管理する「フットボール・マーケティング・アジア」と結んだ契約は、2021年から2028年までの8年間で総額20億ドル(約2400億円)とも24億ドル(約2900億円)ともいわれている。2017年から2020年までの前回の契約と比べると、実に4倍に膨れ上がった。
民放各局はただでさえ視聴率が低迷し、広告収入も右肩下がりの状況にある。急騰した放映権料にどのテレビ局も手出しできずにいたところ、昨年8月にDAZNが名乗りを上げた格好だ。
ネット上では、独占放送するDAZNを叩く意見も散見できた。しかし、DAZNが手を挙げなければ、アジア最終予選の日本代表アウェー戦が一切見られなかったことは、事実として認識する必要がある。
関係者はサッカー人気低迷を危惧
日本代表のワールドカップ出場が決まるかもしれない大一番を地上波で放送されない異例の事態に危機感を募らせた日本サッカー協会の田嶋幸三会長は先月、「考え得ることは交渉したい。最後まで努力する」と述べていた。しかし、その直後にDAZNは次のような緊急声明を発表した。
本日報道にありました、公益財団法人日本サッカー協会様よりコメントがございました(中略)オーストラリア戦の無料放送に関する弊社DAZNとの交渉についてお知らせいたします。日本サッカー協会様からは一度条件のご提案をいただいた事実はございますが、ご提案内容がすでにDAZNにご加入いただいているお客様やファンの皆様にとってフェアなものではなく、両者の共通認識として交渉はすでに終了していると捉えております。
DAZNもビジネスである以上、安易に無料配信に踏み切ることはできなかったのだろう。ただ、関係者の中には日本代表戦が地上波放送されなかったことに、サッカー人気が低迷してしまうのではと危惧する向きも少なくない。
J2リーグに所属する選手の1人はサキシルの取材に対して、次のような本音を語った。
「代表戦が盛り上がると、Jリーグも盛り上がるんです。今回、大逆転でワールドカップ出場を決めて、その様子が地上波放送されていれば、この週末のJリーグはかなり盛り上がったと思うだけに残念です」
別のJリーグ関係者は次のように語る。
「代表戦の地上波放送で初めてサッカーを見たという人が多いんです。そういった人が地上波放送の減少とともに減ってしまうと、サッカーは代表戦であっても一部のマニアしか見ないコンテンツになってしまいます。最終的にサッカー人気の低迷につながってしまうでしょう。」
海外では、国民の関心が高い試合を「公共財」として、無料放送を義務付けている例が多々ある。普段から、「日本のサッカー界、スポーツ界の発展のため」を強調しているDAZNには今回、日本のサッカー界のために一肌脱いでほしかったのが、多くのサッカーファンの本音ではないだろうか。